🌹 本記事は『バスティアン』原作114話をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分は原作の表現を引用しています。
サンルームでオデットはピアノを弾いていた。
質屋で受け取った金では到底足りない。
もう少し、何か売らなければ。
逃亡の準備は、静かに続いていた。
安堵
最後の音が残した余韻が、日差しの中に消え去っていった。
ピアノの前から立ち上がったオデットは、
サンルームに置いた持ち物をもう一度確認した。
文鎮とヘアピン、膝にかけるブランケット。
売れそうな雑多な物を集めていたオデットの視線が、ふと自分の手首へと向かった。
金のブレスレットには、ルビーとダイヤモンドがびっしりと飾られていた。
一瞬心が揺れたが、オデットは結局、無駄な未練を捨てた。
あの男に対して犯した罪の代償に、
その上、盗みという罪状まで加えたくはなかった。
腹痛が襲ってきたのは、ちょうど立ち上がろうとした時だった。
オデットは窓枠に腰かけて目を閉じた。
やがて再びチクチクと刺すような不快な痛みが襲ってきた。
—— よかった。
本当に、よかった。
生理の予定日が近づくにつれて、
ひどく不安でますます焦る気持ちになっていた。
そんなはずはないと言い聞かせながら、
それでも万が一を考えてしまうたびに、息が止まるようだった。
—— ただ何日か遅れているだけだったのに。
その視線の先に
ふと顔を上げると、窓の下をバスティアンが通り過ぎていった。
予定より早く帰宅した日は、時間通りに出迎えができないことはしばしばあったが、
そんな時はいつもロヴィスが知らせてくれた。
しかし今回は、何の知らせもなかった。
おそらくバスティアンの命令なのだろう。
もしかしたら、欲望の有効期限が切れたのかもしれない。
オデットはわずかな希望を宿した眼差しで、
遠ざかっていくバスティアンを見つめた。
再び窓枠に座り、痛む腹を抱え込んだ。
断続的に繰り返されていた痛みは、夕焼けが差す頃になってようやく静まった。
ゆっくりと息を整えたオデットは、
遠くから聞こえてくる晩鐘の音に倣い、顔を向けた。
その視線の先に、バスティアンがいた。
いつの間にか戻ってきた彼が、浜辺と庭の境に立ち止まっていた。
なぜ立ち止まっているのだろう——そんな考えが不意によぎった。
オデットは慌ててその考えを打ち消した。
その瞬間、バスティアンが顔を上げた。
正確な目標を狙うように自分に向けられたその男の視線を、
オデットはかわすことができなかった。
海を越えてきた風の中で、二人の視線がぶつかった。
その静かな見つめ合いは、夕焼けが一段と赤くなる頃まで続いた。
その夜
その夜も、バスティアンはオデットの寝室を訪れた。
ようやく体を離したバスティアンは、
穏やかなため息をつきながらベッドに横になった。
肺が破裂しそうになるほど疾走しても、結局得られなかった陶酔感だった。
ベッドを離れかけたバスティアンは動きを止めた。
地図を読むように精密な眼差しが、オデットの輪郭をゆっくりとなぞっていく。
ひときわ青白く滑らかな女だった。
その身体のそこかしこに、無数の赤い痕跡がくっきりと残っていた。
簡単に傷つく女だった。
バスティアンは、自分のものにそんな損傷が残ることが気に入らなかった。
「……オデット」
名前を呼んだのは、衝動的な選択だった。
嘲笑を帯びた声が闇を越えてきた。
「仕事はうまく運んでいますか?」
「一生懸命稼がなければならないな、オデット。
必死に貯めた金を全部、妹の手に渡してやったんだろう?」
心地よい声で、心地よくない言葉がゆっくりと続いた。
当惑したオデットは、思わず息を潜めた。
—— 結局、尾行されていたのだろうか?
「もう継母の犬の真似をやめたのか? 僕は怯えて震えてやる準備ができているというのに」
言葉は胸に突き刺さり、通り過ぎていく悲しみと羞恥に目頭が熱くなったが、
オデットは泣かなかった。
いつか、この瞬間も色あせた過去となって薄れていくだろう。
時間は流れるものだし、
その時間の前では、永遠に続くものなどないのだから。
君そっくりの娘
オデットは黙々と、この夜が終わるのを待った。
幸いにも、再び始める気はないようだった。
もうすぐこの男は去っていく。
そうすれば、体を洗い、ベッドを整え、いつもどおり眠ればいい。
そう思った矢先だった。
呆れたことに、バスティアンはこのベッドで眠っていた。
オデットはベッドの端へ這っていこうとしたが、
腰を掴んだバスティアンが、彼女を懐深く引き寄せた。
瞬く間に背中と胸が組み合わさり、脚が絡みついた。
オデットは血の気が引くのを感じながら、抵抗をやめた。
「放して。吐き気がするほど嫌だから」
「だったら、くだらない考えはやめて、さっさと子どもを産んで去ることだな。
そうすれば、お互いに吐き気のするようなことを終わらせられる」
「どうせなら、君そっくりな娘を産んでから去るんだ。
一生、生みの母を知らずに生きるかわいそうな子が、君について尋ねたら、鏡を見ろとでも慰めてやれるように」
オデットは、喉元までこみ上げてきた激しい怒りを堪えながら、きつく目を閉じた。
この男は、日増しに狂ってきているに違いない。
ティラの結婚式の日程を、
あまり先延ばしに設定しなかったのは本当に幸いだった。
【免責事項】
※翻訳方針については当サイトの「翻訳・引用ポリシー」をご確認ください。
※本記事は作品のテーマを考察するものであり実在の行為を推奨・肯定する意図はありません。
※作品の引用・翻訳は著作権法の範囲内で行い、引用元を明記しています。
※本記事は作品内容の分析・評論を目的としたものであり、原作の翻訳全文を掲載するものではありません。