🌹 本記事は『バスティアン』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。会話部分は原作の表現を引用しています。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。
サンドリンの仕掛けた「贈り物」が、ついに開封される。
リンツァー・ギャラリーで、クライン家の応接室で、
そして――二人を乗せた列車が着く、駅のホームで。
開会式を待つ女
リンツァー・ギャラリーの向かいのカフェで、サンドリンはティーカップを置いた。
フランツが後援する展覧会の開会式。
招待客の中には、彼女が人脈で呼び寄せた有力紙の記者や評論家も混じっている。
——とにかく、馬鹿ね。
不安は不安を生む。
そして不安ほど、人間を簡単に崩壊させる感情はない。
今の自分がそうであるように。
見捨てられる恐怖に囚われた無名画家たちが変節を決めるのに、三日もかからなかった。
友情だの恩義だのと口にしていた者たちが提示した「問題作」は、今頃、展示会場で観客を迎えているだろう。
あの愚かな坊ちゃんは、まだ彼らを友だと信じているに違いない。
バスティアンがフランツに敗れた――信じがたい知らせの原因は、あの女だとサンドリンは確信していた。
厳密には、あの女を切り捨てられなかったバスティアンの自滅に近い。
だが恋人に恨みは向けられない。
だからこれは、バスティアンへの贈り物だった。
あの女を切り捨てる決心をつけさせるための。
興奮した顔で展示会場を飛び出してくる観客たちを眺めながら、
彼女はゆっくりとタバコを吸った。
ふと、あの絵の前に立つバスティアンに、会いたくなった。
五月の花嫁
同じ頃、テオドラはクライン伯爵夫人に宝石を差し出していた。
フランツがソフィアの息子に勝った。
その記念碑的勝利を思えば、長年の神経戦の相手にプライドを曲げる忍耐も、自然と湧いた。
エラを五月の花嫁に――日取りの話は、和やかに進んだ。
伯爵夫人の棘のある返事も、無視された屈辱も、フランツのためならいくらでも飲み込めた。
ブローチを受け取って無邪気に喜ぶエラは、この縁談をつなぎ止めてきた張本人だ。
あなたは一族に降りた祝福――その称賛だけは、心からの本心だった。
たとえフランツの確約がなくても、構わない。
首輪をつけて引っ張ってでも、結婚式場の壇上に立たせてやる。
「奥様!奥様!」
日取りが確定したまさにその時、真っ青なメイドが駆け込んできた。
叩きつけられた宝石
電話から戻ったクライン伯爵夫人は、別人のようだった。
「この蛆虫にも劣る者どもが!よくも!よくも!」
金切り声とともに宝石箱が投げ捨てられ、エラへの贈り物まで叩きつけられる。
落ち着いてと言い終える前に、テオドラの頬に鋭い音が響いた。
「気が触れているのは、あなたの息子ですよ!」
最初からこんな下賤な者たちと関わるべきではなかった、吐き気がする――知りたければ今すぐリンツァー・ギャラリーへ行って自分の目で確かめろ。
そして二度と姿を見せるな。
今日をもって、エラはあなたの汚らわしい息子の婚約者ではない――。
そう言い残して、泣きじゃくる娘を引きずり、伯爵夫人は去っていった。
修羅場に取り残されたテオドラは、何が起きたのか確かめずにはいられなかった。
――リンツァー・ギャラリー
一体何があの女を狂わせたのか、直接確かめなければ。
名前を連呼する群衆
列車は、駅に着いていた。
カーテンの隙間から外をうかがうと、カメラを構えた記者たちが出入り口を幾重にも囲み、ホームは人で埋め尽くされていた。
護衛の警官が到着するまで待つように、と車掌が告げる。
何があったのか――その説明を、車掌はオデットの前では口にできなかった。
バスティアンが通路へ出ている間、
ただならぬ空気を察したオデットは窓辺に近づいた。
興奮した群衆の熱気。
驚いたことに、彼らはオデットの名前を連呼していた。
信じられないほど下品な罵声とともに。
カーテンを開けられないまま、彼女はたじろいで後ずさった。
虚ろだった瞳が、不安に汚れていく。
戻ってきたバスティアンに、何が起きたのか、とても聞けなかった。
乾いた唇を震わせ、また一歩下がるのが精一杯だった。
彼は静かにオデットを見つめていた。
固く閉じた唇の端は、微かに歪んでいる。
——これまで一度も見たことのない、その静かな表情だけは、何を考えているのか想像すらできなかった。
髪の毛一本も出さないで
警官の到着が告げられ、怒号と歓声がさらに高まる。
バスティアンは脱いだコートを手に、オデットの前に立った。
これほどみすぼらしい身なりの女を、飢えた狼の前に放り出すわけにはいかない。
もっとも、女王のように着飾っていても、結論は同じだったろうが。
頭のてっぺんから覆いかぶせて顔を隠し、しっかりとボタンを留める。
「死んだふりをして、じっとしているんだ」
警告とともに、彼はオデットを抱き上げた。
もがく体を難なく押さえ込み、懐の奥深くに抱いて、ためらいなく客室を出る。
「髪の毛一本も出さないで」
ホームに踏み出した瞬間、
けたたましいフラッシュと群衆の歓声が、荒れ狂う波のように二人を襲った。
降り注ぐ光と野次の中でも、バスティアンは動揺しなかった。
バスティアンは、妻をコートの中へ完全に隠したまま、
一度も立ち止まることなく、群衆の真ん中を歩いていった。