バスティアン原作|ロスバイン最後の七日間⑨|平穏と自由——最後の朝食【ネタバレ】

バスティアン原作|ロスバイン最後の七日間⑨|平安と自由——最後の朝食 バスティアン

🌹 漫画では描かれていない原作展開を含みます。
出征後、二人の関係は完全に壊れました。
誤解による復讐、監視、妊娠、流産——。
愛していたはずなのに、二人は何度も互いを傷つけました。

前回までのあらすじ

「もう欺瞞の夜は終わった」
——オデットの額に長く口づけしたバスティアンは、ついに体を起こした。

朝へと向かう足音が、
昇り始めたばかりの水曜日の日差しの中へと静かに染み込んでいった。

制服

白い光の中で目を覚ましたオデットは、空になった隣の席を見つめた。

まだ6時。
まさか、もう発つはずもない早い時間だった。

急いでベッドから降り、
身支度を整えたオデットは、客室へ足を向けた。

ドアを開けると、いつもと同じようで、違う光景が広がっていた。
トランクがクローゼットの外に出ていた。
バスティアンの所持品も、すべて姿を消していた。

残っているのは、クローゼットの扉にかかっている制服だけでした。

オデットは、慎重な足取りで敷居を越え、
制服の前に近づきました。

きらびやかに光る記章や勲章を撫でてみると、指先が細かく震えた。

すでに全ての準備を終えていることから、
出発時間は予想より早いのだろうと思った。

静かに客室を後にしたオデットは、台所へ降りて朝食の準備を始めました。

パン生地をこね終えた頃、しわの寄っていたシャツを思い出した。
考えた末に、オデットは踵を返しました。
廊下を過ぎ、階段を上る足音が、朝の光の中へと静かに染み込んでいきました。


シャツには、アイロンの温もりがかすかに残っていた。

バスティアンは、着替えの動作を止め、
手に持ったシャツに視線を落としました。

オデットが来たようだった。

そういえば、ズボンの折り目も一層くっきりしていた。

バスティアンは、深く息を吸い込みながら温かいシャツを着た。
この場所でオデットと共に過ごした幸福な瞬間が、再び意識の表面に浮上した。

風に波立つ水面のように揺らめいていた喉仏は、
制服をすべて着終えた頃になって、ようやく静かになった。

将校帽とトランクを持って部屋を出たバスティアンの足音は、
階段を数段残したところで不意に止まりました。

今しがた身を清めたような、澄んだ顔をしたオデットが、階段の下に立っていた。
まだ濡れた髪をきちんと乾かしもせず、エプロンをつけた姿だった。

「時間が本当にないというのでなければ、
朝食を食べていってください。」

柔らかな響きを持った声が、音楽のように流れてきた。

握り合った両手を見下ろしていたオデットが、
再びまっすぐな視線を上げる。

朝食を摂るくらいの余裕は残っていたが、断るのが正しかった。
時間を引き延ばすほど傷が深まるだけだから。

だが、愚かな心は、たった彼女の眼差し一つにむなしくも崩れ去ってしまう。

「ええ、そうしましょう」

バスティアンは、結局、自らの意志に背く答えを口にしました。

最後の朝食

「お茶を淹れましょうか?」

「いや、コーヒーをお願いします」

その節度があり優雅な動作のどこにも、熱烈にオデットを渇望していた恋人の面影は残っていなかった。

——ここまでだ。

バスティアンが引いた線を、オデットは淡々と受け入れた。
すでに予定されていた結末だ。今さら驚くこともない。

台所の窓越しに、バスティアンは自分で直した椅子に座り、遠い空を眺めていた。
オデットの方には視線を向けない。

じっと見つめていても同じだった。
髪の毛一本すら乱れていない姿が、彼女を一層みすぼらしくさせた。

——こんな終わり方は嫌だ

こみ上げてくる激しい感情を飲み込んだオデットは、急いで2階へ上がりました。

冷たくなったバスティアンの態度はもう理解していた。
ティラと別れた時の自分もそうだったからだ。
バスティアンもそうなのだろう。

オデットは、その配慮を無駄にしたくなかった。

寝室へ向かったオデットは、慌てて身につけていた服を脱いだ。
そして、新しく仕立てたモスリンのドレスに、水色のウエストバンド——。
バスティアンと再会した日に着ていた服を、もう一度選んだ。

