泥の中の愛⑦|115話 片付けなければ ─ テオドラの決断と、受話器の轟音

バスティアン|泥の中の愛⑦|115話 片付けなければ ─ テオドラの決断と、受話器の轟音 原作本編

🌹 本記事は『バスティアン』原作115話をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分は原作の表現を引用しています。

テオドラに、バスティアンの近況が届いた。

モリーが彼女の叔母を通して伝えてきたバスティアンのニュースは、
予想をはるかに外れていた。

帰国したら真っ先にオデットを片付けるはずだったのに、
昼夜を問わず妻と戯れているというのだ。

片付けなければ

「確かなの?」

侍女・ナンシーからの報告を受け、テオドラは呆れたように笑って問い返した。
バスティアン・クラウヴィッツが、自分の背中にナイフを突き刺した女と幸せに暮らそうと決心したなんて。

頭に敵軍の弾丸でも一つ刺さって帰ってきたに違いなかった。

しかし、テオドラには別の問題があった。
エラ・フォン・クラインが最後通告をしてきた。
この秋中に結婚の日程が決まらなければ、婚約を破棄すると。

目標を達成した後も、フランツはあれこれと口実をつけながら結婚を延期し、
婚約者に対する態度も煮え切らなかった。

オデットが目の前に現れて以降のことだった。
もはや病気だと見なしてもおかしくないほどの執着だった。

「片付けなければ」

テオドラは一片の躊躇もなく言い切った。

オデットだけではない。
フランツまでもが彼女への執着で人生を狂わせようとしている。

「つまり……ソフィア・イリスのようにですか?」

メイドが恐る恐る口にした名前に、テオドラは一瞬だけ目を細めた。

久しく忘れていたその名を噛みしめながら、
そういえば、あの女を片付けた時も似たような命令を下した気がすると、
遠い記憶を思い返すのだった。

フランツを守るためには、一刻も早くオデットを片付けなければ。
自分の足でいなくなってくれるならば、金銭を多少出すのも惜しくなかった。

「モリーにもう一度調べさせましょうか?それとも、このあたりであの家から出させましょうか…」

「いや。まずはバスティアンの妻が望むようにさせてあげなさい」

テオドラはオデットに渡す短いメモを作成し、蝋で封をした。

「ところで奥様、もしあの女に別の企みがあったらどうしますか?」

——「もしかして、あの時の薬剤師の名前、覚えてる?」

「……もしかして、レフさんのことでしょうか?」

テオドラは、薬と同じくらい毒を扱うのが巧みだったその薬剤師の名前をなぞることで、
答えに代えた。

オデットの不安

落ち着きなく部屋の中を行ったり来たりするオデットの顔色は、
紙のように青白かった。

習慣的に触ってみた下腹部と胸には、確かに生理の時と同じ痛みを感じるのに、
どうしてか症状が現れなかった。
こんなに遅れたことはなかった。

まさか、そんなはずはない。

オデットは必死に不吉な予感を消しながら、
冷たく固くなった両手を握り合わせた。

——あと十日。

ティラを移民船に乗せれば、自分もすぐに去る予定だった。

船が出航する港から中央駅へ向かう道とフェリア行きの特急列車の時刻表。
どちらもあらかじめ頭に入れてある。

あとはもう、その計画を実行に移すだけだった。

—— だから、どうか。

オデットは切迫した心境で祈った。

ティラからの電話

「奥様、ドーラです。ベラー様からお電話です」

張り詰めた神経が切れそうになったその時、
思いがけない知らせが聞こえてきた。

——ティラだった。

受話器の向こうで、涙声で謝罪を繰り返す妹に、
オデットは静かに「気にしていない」と答えた。

そして、結婚式には必ず出席すると約束し、式場の住所を尋ねた。
しかし、ティラは不思議そうに言った。

——「場所が変わったじゃない。まさか知らなかったの?」

受話器を握り直すオデットの指先が、かすかに震えた。

クラウヴィッツ少佐が、秘書を通じてニックに連絡してきたの。カルスバールで一番良いホテルで結婚式を挙げられるようにしてくれるって。費用は少佐が全部払ってくれるし、来賓として出席して祝福してくれるともおっしゃっていたのに。
どうしてお姉ちゃんには秘密にしていたんだろう?」

虚ろな目で宙を見つめていたオデットは、とうとう気が抜けて倒れてしまった。
手から滑り落ちた受話器が、轟音を立てて書斎を揺らした。

遠のいていく意識の向こうから、
自分を呼ぶティラの叫び声が聞こえてきた。

あの男の目的は、ただ子どもだけではないのかもしれない。

息が詰まるような苦痛の中で、オデットは思った。
少しずつ私を追い詰め、最後には殺すつもりなのだ。

そうだとすれば、
バスティアン・クラウヴィッツの計画は順調に進んでいることになった。

妻の部屋へ

「奥様がまったくお召し上がりにならないので心配です。
ここ数日間、食卓を用意するなという命令を下さるんですよ」

バスティアンは静かにため息をつきながら、振り返った。

「食事の準備を」
「妻の部屋へ持ってきてください」

淡々とした命令を残したバスティアンは、そのままオデットの部屋へと足を向けた。
視線を落として確認した腕時計は、11時を指していた。

それほど遅い時間ではなかった。

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