🌹 本記事は『バスティアン』原作80話をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分は原作の表現を引用しています。
海軍祭が近づいていた。
テオドラの期限も迫っていた。
オデットは書斎に入る口実を作り、読みもしない本のページをめくりながら、
五感だけをひたすらバスティアンに集中させていた。
最初のドミノ
週末の午前、書斎でバスティアンは電話を受けていた。
受話器の向こうからトーマス・ミュラーの報告が届いた。
父が罠にかかった。
退屈な探り合いを続けるかと思いきや、一瞬でさっと餌に食いついた。
残るは、逃げられないほど深く引きずり込むことだけだった。
残された変数は、テオドラ・クラウヴィッツくらいだ。
しかし彼女には、夫を過剰に愛しているという致命的な欠陥があった。
夫の寵愛を失うくらいなら、むしろ不条理を我慢して耐える女。
そのおかげで父は長年にわたり愚かな独裁者として君臨することができた。
バスティアンがとても感謝している側面だった。
「まだもう少し見守ることにしましょう」
足を抜け出せない地点まで来るまでは、勝利感に浸らせておく方が良かった。
鉱山はドミノの起点となる駒にすぎない。
これをうまく倒すことができれば、
次から次へと罠が連鎖的に作用するように仕組まれていた。
通話を終えて振り返ると、オデットが立っていた。
机の端にティーセットを置いたオデットが、静物のようにじっと佇んでいる。
「ロヴィスの代わりに参りました」
バスティアンは、
机の前に座ってティーカップを手に取ることで、返事の代わりとした。
書斎に残ったオデット
紙の上を動くペンの音さえ止まると、息詰まるような沈黙が訪れた。
オデットは一ページもまともに読んでいない本を広げたまま、
五感をひたすらバスティアンにだけ集中させていた。
テオドラの要求は具体的だった。
バスティアンが確保した投資家リストとダイヤモンド鉱山に関する書類。
期限は海軍祭の開始前まで。
「あまりにも切迫したスケジュールだ」というオデットの抗議は黙殺された。
──きっとあなたに大きな被害を与えることになるでしょう。
オデットは罪悪感をにじませた眼差しでバスティアンを見つめた。
彼はただ仕事に集中している様子だった。
同じ空間にいる招かれざる客の存在をきれいに消し去ったかのように。
バスティアンはとても忙しく生きる男だった。
海軍省の仕事と、母方の祖父から引き継いだ会社の仕事で多忙を極めていた。
二つの歯車が隙間なく噛み合って回っているかのような人生だった。
おそらくバスティアンは復讐をしたがっている。
貴族の家柄の妻を得るために本妻を捨て、息子さえも顧みなかった父。
十分に憎むに値する相手だった。
もしかしたら、これはその復讐に支障をきたすことになるかもしれない。
心が揺らぎ始めると、オデットはぎゅっと目を閉じた。
スカートの裾を握りしめた手の震えが止まるまでには、
深呼吸を何度も繰り返す時間が必要だった。
——しかし、
ティラを守るためには、必ずやり遂げなければならないことだった。
決心を固めたオデットは、ゆっくりと顔を上げてバスティアンを見た。
ちょうど葉巻に火をつけたバスティアンの視線も、オデットに向けられた。
じっと見つめ合う二人の眼差しの間で、煙がゆったりと立ち昇った。
オデットは微笑んだ。
それ以上の言葉は続かなかった。
回復可能な損失
——しっかりしなさい。
この男のためにも、
ティラの件が明るみに出るという不測の事態だけは防がなければならなかった。
スキャンダルが起これば、戦争の英雄としての名声は致命傷を負うしかない。
知らなかったとすれば馬鹿だと嘲笑され、知っていて隠蔽したとすれば共犯者扱いを免れない。
父への復讐が未完成に終わったとしても、バスティアンは依然として裕福だろう。
しかし、汚された名誉は永遠に戻すことはできないはずだ。
オデットは、身分を克服するために命を懸けて出征し、
戦ってきた男からそれを奪いたくはなかった。
それよりは、むしろ金銭的な打撃を負わせるほうがましだろう。
少なくとも、それは回復可能な損失なのだから。
決意を固めたオデットは、ショールを留めているブローチをそっと外した。
バスティアンは書類の最後に署名をしている最中だった。
頃合いを見計らったオデットは、
ソファのクッションと肘掛けの隙間に、素早くブローチを押し込んだ。
バスティアンと一緒では、何も探し出すことができなかった。
一人で書斎に入れる正当な口実が必要だった。
バスティアンが再びソファの方に視線を向けたのは、
ブローチを無事に隠した後のことだった。
オデットは今回も微笑みを盾にした。
マルグレーテの乱
バスティアンが視線を落としてしばらく経った頃、
ドアの向こうからクンクンという鳴き声が聞こえてきた。
引っ掻く音もその後に続いた。マルグレーテだった。
バスティアンは机の前から立ち上がり、大股でドアを開けた。
驚いたマルグレーテがキャンキャンと吠えたてた。
しかしバスティアンは、慌てている子犬を見下ろしてから、一歩後ろに下がった。
まるで道を開けてやるかのように。
マルグレーテはその隙を見逃さず書斎の中に走り込んできた。
バスティアンは何事もなかったかのように再び机の前へ戻った。
もう一人増えた招かれざる客のことなど、これ以上気にしないと決めたかのように。
「ダメよ、メグ。悪いことよ」
苦しげな鳴き声を出していたのも束の間、
マルグレーテはすぐにまた上機嫌になり、尻尾を振り始めた。
戦意を失ったオデットが思わず深いため息をついたとき、
低い笑い声が聞こえてきた。
バスティアンがくすりと笑いながら、書類をめくっていた。
冷淡だった顔つきが、ひときわ柔らかくなっていた。
「メグがあなたに謝りたいと言っています」
勇気を出したオデットはマルグレーテを抱いて机に近づいた。
心臓の鼓動が速くなっていった。
「マルグレーテはあなたのことが好きなんですよ」
「君の犬は少し違う考えを持っているようだが?」
「恥ずかしがっているだけです。淑女はたいてい、好きな紳士の前ではにかむものですから」
自分でも呆れるような詭弁の間に、
ガルルルと、歯をむき出しにしたマルグレーテの鳴き声が漏れ聞こえてきた。
バスティアンはやがてハハッと、豪快な笑いを弾けさせた。
オデットはそこでようやく息をつくことができた。
もう一歩、近づいてみた。
バスティアンは警戒しなかった。
書類の文字が読めるほど近くまで寄っても、同じだった。
オデットは安堵の微笑みを浮かべ、唸り声を上げるマルグレーテを撫でた。
予想していたよりも、ずっと壁の低い男だった。
幸運なことだった。
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