化粧台の前に座ったオデットは、静かに息を整えた。

最後まで自分の感情にばかり囚われていたティラのように別れたくはなかった。
そんな姿でバスティアンの記憶の中に残るのは嫌だった。

その決心が、弱っていく心を支えていた。

いつの間にか空高く昇った夏の太陽が、
力いっぱい黄金の櫛を握りしめる青白い手を照らしていました。

今日の占いはどうでしたか

食事の準備は、時計の針がちょうど8時を指した頃に終わった。

最後に焼きたてのパンを持ってきたオデットは、
静かに向かいの席につきました。

身なりを整えた彼女の上に、
葉が茂った木の枝の間を通り抜けてきた朝の光が降り注いだ。

まるで、あの日のベールのようだ、とバスティアンはふと思った。
あの夏の日、彼のもとに来た花嫁の上にかかっていたレースのベール。

昨日とは違うレースの敷物が敷かれた食卓の中央には、
咲いたばかりのバラが生けられた花瓶が置かれていた。
一緒に買いに行った市場で買ってきたものだった。

ティースプーンと、角砂糖を挟むトングも見覚えがあった。
覚えていることすら気づかなかった記憶が、心を切り裂く。

目が合うと、オデットは柔らかな微笑みを浮かべて見せる。
その品位ある姿が、最後のいらぬ心配を消し去った。

茹で卵を割る音が、深まりつつあった沈黙の中へと染み込んでいった頃、
バスティアンはひびが入った卵が入ったエッグカップをオデットの前に差し出した。

「今日の占いはどうでしたか?」

戸惑いながらそれを受け取ったオデットの目が赤くなった。

良い別れをしたかった。
心からそう願っていた。

なのに、なぜこんな気持ちになるのか。
自分でも理解に苦しんだ。

——しばらくここにいてください。
切にそう願った。

——もう来ないでください。
その願いが叶うことになったのに。

オデットは深く頭を下げたまま、バスティアンの卵を見つめた。
視界はぼやけていたが、さほど大きな問題ではなかった。
オデットは熟練の嘘つきだったから。

「穏やかな水面ですね」

オデットはいつものように、精一杯の嘘をついた。
「この水面のように、すべての日を平穏に過ごせる運勢ですよ」

両目にいっぱい溜まった涙を拭い、
オデットはかすかな微笑みを浮かべた顔で、再びバスティアンと向かい合った。

彼は、でたらめな占いが本当に叶ったかのように、
穏やかな笑みを浮かべて頷きました。

「では、私があなたの占いをしましょう」

わずかないたずらっぽさがにじむ眼差しは、ひどく優しかった。
オデットはその目を見つめながら、卵の殻を割りました。

——鳥の翼のようだった。

いかにも真剣な態度で割れた卵の殻の形を確かめていたバスティアンが、占いの結果を告げた。

「空を飛ぶ鳥のように、自由になるでしょう」(引用:原作183話)

平穏と自由

笑みを消した顔には、静かな光が宿っていた。

「私たちの契約は、本日をもって終了しました」(引用:原作183話)

卵を返したバスティアンが、丁重に、そして淡々と終わりを告げた。

オデットが呆然とした目でまばたきする間に、
木の枝に座って歌っていた鳥たちが飛び立った。

離婚の手続き、報酬の再計算——バスティアンは一つひとつ、丁寧に告げていく。

「先に契約を破って莫大な被害を与えたのは、私でした。報酬なんて望んでいません」
(引用:原作183話)

しかし、バスティアンは、これは彼自身のために下した決断だから受け入れるようにと告げる。

間もなく軍用車が到着するだろう。
もうそろそろ立ち上がらなければならない時だった。

「あなたに与えた傷と苦痛を、お金で全て償うことはできませんが、それでもせめてこのように責任を取れば、心が少しは軽くなるでしょうから。」(引用:原作183話)

バスティアンは、いっそ狂ってしまいたい気持ちを抑えつけ、
ゆっくりと微笑みました。

「僕は、これから穏やかな水面のように平穏に流れていきます。」

角が丸くなった氷が、グラスの中で崩れる音が、
まばゆい日差しの中へと染み込んでいきました。

「だから、あなたは自由な鳥のように飛び立つことを願っています。」

——平穏と自由。

それぞれの占いを通り過ぎたバスティアンの視線は、
あの夏の日、ベールを払った瞬間から、ずっと彼を支配してきた、そしてこれからもそうであろう、美しい女の顔の上で止まりました。

「大変お疲れ様でした。どうか幸せに、レディ・オデット」(引用:原作183話)

二人がそれぞれついた、精いっぱいの嘘でした。


残された時間は、あとわずか。
分かれ道は、すぐそこにありました。

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分かれ道——追わないことで証明した愛


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