🌹 本記事は『バスティアン』原作77話をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分は原作の表現を引用しています。
テオドラとの密談から一夜が明けた。
オデットは決意を固め、罠を仕掛け、父のもとへ向かった。
同じ朝、テオドラの家では思わぬ知らせが舞い込み、
病室のディセン公爵は我を失っていた。
それぞれの思惑が交差する中で、
オデットだけが静かに、一手ずつ駒を進めていた。
森の道で
オデットは散歩道ではなく脇道へと手綱を引いた。
馬は賢く、すぐに方向を変えた。
二つの邸宅の中間にある黒い森の入り口で、
オデットは馬を止めた。
テオドラがこの家に間者を潜り込ませている。
そうでなければ、オデットの予定や動線を完璧に把握して罠を仕掛けることなど不可能だった。
──モリー。
奥様を間近で監視できる立場にありながら、
本家と密かに連絡を取り合っても目立たない使用人。
この屋敷で働いた期間が短く、主に対する愛着がない分、裏切るのも最も容易なはず。
どう考えても、モリー以外にいなかった。
オデットは白樺の幹に手綱を括りつけ、森の中へと歩を進めた。
モリーは予想通り、餌に食いついた。
使いを終えるや否や、あの子は森へ駆け込んでいった。
オデットは庭園と森を一望できるバルコニーから、その光景を見届けていた。
裏切られたと知っても、驚きはなかった
何より、それはすでに過ぎ去った過去にすぎなかった。
モリーとの対面
道の中ほどに差しかかった頃、馴染みのある声が聞こえた。
モリーは野の花を両腕いっぱいに抱えていた。
にこにこと花を差し出す姿がまるでティラのようで、つい心を許してしまっていた。
間者の役目を隠すための贈り物をありがたがるなんて──今にして思えば、本当に滑稽なことだった。
「お使いは無事に済ませたの?」
オデットは怒るでもなく、静かに問いかけた。
「申し訳ありません、奥様」
涼しい顔で謝罪したモリーは、笑みを浮かべたままオデットに歩み寄った。
一片の罪悪感もないその様子に、この少女に大役を任せた理由が分かる気がした。
「今後、本家との連絡はあなたを通して行えばいいのね?」
「はい。奥様が望まれるなら」
ぞくりと鳥肌が立ったが、オデットは表情に出さなかった。
「それなら戻って、ご主人にこう伝えなさい。バスティアンの介入はない、と。それから、私の返答は父に会った後に聞けるだろう、とね。」
モリーの姿が道の端に消えていくまで、
オデットは黙ってその場に立ち尽くしていた。
少なくとも、一つの心配事は減った。
テオドラの朝食
同じ朝、クラウヴィッツ家の朝食の席では、
ジェフ・クラウヴィッツが上機嫌で戻ってきた。
損害を挽回できる投資先を見つけた。
とてつもない採掘量を持つダイヤモンド鉱山で、すでに大儲けした大口投資家も少なくない。
ヘルハルト家もその一人だという。
うちでも緻密に調査した、クリーンだ、疑わしいところは全くない、と。
「それならよかったわ。」
テオドラはひとまず、当たり障りのない言葉で夫の幸運を祝った。
ジェフ・クラウヴィッツは叩き上げのベテラン事業家だった。
短気な性格のせいで時に軽率な判断を下すこともあったが、つまらない詐欺に引っかかるような愚か者ではなかった。
あっという間に準備を終え、ジェフとフランツは屋敷を出ていった。
バスティアンが牙を剥く以前のバラ色の時代に戻ったような気分になる、
爽やかな秋の朝だった。
──「バスティアン」
クラウヴィッツ親子を乗せた車が遠ざかった後、
テオドラはその名前を思い出した。
身を潜めて静かに待ち、一瞬で獲物の息の根を止める。
本拠地を移してきた時も、利権を奪い取った時もそうだった。
もし彼が、まだ隠し持った手札を残しているとしたら。
安易につかむにはあまりにも完璧すぎる幸運だった。
——まるでネズミ捕りの中の餌のように。
そこへナンシーが近づいてきた。
袖の中から封筒を渡すと、足早に去っていった。
森の向こうから届いた、モリーからの手紙だった。
病室のディセン公爵
もしかしたら、回顧録を出版できるかもしれない。
ふと、その考えに至ったディセン公爵の瞳がきらめき始めた。
帝国の皇女と交わした世紀の愛。
悲劇的な没落。
娘が犯した罪の犠牲者となるまでの経緯。
これだけの話なら瞬く間にベストセラーになるはずだ。
我を忘れて呼び出しの鐘を鳴らしながら、介護人を大声で呼んだ。
しかし、待てど暮らせど来なかった。
花瓶、水のグラス、枕も投げつけた。
いくら待っても来ないオデットへの怒りは、今や恐怖に近くなっていた。
金と権力を持つ夫がいるのだから、もう代案を見つけているかもしれない。
この病室で毒でも盛られて殺されたら──。
抑えきれない不安が理性を蝕み、
ディセン公爵は不自由になった自分の脚を叩きながら泣き叫び始めた。
これもすべて、ティラを孤児院に送るという決断に反対したヘレネが招いた悲劇だった。
夫を誘惑した下女と、その私生児まで受け入れた皇女殿下の高潔な人格が、
復讐の刃となって返ってきたのだ。
ディセン公爵は、いつものように責任の所在を他人へ押しつけ始めた。
再び鐘の紐を掴んだその瞬間、ノックの音が響いた。
介護人や医療従事者なら、わざわざこのような作法は取らないはずだった。
期待が湧き始めたその瞬間、ドアが開いた。
「オデット……?」
呆然とその名前を口にする間に、オデットが敷居をまたいだ。
紅葉のように赤いスカートの裾が波打った。
背後でドアを閉めたオデットは、恭しく会釈をした。
めちゃくちゃになった病室の様子が見えていないかのように、落ち着いた態度だった。
ディセン公爵はただオデットを見つめることしかできなかった。
「お父様が望まれることが家族全員の不幸だとしたら、成功しましたね」
ベッドの一歩手前で立ち止まったオデットは、挨拶もなしにそう言った。
表情と呼べるものがない青白い顔。
罪悪感の痕跡はどこにもなかった。
冷たく輝く瞳の鋭さに圧倒されたディセン公爵が唾を飲み込んでいる間に、
オデットが最後の一歩を詰め寄った。
「まさか、あんな手紙が、あの人の手に渡ることがお父様にとって得策だとお考えだったのですか?」
「あの人? お前に送った手紙が一体誰の手に渡ったというんだ?」
ディセン公爵は呆れたように聞き返した。
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