バスティアン原作|ロスバイン最後の七日間④|私の隣で眠ってください【ネタバレ】

バスティアン原作|ロスバイン最後の七日間④, 私の隣で眠ってください バスティアン

前回までのあらすじ

深夜、バスティアンの部屋から激しい物音が聞こえてきた。
鍵のかかったドアの内側で、彼は一人、最後の武器を手に取るかどうかを考えていた。
そして——手放すことを選んだ。


ロスバインの町へ

午前のレッスンの後、オデットはジェンダース伯爵に電話を入れた。

「ご理解いただきありがとうございます、ジェンダース卿。それでは、水曜日にお目にかかりましょう。」

今日の午後と明日のレッスンの予定を、すべて変更した。
自分でも理解できない選択だったが、オデットは決断を覆しませんでした。

レッスンを終えて農場を出ると、バスティアンが街路樹の木陰に自転車を停めて待っていた。

自分の欲望のために安定した生活をかき乱していく男が憎らしく、
一方でありがたかった。

おかげで彼女もまた、後悔のない別れをする機会を得たのだから。
残りの時間を、バスティアンのように利己的に過ごす。
心の赴くままに。

「ロスバインの街中へ行ってください。美味しいコーヒーを出すカフェがあるんです。」
(引用:原作178話)

「私が昼食を奢りますから。
あなたはそこでコーヒーを奢ってください。」

力強くペダルを漕ぐバスティアンのおかげで、自転車はあっという間に村を後にしました。
騒がしい広場から、色とりどりの野花が咲き乱れる野原へ、そして鈍行列車が走る線路沿いの道へと、景色が変わっていく。

夏至に近づいた太陽の勢いは強かったが、風が涼やかでそれほど暑くはない一日でした。
オデットは顔を上げ、目にまぶしい夏の空を見つめた。

素敵な食事をした後、
クリームをたっぷり乗せたコーヒーとチョコレートケーキを食べようと思っていた。

あの日、海軍省前の噴水台で長い間待ち続けた、ラッツでのあの夏の日。
もし夫が来てくれていたなら、一緒にしたかったことだった。

帰宅

外出は完璧だった。
近所で最も有名なレストランで食べた昼食は美味しかったし、
眺めの良いカフェのテラスで楽しんだコーヒーも期待以上だった。

それだけで十分だった。
田舎の村には少し不釣り合いな、黄色いシフォンドレスを選んだことさえ、後悔しなかった。

家に戻ると、バスティアンは再び自転車を停めておいた場所に戻っていった。

「用事があります。遅くとも夕食までには戻るようにします。」(引用:原作178話)

「カール・ロヴィスさんが、
ここに一体何の用事があるんですか?」

「それは個人的な事情なので、お話ししづらいですね」

オデットは、力なく苦笑しながら頷いた。
バスティアンは結局、行き先を明かさないまま、道の向こう側へと去っていきました。

血の痕跡

午後、オデットは裏庭の畑と花壇に水をやり、
振り返ると、バスティアンが洗って干したらしい衣服が見えました。

乾いた洗濯物を取り込んだオデットは、ふとバスティアンの部屋へ向かいました。
どんなに叩いても開かなかったドアの前に立つと、昨夜の記憶が蘇った。

「私は一体、どんな悪夢になってあなたを苦しめているのだろう?」(引用:原作178話)

抵抗なく開いたドアの向こうは、いつもと同じ殺風景な部屋だった。

洗濯物を畳んだオデットは、
せめてベッドだけでも整理しようと布団をめくった瞬間、それを見つけた。

——血の固まった跡

何度見直しても、結論は変わりませんでした。

オデットは窓辺に立ち尽くしたまま、
しばらくの間、血のついた布団を見下ろしていた。

昨夜の激しい物音が、再び耳元をこだまするような気がした。

——知らないふりをするのが最善の配慮だ。

そう分かっていても、オデットは放ってはおけなかった。

あまり水をつけないよう注意しながら丁寧に染みを落とし、
よくはたいて物干しロープに干した。

そして、バスティアンの部屋に戻ったオデットは、古いマットレスをベッドの下に下ろし、
力いっぱい廊下まで引きずり出した。

ありったけの力で、自分の寝室の敷居を越えて運び入れた。

そばにいる

夕食を終えた後、オデットはバスティアンの前に立ちはだかりました。

「残りの夜は、私のそばで眠ってください」

バスティアンは呆れてフッと笑いました。

「私は昨晩のようなことを、もう二度と経験したくありません」

オデットは震える両手を握りしめながら続けた。

「私がそばにいたところで、悪夢を止められるわけではありません。
それでも、何が起きているのか分からず胸を痛めるよりはましです」(引用:原作178話)

