🌹 本記事は『バスティアン』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。会話部分は原作の表現を引用しています。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。
半月続いた膠着に、小さな抜け道ができた。
その頃、二つの決別が同時に進んでいた。
一つは応接室で。
もう一つは――酒浸りの部屋で、静かに牙を研いでいた。
きっかり1時間
「本当にありがとう、ドーラ」
狂ったように尻尾を振るマルグレーテが、オデットの顔を熱烈に舐めていく。
バスティアンは、妻の犬を人質に取っていた。
マルグレーテをドーラに預け、当面は接近を禁ずる――カッとなって下した命令のはずが、膠着はすでに半月に及んでいた。
犬は母を失った子のように女主人を探し、
オデットは子を引き離された母のように心を痛めた。
悪役を押し付けられたドーラの心も、穏やかではいられなかった。
「毎日1時間は、メグと一緒の時間を設けて差し上げます。その代わり、旦那様には秘密にしていただきたいのですが」
オデットの澄んだ微笑みを前にすると、罪悪感は不思議と薄れていった。
たかが犬一匹にこれほど切ない情を注ぐのに、なぜ夫にはあれほど冷淡なのか。
マルグレーテに接するように夫に接していれば、
この世の金銀財宝すら手にできただろうに――ドーラは、もどかしくも気の毒な女主人のために、日差しの良い庭への散歩を提案した。
主人の命令を、二度破る選択だった。
オデットを知りすぎたことが、ドーラへの罰だった。
借りの清算
バスティアンは、下から上へとシャツのボタンを留めていった。
胸と首筋の爪痕はシャツの下に消え、口紅を拭ったハンカチは暖炉の炎へ。
乱れた髪を整えれば、この応接室に入った時と変わらぬ姿が戻った。
ソファの下に落ちていたフランツの絵も、細かく引き裂かれ、ハンカチの後を追った。
「借りの清算はすべて終わったことを、心に留めておいていただきたい。ラヴィエール嬢」
手元に残る絵をどうしようと構わない。
展示でも、新聞社への情報提供でも、好きにすればいい。
ただし――もはや何の借りもない自分の対応は、今と同じではない。
再び顔を合わせる日が来れば、その時はラヴィエール公が慈悲を乞うことになる。
「今、私を脅しているのですか?」
「これまでの縁を思って差し上げる助言ですが、お嬢様がそう受け取ったのであれば、あえて訂正はしません」
怪物を見抜いた女
全身を震わせながら、サンドリンは精いっぱい微笑んでみせた。
あなたが狂った真似までして守る女は、あなたを憎んでいる。
私が狂った真似をしてでも欲しいあなたを、軽蔑しているように。
自分がしたことを、そっくりやり返される様は本当に滑稽ね――恐怖と歓喜の同居する目が、バスティアンを睨む。
「どうしてオデットがあなたから逃げようとするのか、今なら分かるわ。見せかけの立派な姿の下にいる怪物を見抜いたのね」
憎悪の悪態にも、彼は動揺しなかった。
感情の欠落した石像のような顔。
気味の悪さに後ずさりながら、サンドリンは不意に、この怪物に首ったけだった自分が情けなく思えた。
色情狂に続いて、狂人まで夫に迎えるところだった。
その座を代わりに占めたオデットに、感謝と憐れみさえ感じそうになる。
「どうか、二度と会うという不祥事がないことを願います」
最後の警告を残して、彼は去った。
崩れ落ちたサンドリンの唇から、抑え込んでいた嗚咽が漏れる。
悔しくて、屈辱的で――それでも、嬉しかった。
バスティアンも遠からず、この苦しみを味わうはずだ。
いや、すでにそうなりつつあるのかもしれない。
「今日をよく覚えておくことね。あなたの愛も、結局こんな終わりを迎えることになるんだから」
怨念の叫びに、一瞬だけ足を止めて、
バスティアンは振り返らずに立ち去った。
あれほど切望した愛が、幕を閉じた。
三流オペラにも劣る、虚しく惨めな結末だった。
開いた鳥かご
フランツは、まぶしい午後の日差しの中で目を覚ました。
散らかった部屋は片付けられていた。
落ちぶれた息子に、変わらず注がれる母の愛は父の暴力以上に彼を息苦しくさせた。
バスティアンへの執着ごと息子へ向けられた、その歪んだ愛情が。
鏡に映る痣だらけの顔を見て、フランツは薄く笑う。
婚約は破談となり、バスティアンの策略で家は大損害を負った。
家門の後継者としての未来は閉ざされた。
だが、それこそが父を狂わせ、一生を縛ってきた鳥かごの扉を開いたのだ。
いっそ、もっと深い底まで堕ちてしまいたい。
母の希望も未練も届かない奈落へ。
—— 僕の破滅の同伴者となった、オデットとともに。
森へ向かう銃
オデット。僕のオデット。
習慣のように名を繰り返すうち、濁った瞳に生気が宿り始めた。
バスティアンの子を宿したまま捕らえられ、
自分よりはるかに恐ろしい日々を送っているだろう彼女。
もしかしたら、もう分かったのかもしれない。
唯一無二の存在は、彼だけだと――。
金と装身具をかき集め、母への負い目は捨てた。
バスティアン・クラウヴィッツに生まれなかったのは、彼の罪ではないのだから。
死んだように静まり返った屋敷。
父は愛人の家に引きこもり、母はショックでふせっている。
実に高尚で品位ある家族だった。
父の書斎で車の鍵を手にし、鞄を閉めて立ち上がった瞬間――壁のライフルが、目に留まった。
―― バスティアンの邪魔が入るかもしれない。
その銃も、手に取った。
まもなく、黒い自動車が、二つの領地を結ぶ森に向かって疾走し始めた。