何がバスティアンを追い詰めたのか②|72話 あの光のように、重なりそうになった距離

何がバスティアンを追い詰めたのか②|72話 あの光のように ─ 観覧車の前で、重なりそうになった距離 原作本編

🌹 本記事は『バスティアン』原作72話をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分は原作の表現を引用しています。

観覧車に乗ろうとしたその瞬間、係員が立ち入り禁止のチェーンを掛けた。
回転軸の異音。点検のため、今夜の搭乗は終了。

今夜ずっと憧れていた観覧車だった。
だが、その扉は二人の前で閉ざされた。

オデットは落胆の色を消した顔でバスティアンを見つめ、
「大丈夫です」と言った。

でもバスティアンは、その言葉をそのまま受け取らなかった。

「本当に大丈夫ですか?」

踵を返したバスティアンがメリーゴーランドを勧めると、
オデットは穏やかに微笑みながら彼の袖の端をそっと掴んだ。

もうすぐティラと約束した時間だから。
たくさん素敵なものを見られたから、それで十分だからと伝えた。

「私は、複雑に遠回しな言い方をするあなた方の話法というものが、よく分からないんです、オデット」

立ち止まったバスティアンが、首をわずかに傾けてオデットと目線を合わせた。

「本当に大丈夫ですか?」

真っ直ぐな問いだった。

「はい。本当に」

オデットは一歩後ろに下がって頷いた。
瞳がかすかに揺れたが、声だけは落ち着いていた。

それ以上引き留められる前に、
手早く会話を締めくくって観覧車の前を離れた。

うまく整理できたと思った。

バスティアンの姿が消えてしまったことに気づくまでは。

ホットココア

ベンチに座って息を整えていたオデットは、ふと気づいて辺りを見回した。

バスティアンがいない。
一緒にその場を離れたはずなのに、姿が見当たらない。

悪い悪戯をされているのではないかと疑い始めた頃、バスティアンは何事もなかったかのように歩いてきた。
片手には、色鮮やかな紙コップが握られていた。

「受け取ってください。」

白い湯気の立ち上るホットココアが、オデットの手に押しつけられた。

ティラの話

約束の時間を過ぎても妹は現れず、オデットは何度も頭を下げた。

「本当にごめんなさい、バスティアン」

バスティアンは笑い飛ばしながら、静かに観察していた。
妹が何かをすればオデットが謝る——その繰り返しを。

二十歳を過ぎたばかりの若い女が、異母妹の母親のように振る舞っている。

「どのみち、腹違いの妹だろう」

バスティアンは率直に言った。
ディセン公爵が私生児に姓を継がせなかったことが、せめてもの救いではないか、と。

オデットはしばらく考えてから、慎重に答えた。
私生児として生まれたことはティラの過ちではない。
それは父の過ちなのだから、父が恥じるべきことだ。

「父は自ら、私の父であることを……放棄した方ですから」

低く囁く唇に、寂しげな笑みがかすめた。

それ以上、バスティアンはディセン公爵の名を口にしなかった。

「誰が何と言おうと、ティラは私の家族です。そして私は、絶対に自分の家族を恥じたりしません」

「果たしてティラ・ベラーも、それほどあなたを愛しているだろうか?」

「そうでなくても構いません」 

オデットは穏やかに笑いながら、バスティアンを見つめ返した。

ティラが胸を痛めるほど深く自分を愛してくれることは望んでいない。
それよりも、あの子が自分を好きでいてくれたらいい。
思い浮かべると、心が明るく楽しくなるような人。