バスティアンは自分で戻すと言いましたが、オデットは首を横に振りました。

「私の家だから、決定権は私にあります」

結局、バスティアンは従いました。

その夜、小花柄の布団で眠るバスティアンの姿を、オデットはそっと見つめた。
意外にもよく似合っていた。

そう思ったけれど、それは心の中だけに留めておくことにした。

問いかけ

夜が更けた頃、オデットはベッドの端から身を乗り出し、
眠っているバスティアンをそっとのぞき込みました。

布団の端を上げてやろうとした瞬間、バスティアンがパッと目を見開いた。

驚いたオデットはバスティアンの上に落ちてしまった。
速く打つ心臓の鼓動が、密着した体を通して伝わってきました。

「あの頃の私はあなたの何だったのだろう?」(引用:原作178話)

オデットは、その熱い唇に口づけすることで、問いかけた。

ぎこちなく始まった口づけは、次第に熱を帯びていきました。

バスティアンは抗おうとしましたが、
指先だけで振り払えるはずの女に、なすすべもなく囚われていた。

やがて口づけは激しさを増し、バスティアンはオデットを強く抱きしめた。
しかし途中で、バスティアンは動きを止めました。

月明かりの中、焦点が定まらないオデットの青緑色の瞳を見つめた。

静かに「バスティアン」と名前を呼びながら、オデットは彼の頬を包み込んだ。
か弱い力でしかないはずなのに、バスティアンは抵抗できなかった。

しかしバスティアンは、ついにオデットから顔を背けました。

「君は憐憫に目がくらみ、俺はそんな君に目がくらむ」(引用:原作179話)

自嘲しながら、バスティアンはオデットをそっとベッドに戻し、布団をかぶせた。

オデットは、去っていく彼の背中を見つめていた。
彼はまた、自分を哀れんだのだと思った。

寝室から去るバスティアン

一方、バスティアンは、これ以上彼女の優しさにつけこむようなことはしたくなかった。

同じ夜を過ごしながら、二人はまるで違う結論へ辿り着いていた。

幻滅の果て

来客用寝室へ戻ったバスティアンは、
ひんやりとした壁にもたれかかって煙草に火をつけた。

下半身はまだ、はち切れそうに痺れていた。

ひたすら煙を吸い込んでも無駄だった。
惑わす魔女のように献身した聖女の記憶は、なかなか薄れない。

ひどい自己嫌悪に陥りながらも、
苦痛に近い欲望は、すでに理性の統制を外れていた。

もう一日後に迫った決別が、むしろ幸いだと思える頃、
夜はようやく終わりへ向かっていった。

誤解のまま、決意する

あの夜、開かないドアの向こうから聞こえてきた一言が、胸につかえていた。

——「もうやめよう」

辛辣ではなかったからこそ、一層冷淡に聞こえた。
バスティアンは必ず約束を守るだろう。

あの日の会話は、そう確信させるのに十分だった。
ならば次はオデットの番だった。

一夜が明けると、オデットの中で何かが静かに固まっていた。

——バスティアンが途中で止めた夜。
その意味を、オデットはこう理解した。

オデットは、バスティアンが罪悪感からここへ来たのだと思っていた。

サンドリンとの婚約を解消したのも、
崖っぷちに立たされた女を見捨てられなかったから。

途中で止まった夜も、あの夜の「もうやめよう」も、
すべてその延長線上にあるのだと。

結局、自分たちは互いを縛る足枷だった。
ならば、せめて後悔だけは残したくなかった。

明日には永遠の別れを迎える男なのだ。
一時の感情に流されて後悔するような真似はしたくなかった。

だから、いっそのことさらに厚かましく振る舞うつもりだった。
すでに品位も体面も守る道は遠ざかってしまったのだから。

朝、裏庭でポンプの水で顔を洗うバスティアンと目が合った。
オデットは慌てて身を翻した。


バスティアンがロスバインへ来た本当の理由を、オデットは知りません。
鍵のかかったドアの内側で何があったのかも。
あの夜、バスティアンが手放すことを選んだことも。

何一つ解けない誤解を胸に抱いたまま、
オデットは残りの時間へと向かっていきます。


たった一言で、何かが変わったのかもしれません。
けれど二人は、その一言を最後まで口にできませんでした。

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