🌹 原作小説『この結婚はどうせうまくいかない』第3巻9章を高解像度あらすじ形式で構成しています。
本記事は、管理人ロゼの個人的な視点による考察を含みます。
本文中の会話・台詞は、原作の表現を適宜引用しています。
30分前には、ここにいたのに
カッセル・エスカランテが見当たらない。
それだけのことだった。
それだけのことの、はずだった。
あらすじ|火種はどこにでもある⑧
秋の収穫祭を寝台で棒に振ったイネスは、冬の初め、新提督の赴任記念の宴会にようやく漕ぎつけた
カッセルを自然に女たちの間に落として抜け出す——それが今日の目的だった。
ところが気づけば、人波をかき分けて金髪を探し回っている自分がいる。
その耳に「エスカランテ」の名が届いた。
二人の将校が、カッセルの経歴も功績も全て嘘だと嘲っていた。
イネスはそっと名前を突き止め、ゴシップ好きのベルビク中尉を捕まえて、
自分の手を汚さないまま網を張った。
離れたのは、とても良いわ
カッセルは30分前、バルカ侯爵に捕まって連れて行かれた。
馬車の中からとんでもない執着と過保護でがんじがらめにされ、舞踏会中ずっと離れないだろうと覚悟していたイネスにとって、これは好機のはずだった。
——どうやって自然にカッセルを女たちの間に落として抜け出すか。
その悩みが、勝手に解決したのだから。
そのはずだった。
「サルバトーレ夫人にご挨拶しなくては」
「イネス様?サルバトーレ夫人はこちら、いえ、もうあちら……通り過ぎられましたよ?」
「さっき挨拶したから。またする必要はないわ」
詭弁が詭弁であることすら分からないまま、適当な返事が飛び出した。
レアの手首をしっかり掴み、屈強な将校たちの間で時折つま先立ちになりながら、
イネスは首を伸ばした。
これほど彼が見えないのは初めてだった。
関心も関係もなかった遠い人生でさえ、どうしようもなく視野の隅に引っかかっていた顔なのに。
「……カッセル・エスカランテが少し見えなくてもどうってことないじゃない。
こんなに探し回るなんて、いったい何なの……」
だが、これは執着でも疑心暗鬼でも何でもない。
台無しにした収穫祭を取り返したい一心だった。
「女と遊び歩くかも」ではなく「女と少しも遊び歩かないかも」が問題の焦点である部分を除けば、
典型的な初期の嫉妬の兆候と見なしてもよい——という点に、全く気づかずに。
「エスカランテ」という音
レアが夫を見つけて焦っても、イネスは微動だにしなかった。
数人分の距離と喧騒の向こうから、その名前だけが耳に届いた。
初期の嫉妬患者、あるいは猟犬のように——カッセルの足跡を追っていたイネスにとって、これくらいの障害物は意味がなかった。
数人分の距離と喧騒の向こうで、二人の将校がカッセルを嘲っていた。
——『たった一度の出撃で二階級特進だと?』
——『……そもそもエル・レデキヤを3年で卒業するなんてあり得るか?』
訓練は人並みの半分もせず、血筋の威光で指一本動かして生きてきた。
女たちに見せつけるために体を鍛え、女目当てに入隊した。
タラインソの戦いで嘘の武功勲章までもらっておいて、輸送補給の方に左遷された身だろう——云々。
事実確認などしなくても、彼らは劣等感のせいで、自分の目で見なかった功績を全て嘘と呼ぶのだろう。
イネス・ヴァレスティナの一部が、彼女の知らない言葉の中で流れていくように。
カッセル・エスカランテの一部も、そうなのだろう。
だから、いつもの噂と同じように聞き流せば済むはずだった。
奇妙なことだった。
大切に育ててきたわけではなかった
一体なぜ、こんなにも取るに足りない存在たちが、これほど癇に障るのか。
理由はどうでもよかった。ただ気分が悪かった。
あんな連中の口に軽々しく上り下りさせるために、大切に育ててきたわけではなかった。
「少なくともエスカランテ公爵夫人はそうではないわ」
……なぜかそこで、イネスはあまり親しくもないカッセルの母親を思い浮かべた。
そして、ささやかな報復心に火がついた。
遠い記憶にある頃の悪い根性で、あの狭量な田舎将校たちをメンドーサ流の残酷な侮辱で取り囲み、宴会場全体に展示する想像もしてみた。
しかし、あれほど無知では、与えた打撃をまともに受け取るかどうかすら疑問だった。
思いついた方法のほとんどは彼らには高度すぎて、残りは低俗すぎた。
ぼろ雑巾を優雅に捕まえる
「……セニョーラ・エスカランテ?」
声をかけてきたのは、ベルビク中尉だった。
カルステラでも放蕩と素行の悪さで名高い、筋金入りのゴシップ好き。
