何がバスティアンを追い詰めたのか④|74話 この結婚の証拠 ─ それぞれの計算が、動き出した朝

何がバスティアンを追い詰めたのか④|74話 この結婚の証拠 ─ それぞれの計算が、動き出した朝 原作本編

🌹 本記事は『バスティアン』原作74話をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分は原作の表現を引用しています。

クラウヴィッツ大尉夫妻の写真が、帝国最高の日刊紙に掲載された。

「英雄と美人」という賛辞とともに。

その朝、同じ写真を手にしながら、それぞれがそれぞれの思惑を動かしていた。

テオドラは罠を仕掛け、
バスティアンは服務申請書に署名し、
オデットはティーカップの前で静かに考えていた。

テオドラの朝

テオドラは皮肉な笑みを浮かべながら、今日の日刊紙を広げた。

古物商の孫を英雄と崇め奉る海軍省のレベルが情けなく、胸が痛む。
一面が見えないように折りたたんだ新聞をテーブルの端へ投げ捨てると、呼び鈴を鳴らした。

入ってきたナンシーが、袖の中から手紙を差し出した。オデット・クラウヴィッツの今週の予定が便箋いっぱいに整理されていた。最も好都合なのは、今日の午後になりそうだった。

オデットは招待を断ってきた。こちらが何を握っているのか、まだ分かっていない様子だった。

それならば、そろそろ動き出すべき時だった。

「外出の準備をしてちょうだい。ラッツへ行くわ。出発は正午頃に」

バルコニーへ出たテオドラは、大理石の欄干に背を預けて煙草をくわえた。海を挟んだ向こう側の邸宅を見つめながら、静かに思った。

貴女が来ないというのなら、私のほうから行ってあげなくてはね、と。

君が本当の妻ならば

海軍本部の3階へと続く廊下を、バスティアンは歩いていた。
内ポケットには、署名を終えた服務申請書が入っていた。
志願地はトロサ諸島—— 再びあの前線だった。

書いては破り、また書くことを繰り返した末に、ようやく署名できた書類だった。

父親の没落を早めたとしても、残り火まで消し止める後始末には相当な日数がかかる。
その時間をどう使うかを熟考した結果が、この申請書だった。

輝かしい勲章をもう数個授かるに値する戦功を重ねれば、これ以上ない選択となる。
そう結論を下した。

しかし廊下を歩く足取りを鈍らせたのは、別の名前だった。

—— オデット。

君が私の本当の妻であるならば。

不意にそのようなことを考えてしまう瞬間が、頻繁に訪れるようになっていた。
漠然としていた想像は、いつの間にかずいぶんと具体化していた。

オデットは家族を愛する女だった。
だからきっと、新しい家庭にも忠実であるはずだ。

たとえ今は自分に心がなくても——。

少なくとも、
一生涯オデットから搾取し続けたディセン家よりは、ましな家族になれるはずだ。

バスティアンが妻に与えられるものは多かった。
他のどの貴族よりも貴族らしい生活を享受させてやるつもりだった。

この世で最も尊く、美しいものを与えるだろう。
望むなら何であれ、どんな手を使ってでも。

そして守り抜いてみせる。

そのような夫として、父親として、家族として生きていく自信があった。

しかし同時に、これが一時の衝動にすぎないかもしれないということも、バスティアンはよく分かっていた。
ただ手に入れたい女に向けられた欲望が作り出した錯覚かもしれない、と。

これもまた時間が解決してくれる問題だという結論に達して初めて、
服務申請書の署名欄を埋めることができた。

デメル提督の執務室の前にたどり着いたバスティアンは、
姿勢を正してからノックをした。

トリエ伯爵夫人のティーテーブルで

トリエ伯爵夫人は満足そうに日刊紙を広げ、写真をオデットに見せた。

結婚の証拠が一枚もないことがずっと気になっていた、と彼女は言った。
肖像画家を紹介しようとしても頑なに辞退するから、
この結婚の証拠を残さないために細工を弄しているのかと誤解しそうだった、と。

「バスティアンは……」

言いかけたオデットを遮るように、トリエ伯爵夫人は笑い飛ばした。

悪い下心があるなら、帝国中の前に堂々と妻を露わにするはずがない。
思ったよりも貴女への想いが深いようね、と。

オデットは曖昧な笑みを浮かべることで、その場をやり過ごした。
困惑するような誤解だったが、弁明する術がなかった。

ティーカップに映る自分の顔を静かに見つめながら、オデットは考えていた。

バスティアンはこの結婚の証拠を残さないために慎重を期してきた男だった。
その男が、あっさりと皇命に従った理由がここで初めて理解できた。

結婚の証拠を残さないことの方が、
かえって不自然に映る状況だったのだ。

そこまで頭が回っていなかった自分に、オデットは少し決まりが悪くなった。

バスティアンはこの結婚の有能な指揮官だった。
適切な戦略を駆使しながら、目的地へ進んでいる。
彼の勝利はすなわち自身の勝利でもあるのだから、ただ信じて従えばいい。

「まだ、妊娠の兆候はないの?」

トリエ伯爵夫人の問いに、オデットは目を伏せた。

「……ええ。まだですわ」

バスティアンが出征することになれば、このような困った質問からも解放されるだろう。
そこまで考えが至って初めて、ベルクを離れる彼の決定についても理解できる気がした。

金箔の便箋

厳重に密閉された手紙が、メイドによって届けられた。
使者を通じた急ぎの伝言、ラーナー夫人の使いだと。

見慣れない名前だった。
封筒を開くと、華やかな金箔で飾られた便箋が現れた。

見覚えがあった。

相手の身元を示す文言は一言もなかったが、オデットは直感的に察した。
少し前に届いた招待状と、同じ金箔の紋様だったからだ。

——テオドラ・クラウヴィッツ。

「大丈夫かい、オデット?」

トリエ伯爵夫人の声で、オデットは我に返った。

「……いいえ」

小さく折りたたんだ手紙を強く握りしめながら、オデットはそれらしい微笑みを浮かべた。
冷たく強張った手が細かく震えていたが、気取られることはなかった。

急いでティーテーブルを立ち、
恭しく挨拶を交わしたオデットは、震える両脚をなんとか動かしてトリエ家を後にした。

いぶかしむ使用人たちの視線に構う余力は、もう残されていなかった。

まずはテオドラ・クラウヴィッツに会わなければならない。
オデットはその一念だけを心の支えにして、走り始めた。


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