泥の中の愛㊸|151話 生涯初となる逸脱 ─ 空っぽになったお腹と、見つからない犬

バスティアン|泥の中の愛㊸|151話 生涯初となる逸脱 ─ 空っぽになったお腹と、見つからない犬 原作本編

🌹 本記事は『バスティアン』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。会話部分は原作の表現を引用しています。
ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

目覚めたオデットが最初に聞いたのは、
ドアの向こうの、激しい口論だった。

そして彼女は、誰に告げられるよりも先に、
自分の体で、それを知ってしまう。

ドアの向こうの真実

午後の日差しの中で、オデットは目を覚ました。

お茶を飲みながらカタログを見ていて、意識を失った。
そこから先は空白のまま、手の甲の点滴の跡だけが、時間の経過を物語っていた。

「あの娘の人生を台無しにして、気が済んだのかと聞いているんです!」

ドアの向こうから響くのは、トリエ伯爵夫人の声だった。

「オデットは絶対安静が必要な患者です。声を荒げないでください」

落ち着いた低い声が聞こえてきた。
バスティアンだった。

状況を把握しようとベッドを降りた、その時——。

反射的に腹をかばった手が、異変に触れた。

日ごとに膨らんでいたお腹が、ぺしゃんこになっていた。

まだ意識がはっきりしていないのだと、結論づけようとした。
もう一度、ゆっくりと触れてみる。

虚ろに空っぽになった眼差しが揺らぎ始めたのと同時に、
ドアの向こうの声が続けた。

愚かな意地を張ったせいで子供を失っても、まだ懲りないのか。
もう二度と子供を授かることも難しい体になったというではないか——。

誤解を正してくれるはずのバスティアンの声は、最後まで、聞こえてこなかった。

赤ちゃん

沈黙の重みに耐えられず、オデットは踵を返した。

「赤ちゃん……」

潤んだ声が、金色の埃の漂う日差しに染み込んでいく。
必死にお腹を探り、子供の痕跡を探していた痩せた手は、まもなく力を失った。

トリエ伯爵夫人は、助けの手を差し伸べてくれていた。

バスティアンは、一言の相談もなく、独断でそれを拒んだ。

彼のもとを離れられなかったせいで、子供を失った。
そして、もう二度と母親にはなれない。

最後の句点を打つと、ひび割れた心が崩れ落ちた。

この悪夢から目覚めたい——その願いを込めて開けた窓から、雪の匂いの混じった風が吹き込む。
身を切るように冷たく、
決して夢ではあり得ない生々しい感覚だった。

生涯初となる逸脱

その頃マクシミリアンは、王立植物園の主席研究員への招聘を受けていた。

赴任先は、風光明媚な田園都市ロスバイン。
騒々しい首都の社交界への嫌悪も、決断を後押しした。

そして着任の条件のように、彼は一つの頼みごとをしていた。
静かに休息できる村と、良い物件を探してほしい、と。

『——親戚の妹が滞在する場所です』

用意しておいた言い訳を、彼は落ち着いて述べた。

オデットを助けると決めたのは、新年の始まりの日だった。
トリエ伯爵夫人との電話を一晩中思い返し、夜明けに決意を固めた。

一歩間違えば自分にも泥がはねる。
それが怖くて身を引けば、結局後悔するだろう。

ならば、いっそ無謀になってみよう——それは、生涯初となる逸脱だった。

計画は、オデットを連れ出した後、皇帝の力で事を収めるというもの。

そのためには、バスティアンに見つからない隠れ家が要る。
常識の通じないあの男は、行方を知れば決して諦めないだろう。

離婚手続きが終わるまでの保護者役を、マクシミリアンが引き受けた。

角を折った書類のページには、こぢんまりした石造りの家の写真。
彼の別荘から遠くない、閑静な村だった。

変死体と、消えた犬

警官が病院を訪れたのは、オデットが眠りについた頃だった。

モリー・ロスが発見された——アルデンヌ湾の海水浴場近くの下水道で、変死体として。
殺害の可能性が高いという。

じっと聞いていたバスティアンの唇が、斜めに歪んだ。

「もしかして、疑わしい容疑者はいますか?」

「さあ……。
思いついたらお伝えします」

バスティアンは、当たり障りのない返事で会話を終えた。

窓の向こうの夜空を見つめる眼差しが、ぞっとするほど冷たく沈む。

この辺りで復讐を終わらせるという決意は、もはや有効ではなかった。
最後の最後まで、とことんやり抜く。
使い捨ての駒を一つ始末した程度で、刑務所に逃げ込まれては困るのだ。

「もしかして、犬も一緒に見つかりましたか?」

マルグレーテが、行方不明になっていた。
モリーが連れていくのを、ドーラが見ていた。

白い毛の小さな犬。
首にレースのリボン。

遺体のそばにそんな犬はいなかった、と警官はきっぱり首を振った。

静かなため息とともに席を立ったバスティアンは、
何の役にも立たないとわかっていながら、丁寧に頼んだ。

「名前はマルグレーテです。必ず見つけなければなりません……どうかお願いします」

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※本記事は作品内容の分析・評論を目的としたものであり、原作の翻訳全文を掲載するものではありません。