泥の中の愛67|175話 心の聖域 ─ 鍵のかかった水車小屋と、蹴破られた扉

バスティアン|泥の中の愛67|175話 心の聖域 ─ 鍵のかかった水車小屋と、蹴破られた扉 原作本編

🌹 本記事は『バスティアン』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。会話部分は原作の表現を引用しています。
ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

水車小屋に閉じ込められた二人。
手当てのために近づきすぎた距離が、抑えていた熱を呼び覚ます。

ようやく取り戻した「心の聖域」を守ろうとするオデットと、軽蔑されてでも残された三日間を諦めないバスティアン。

逃げ場を失った二人の感情は、鍵のかかった扉の向こうで、再び激しくぶつかり合う。

手当ての距離

バスティアンは、干し草の上にオデットを下ろし、濡れた毛布をはがして靴を脱がせた。
魂が抜けたようだったオデットが彼の意図を悟ったのは、スカートがまくり上げられた時だった。

「私が、私がやります!」

「じっとしていてください」

もがくのを制し、腫れた右足首を確かめる。
靭帯は無事のようだが、この状態で豪雨の中は歩けない。

ハンカチで圧迫して縛り、体温を奪うだけの濡れたストッキングを脱がせる。

左足のガーターのフックを外した時、オデットが彼の肩を押しのけた。

視線を上げたバスティアンの目に、真っ赤な顔が焼きつく。

震える唇を動かそうとしていたオデットは、何も言えずに顔をそむけた。
彼の肩から離した手は、スカートの裾を固く握りしめていた。

無防備にさらけ出された、ほっそりとした脚を、彼はそこで初めて正しく認識した。

その瞬間を境に、感覚が鋭敏に研ぎ澄まされる。
甘い体臭が雨の匂いをかき消し、指先から伝わる肌の温度が、一気に体を温める強い酒のようだった。

バスティアンは、ついに手を離して立ち上がった。

雨と汗で乱れた髪をかき上げる手の甲には、骨ばった節が白く浮き出ていた。

「僕が行って、着替えを持ってくる。……君は残るんだ」

温度の変わった眼差しと剣幕に、オデットは意地を張れなかった。

崩れた干し草の陰で

雨の中を歩く足音が聞こえたのは、その時だった

「誰か来るようです」

「シーッ」

唇の上に指を当てたバスティアンは、息を殺しながら、窓に近づいた。

車を引く大柄の農夫——この水車小屋の主人らしい。

「どうしましょう、バスティアン」

慌てて立ち上がったオデットが足首の痛みに悲鳴を上げ、よろめく。

反射的に駆け寄ったバスティアンの動きで、天井まで積まれた干し草の山が崩れ落ちた。
彼はオデットを胸に引き寄せ、藁の床に身を投げる。

崩れた干し草が、二人を隠す防壁になった。

「このイカれたネズミどもめ!また大騒ぎしやがったな」

農夫が麦藁を下ろし、タバコを吸い始めた。

青ざめて震えるオデットが我に返って顔を上げると、バスティアンの顔が視界をいっぱいに満たした。

速く打つ心臓の鼓動が、密着した体を通して伝わってくる。
熱い体温も、しっかりした体つきも。

「……オデット」

もがく体をしっかり抱きしめ、低く囁く。
少しでも動けば、危うく積まれた干し草がさらに崩れる。

その意味を悟ったオデットは、やがて静かになった。

安堵したバスティアンは、熱を帯びたため息を落とし、目を閉じた。

まもなく農夫は去り、扉が閉まった。

逃げるように離れたオデットの、抑え込んできた荒い息が、泣き声のように漏れた。

雨に濡れた体は冷えていくのに、
酔いのように広がる熱は、なかなか収まらなかった。

鍵がかかっている

「早く家に帰らなければ」

強迫観念にとらわれ、足を引きずって扉へ向かう。

「動かないで」

背後の声を無視して、開かないドアを揺さぶる。

——まさか。

距離を詰めたバスティアンが、頭上でため息をついた。

「もうやめるんだ、オデット。鍵がかかっている」

心の聖域

閉じ込められたと知った瞬間から、オデットは片付けにだけ没頭した。

崩れた干し草を、床の藁を、足を引きずりながら箒で掃いた。

掃除が目的ではないと、バスティアンはとっくに悟っていた。
箒を握らせておいたのも、それさえ奪えば、今度は土埃でも払い始めそうな勢いだったからだ。

だが、彼もまた限界に近づいていた。
狂おしいほどの欲望と、同じくらい濃くなったやるせなさが、乾いた笑いとなってこぼれた。

これ以上軽蔑されたくなくて耐えてきたものの、ついに大股で歩み寄り、オデットから箒を奪った。

「こんなことをして、何が変わるというんですか? ここに閉じ込められているのを見れば、どうせさっきの出来事もすべてわかるだろうに」

「だから、あなたには二度と会いたくなかったんです!」

辛辣な言葉が口から飛び出すのを、必死に耐えてきた。

どうせ数日後に永遠に別れる男。

最後は良い思い出として残したかった。
それなのに、こうして心の聖域まで侵してきたバスティアンが、一層恨めしかった。

本当は、彼に非がないと分かっている。
これは自分自身への怒りと失望だった。

突然現れた男を突き放せず、馬鹿げた提案を受け入れた。

そして、ようやく大丈夫になったと思っていたのに、
こんな状況でも再び彼に惹かれ、獣のような欲望に飲み込まれてしまった自分を、どうしても許せなかった。

「やっとここまで来たのに。もう大丈夫になったのに。それなのに、どうして勝手に私の人生をまた台無しにしようとするんですか?一体なぜ!」

蹴破られた扉

このまま二人で閉じ込められているところを見つかれば、
「従兄」と水車小屋に隠れていた女にどんな噂が立つかは、火を見るより明らかだった。

「従兄と関係を持つ女だという噂が立つことを、俺が防いであげればいいんですか?」

「今さら、一体どうやって?」

箒を置いたバスティアンは、何も言わず、鍵のかかった扉へ向かった。

ドンドン、と重々しい轟音。

彼が、扉を蹴りつけていた。
何度も、力いっぱい。

水車小屋全体が揺れ、木のきしむ音がする。
建物ごと崩れるかという不安がよぎった頃、二つに折れたかんぬきが落ちて、扉が開いた。

侵入者の手がかりが残らないよう後始末をし、壊したかんぬきの代金を扉の隙間に挟んだ。

「こんなことができるのに、どうして今まで黙っていたんですか?」

「本当にそうですね。自分を過小評価しすぎていたようです」

——まだ三日残っている。

その時間を諦めるより、軽蔑される方がましだった。

「嫌でも我慢してください。もういくらも残っていないだろう」

冷淡に言い放った男は、今までの出来事とはまるで正反対の、丁寧で優雅な仕草でエスコートを求めた。

「行きましょう、姉さん」

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