「つまり……あの光のように、です」

最後の一口のココアを飲み干したオデットは、真っ直ぐな眼差しで観覧車を見上げた。
稼働は止まっていたが、照明だけはまだ夜空を照らしていた。

バスティアンはしばらく考えたが、よく分からなかった。
学んだことのない、外国の言語のように聞こえた。

もう少しで、届いた距離

「ですが、バスティアン」

魅惑的な声が静寂を渡ってきた。

観覧車に乗れなくなったことも、悪くないような気がする、とオデットは言った。
おかげで、ここで心ゆくまで眺めることができた。

観覧車の中にいたら、観覧車は見えない。
だから、乗れていたらこの風景は見られなかった。

「あなたのおかげで、素敵な思い出ができました。ありがとうございます、バスティアン」

——「次は一緒に乗りましょう。あのような観覧車なら、ラッツにもありますから」

バスティアンは気づかぬうちに、そう口にしていた。
まるで最後の別れの挨拶でも告げられているかのようなオデットの態度が、
焦燥感を呼び起こした。

オデットは返事をしなかった。
柔らかな笑みだけを浮かべて、空になった紙コップを捨てにベンチを離れた。

そしてそのまま、戻ってこなかった。
数歩先に立ち止まり、うっとりとした様子で観覧車を見上げていた。

待ちきれなくなったバスティアンは立ち上がり、
彼女の行く手を遮るように立ちはだかった。

驚いて視線を向けたオデットへ、バスティアンは手を伸ばした。
以前のように怯えさせないように。
欲しいものを、完全に手に入れられるように。

その手がゆっくりとオデットの顔を包み込み、視線を引きつけた。

重なり合ったオデットの瞳は、澄んだ穏やかな水面のように彼を映していた。
緊張の色がにじんではいたが、拒絶ではなかった。

頬を撫でていたバスティアンの手が、震える赤い唇に触れようとした、その瞬間。

——「お姉ちゃん!」

聞き覚えのある声が響いた。

ハッと我に返ったオデットが、慌てて後ずさりした。

バスティアンは素直にオデットを解放した。
限りなく柔らかい感触の残る指先を見つめている間に、オデットはティラの元へと去っていった。

ティラとの別れ

ギリス女学院の保護者行事を終えると、休暇も終わりに近づいていた。

はしゃいだティラの声が紅葉の校庭に響いた。
先生たちがお姉ちゃんのことを大好きなのがよく分かった、おかげで自分まで鼻が高い。
観覧車よりも高くそびえ立っているかもしれない、と。

オデットは優しく微笑みながら聞いていた。
感情が昂ると口数が増える子だった。

別れを前にした悲しさを隠そうとしているのだと分かっていたから、
指摘はしなかった。

校門の外に黒い自動車が見えた頃から、ティラの足取りは目に見えて遅くなった。
必死に笑おうとしているのに、目元はもう赤くなっていた。

オデットはティラのジャケットのボタンを留め直しながら、
次に会うときはマルグレーテを紹介すると伝えた。
昔から犬を飼いたがっていたでしょう?

「そんなの何の意味があるの。もうお姉ちゃんの家族は別にいるのに」

ティラは校門の向こうの自動車を睨みつけた。
オデットが冷静に諭すと、ティラは慌てて首を横に振った。

姉妹は並んで落ち葉の積もった道を歩いた。

「あなたがこうして元気に過ごしている姿を見られてよかった。ありがとう、ティラ」

「お姉ちゃんに感謝されることなんて何もないよ。お荷物でしかない妹なのに」

校門の前でティラがオデットの首元に抱きついた。

「バイバイ、お姉ちゃん。愛してる」

「元気に過ごしているのよ」

オデットは淡々とした声で答えた。そして小さく付け足した。

「愛しているわ、ティラ」

かすかな潤みがその言葉に滲んでいたが、
幸いにもティラは気づかなかったようだった。

オデットはそっと妹を突き放し、自動車へと歩み寄った。
すすり泣く声が聞こえ始めたが、振り返らなかった。

車窓の向こうへ

バスティアンの隣に座ると、ドアが閉まった。

車が速度を上げ始めてから、オデットはついに後ろを振り返った。
ティラが声を上げて泣きながら、手を振っていた。

「オデット」

バスティアンが名前を呼んだ。

遠ざかる風景からなかなか目を離せずにいると、
彼は自ら手を伸ばしてオデットの顔を正面へと向けた。

オデットは少し戸惑ったが、すぐに平静を取り戻した。
丁重にその手を押し退け、姿勢を正した。
謝罪の代わりに、短く会釈をした。

車はやがてカルスバール中央駅に到着した。

ラッツ行きの列車が、まもなく出発する時間だった。


【免責事項】

※翻訳方針については当サイトの翻訳・引用ポリシーをご確認ください。
※本記事は作品のテーマを考察するものであり実在の行為を推奨・肯定する意図はありません。
※作品の引用・翻訳は著作権法の範囲内で行い、引用元を明記しています。
※本記事は作品内容の分析・評論を目的としたものであり、原作の翻訳全文を掲載するものではありません。