ホールの中で唯一の女人として目立つイネスに、あらゆる視線がつきまとっていた。
オスカルの汚らわしい目つきに気づく者もいるだろう。
それは計画された目的において、有用ですらあるかもしれなかった。
誰にも言葉を挟ませないよう、
合わせてくる視線をことごとく無視しながらイネスは歩を進める。
ネタバレ注意
ここから先は、重大なネタバレを含みます。
第15章「人間と獣の時間」15章-㉓|あらすじ
ダンテ・イハルとの接触
通り過ぎようとしたイネスの腕を、ダンテ・イハルが柔らかく掴んだ。
分かっていても構わないからと、遠慮もしない部類だとイネスは悟る。
ダンテはすぐに手を離し、謝罪した。
イネスはエスコートさせながら並んで歩き始めた。
以前の警告が衝動だったのか計画的だったのか——と問うイネスに、ダンテは答えた。
「衝動的な裏切りだったということにしておきましょう。一方、今は非常に計画的ですよ」(引用:原作6巻)
ダンテはしばらく沈黙した後、言葉を選ぶように続けた。
侍女は信頼できるか。
食事を運ぶ侍従は。
料理人は。
幼い頃からイネスを診ていた女医は——。
イネスの足が止まった。
ダンテの告白
薬剤師の店に入り込んだ者が、イネスに処方された薬に含まれる薬草の一つを、
「似たような効能がある」別の物と差し替えたのだという。
メンドーサで20年以上続けている薬剤師ですら見たことのない、希少な珍品だったとか。
ダンテはイネスの手のひらに、乾燥した草を載せた。
不格好に撚り合わせた縄のような細長い葉が、茎にびっしりと付いていた。

「バルカのサルタ。そこでは至る所に生えており、
『パノテ』という名で呼ばれているそうです」
バルカ……
アリシア・バルカ。アリシア・バルカ。アリシア・バルカ。アリシア・バルカ……
(引用:原作6巻)
頭の中で、その名前が繰り返された。
「セニョーラの探索は、その女医が利用している薬剤師やその助手、そして彼らよりもさらに深い場所まで入り込まなければなりません。」 (引用:原作6巻)
望めば望むほど、遠ざかっていた
イネスは鋭く笑い声を上げた。
「そうなさった後には、セニョーラがなぜ今まで子供を授かることができなかったのか、その理由を知ることになるでしょう。」 (引用:原作6巻)
ーーあるいは、誰のせいだったのかも。
イネスは手に握っていたものを、手首に結んだリボンの中へかろうじて押し込んだ。
視界がめまぐるしく回る。
ダンテに背を向けたまま、イネスはこれまで自分の手で捨ててきた薬たちのことを考えた。
あるいは、それを飲み込んだ瞬間を。
切実ではなかった時。
ただ、母親のあらゆる思惑が忌々しかった頃に——。
そうしてカッセル・エスカランテを愛し、すべてがもどかしくなったのだ。
十回のうち九回は投げ捨てていたものを、
ある瞬間からは半分、またある瞬間からは十回すべてを飲み込んだ。
切実だったから。
もしかしたら、時間はそれほど多く残されていないかもしれないから。
望めば望むほど、遠ざかっていたということか。
願えば願うほど、自分自身で壊していたも同然だった。
笑うしかなかった。
イネスの周囲では静かに、すべての答えが姿を現し始めていた。
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📖「6巻の読み方はこちら」
→6巻以降の読み方ガイド
※本記事の人名・地名は原作ベースの仮訳です。今後の公式翻訳により表記が変更される可能性があります。
📕 第15章まとめはこちら
→ 出征前夜までの全展開を整理(ネタバレ)