🌹 本記事は『バスティアン』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。会話部分は原作の表現を引用しています。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。
期限付きの同居生活で訪れた、束の間のピクニック。
シャンパンで台無しになった昼食、柳の下で分け合うリンゴ、オデットが彼のためだけに歌う歌。
そして——
嵐の海で生きてきた男は、凪いだ地面の上で初めて感じた「めまい」の正体を知る。
台無しのピクニック
目的地に近づくほど、雲は濃くなっていった。
どう見てもピクニック日和ではない。引き返そうと促すオデットに、バスティアンは平然と柳の木陰に毛布を広げた。
まるで話の通じない男だった。
人目を避けられる場所を探して、遠くまで歩いてきた。
急ごしらえの貧相なサンドイッチ、果物、数日前の集まりの残り物のクッキーとケーキ。
きつく結んだ髪、色の合わないブラウスとスカート、左右違いのストッキング——めちゃくちゃな自分の姿にふと気づくと、抑え込んだ悔しさがまた込み上げる。
「どうして、今日でなければいけない理由でもあったんですか?」
非難するオデットに、バスティアンはとぼけた笑みを返すだけだった。
——何かに追われるように、焦っているようにも見える。
彼女をあれほど混乱させた男とは思えない姿だった。
ネクタイもない綿シャツにサスペンダー、ポマードで整えていない髪は風におしゃれに乱れている。
すべてがめちゃくちゃな中で、一人だけ完璧な男が、オデットを一層みすぼらしく感じさせた。
オデットは、バスティアンがシャンパンのコルクを抜く隙に髪をほどいた。
指で素早くとかし、半分だけ結び直す。
その時——パン!と、地軸を揺るがすような音が響いた。
「ああ。僕が持ってきていたシャンパンだったようだね」
濡れたブラウス
シャンパンをかぶった惨めな姿が、現実を思い出させた。
すでに別れた男と、一体何をしているのか。
極限の羞恥と自己嫌悪が、かえって心を冷ややかに落ち着かせる。
小川で顔を洗うオデットに、青いハンカチが差し出された。辞退してポケットを探るが、ハンカチはない。
底なしに惨めになった瞬間、バスティアンが向かい合い、言葉もなく濡れた顔を拭ってくれた。
その優しい手つきが、かろうじて取り戻した理性を、再びぼやけさせる。
慌てて突き放したが、ゆっくり下りていく彼の視線の先に気づいて、顔が火照った。
ぐっしょりと濡れて肌に密着したブラウスが、胸の輪郭をさらけ出していた。
これ以上耐えられなくなったオデットは一人でも帰るつもりで足を踏み出した。
バスティアンがジャケットを脱いだのは、その時だった。
肩を包む柔らかな感触。恥部を隠してくれた男は、呆然とするオデットのそばを通り過ぎ、何事もなかったように小川で顔を洗った。
結局、また元の場所に戻ってしまった。
頭の中が、真っ白になった。
分け合ったリンゴ
「食べないでくださいね、バスティアン」
シャンパンで湿ったサンドイッチを、バスティアンは何でもないように大きくかじった。
自分の分を食べ終え、オデットのぶんも、硬いクッキーもパサついたケーキも、残さず平らげる。
「一体、どうしてそんなことをするんですか?」
答えの代わりに差し出されたのは、半分に割ったリンゴ。
二人は柳の下に並んで座り、遠い空を眺めながら分け合って食べた。
特に会話はない。
彼は腕を枕に横になって柳の葉を数え、彼女は幹に背をあずけて本を開く。
曇り空も悪くないと思える、穏やかな休息だった。
「オデット。歌ってくれないか?」
「一曲だけ聞かせてください」
「私たち二人の間で、それができることだと思いますか?」
「どうせ、筋が通らないことばかりの仲だったでしょう?」
厚かましく問い返す男を見つめながら、オデットは知らず知らず乾いた笑みを浮かべた。
今日のバスティアンは、まるで勝手気ままな子どものようだった。
この男にも、こんな一面があったのだ。
最初から今に至るまで、一つ残らず筋の通らないことばかりの仲だった。
本を閉じたオデットが、遠い空へ視線を移す。
バスティアンは、視線を上げた。
オデットが歌っていた。
彼のために。まるで美しい夢のように。
野原と小川を越えて、バスティアンのもとへ。
オデットの視線も、旋律とともに流れてくる。
歌は、二人の視線が絡み合った頃に終わった。
君は、俺が足を踏み入れた最初の陸地だった
バスティアンは、長い間じっとオデットを見つめた。
ふと、波の上にいるような感覚がした。
人生が静かで安らかになるたびに訪れた、あのめまい。不慣れで不快で、何かが間違っているような気がした、この不安感の正体を、彼は今、知った。
長く船に乗っていると、揺れのない陸地がかえってめまいに感じる。
体が波に慣れてしまったせいで起こる——陸酔い。
——そんな人生だった。
嵐の海を踏みしめて生きてきた。波の中で生き残るために足掻き、やり遂げた。
だから知らなかったのだ。
固い地面を踏んで生きる人生の感覚を。
——君は、僕が足を踏み入れた最初の陸地だった。
異常だと否定し、もっともらしい名分で合理化してきた感情は、実はごく平凡な愛だった。
美しい女性に惹かれ、気になり、だから一緒にいたかった。
——つまり、僕はただ君と、こんな日々を生きたかったのかもしれない。
飲み込むほど大きくなる心をどうすることもできず、途方に暮れた、その瞬間——
ぽつり。
冷たい水滴が頬を濡らした。
黒く染まった雲が、野原を覆っていた。
水車小屋へ
夕立だった。
激しい風にあおられて、とうとう破れてしまった傘を見たオデットの顔に、もはや隠しきれない怒りが浮かんだ。
なぜ、よりによってこんな日に!
オデットは、身一つで雨の中を走り、バスティアンは、一定の間隔を保ちながら後を追った。
「あっ!」
野原の終わりで、オデットが座り込んだ。
どうやら足首をくじいたらしい。
強風を伴った激しい雨の勢いは、ますます荒々しくなっていた。
バスティアンは、バスケットから取り出した毛布で震えているオデットを包んだ。
「全部あなたのせいよ!あなたが無駄な意地を張ったからよ!」
雷鳴とともに響く叫び。
「喧嘩は少し後に取っておきましょう」
バスティアンはオデットを抱き上げて走り出した。
悲鳴は、雨と雷にかき消される。
収穫の終わった麦畑を過ぎたところに水車小屋が見えた。
ドアが開いているのを確認したバスティアンは、ためらうことなく足を向けた。
【免責事項】
※翻訳方針については当サイトの「翻訳・引用ポリシー」をご確認ください。
※本記事は作品のテーマを考察するものであり実在の行為を推奨・肯定する意図はありません。
※作品の引用・翻訳は著作権法の範囲内で行い、引用元を明記しています。
※本記事は作品内容の分析・評論を目的としたものであり、原作の翻訳全文を掲載するものではありません。