中身は洗濯不能なぼろ雑巾でも、外見だけはきちんとした軍人だった。
イネスはにっこりと微笑んだ。
「これは全く思いがけない喜びです」
たった二言で気分を害したが、そんなものは愛想のいい微笑みの下へ隠した。
ベルビクは、自分にも一度くらい機会があるのではないかと思っているらしい。
——貴方ごときが。
だがイネスの経験上、こういう錯覚に陥っている男ほど、使いやすい相手はいなかった。
自分が女を弄んでいると思っているから、
まさか自分の方が利用されているなどとは夢にも思わないのだ。
「ここは私にとって見知らぬ場所なのです。
夫もいませんし、少しでも見慣れた相手が必要だったのです」
ベルビクは喜んだ。
さりげなく距離を詰めてくる体を、イネスはメンドーサ仕込みのやり方でかわす。
「どんな女性であれ、尊重する術を知っておられ、安心させてくださるほどには」
——つまり、適度に離れていろ。
宮廷の言葉を理解する男なら、それで十分だった。
それでもベルビクは懲りず、カッセルより自分の方がイネスを優先するだの、
男には出世より重要なものがあるだのと口説き続ける。
イネスは内心で呆れた。
カッセル・エスカランテに、そもそも「出世」などという言葉が必要だと思っているのか。
生まれだけではない。
カッセル・エスカランテは礼儀を守り、軍の秩序と体系を重んじるから、今いるべき席にいるのだ。
むしろ出世が必要なのは、名家の三男でありながら両親に見捨てられた、この男の方だ。
——全く、愚かな男だこと。
それでもイネスは微笑んだまま、本題へ入った。
「あちらの二人の紳士のことです。もしかしたら、お名前をご存じですか?」
ベルビクはすぐに答えた。
ヘルソ中尉とドミンゴ中尉。
士官学校173期。
「名前が分かっただけでもう十分です」
右の頬を打たれたら
ベルビクは、二人がイネスに無礼でも働いたのかと色めき立った。
だが、イネスが欲しいのは決闘ではない。
「これはエスカランテの件ですから」
そして、困ったような顔で話し始めた。
通りすがりに聞こえてしまった言葉。
けれどカルステラで軍人の家族として生きる以上、聞き流すことはできない。
新提督への非常に不穏な発言。
将官や士官たちへの侮辱。
周囲にデマを流し、上官を蔑む雰囲気を助長する行為。
さらに彼らが望むほど出世でもすれば、
いずれは軍内反乱まで憂慮すべき問題になるかもしれない——。
言葉はいくらでも飾り立てられる。誇張や嘘は、あの二人だけの特権ではなかった。
右の頬を打たれたら、左手で相手の頭くらいは吹き飛ばさなければならないのが道理だ。
しかも二人は武器を持っている。一方、将官たちは無防備だ。
「私は軍法には疎いですが、ペレス城の奥の間だけで一生育った弱々しい心では、小さな可能性だけでも恐ろしい事態まで想像してしまいまして」
ベルビクの目は、いつの間にか傷ついた小鳥でも見るようになっていた。
「面倒な負担はおかけしたくないのです。私が上層部に報告いたします」
もちろん、そうするしかない。提督への侮辱を知って何もしなければ、
今度はベルビク自身が軍法を犯すことになる。
最初から、そこまで計算した上で話していた。
イネスは安心したように、善良な微笑みを浮かべた。
——あれほどまでに妬み嫉んでいたカッセル・エスカランテを、自分の手で助けることになるなんて、まあ。
ベルビク中尉は、密告する上官を探して足早に立ち去った。
ぼやけた印象ほど
何かを察したヘルソとドミンゴは、宴会場の隅へ遠ざかっていった。
けれど、もう遅い。
網はすでに張られていた。
二人がこのまま宴会場を出て行ったところで、何の問題もない。
そして網を張り終えた途端、
イネスは二人への関心を急速に失った。
さっきまであれほど癇に障っていたのに、
もうどんな顔をしていたのかさえ思い出せない。
「ぼやけた印象ほど、悪い企みに役立つ資産もないわ……」
視界にいるうちに正体だけは突き止めておいて、本当によかった。
▶ 次の話(続き)【第9章|火種はどこにでもある】
→第9章⑨|これは非常に奇妙な状況だった
📖 今回のエピソード対象範囲
| プラットフォーム | 対象話数 |
| ピッコマ・LINE漫画・COMICO | 第45話相当 |
| めちゃコミ | 第46話相当(推定) |
📖 作品情報・配信プラットフォーム
この結婚はどうせうまくいかない 이 결혼은 어차피 망하게 되어 있다
日本語版漫画
韓国語版(原作)
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