🌹 本記事は『バスティアン』原作126話をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分は原作の表現を引用しています。
午後4時。
フェリア行きの特急が出る。
オデットは、ついに逃走を実行に移した。
一方バスティアンは、ホテルの寝室で、一通の封筒と向き合っていた。
午後4時の特急
午後3時42分。
時計塔を確かめたオデットは、さらに速度を上げて広場を駆けた。
息が鉄の味を帯びても止まれない。
予定より早く公爵邸を出られた分、時間は稼げた。
つわりを気づかれたことは気にかかったが、もう関係なかった。
離婚状は、ホテルに置いてきた。
今頃、ティラの客船も出航している。
あとは列車に乗りさえすれば、すべて終わる。
——だから、もう少しだけ。
切符を買い、ホームへ走る。
よりによってバスティアンの鉄道会社の路線だと気づいたのは、
列車を見つけた後だった。
荷台車にぶつかり、怒鳴られ、足首をくじいても、止まらなかった。
三等車両に乗り込む寸前、人波に押されてトランクを落とし、体が傾いた。
ホームへ転がり落ちる寸前、後ろにいた男が支えてくれた。
頬に大きな傷跡のある、険しい顔つきに似合わず紳士的な男だった。
慌てて感謝を告げると、足を引きずりながら乗り込み、隅の席に倒れ込むように座った。
やがて、汽笛が長く鳴った。
—— 午後4時
フェリア行き特急の、出発時間だった。
空っぽのクッション
それは、サイドテーブルの上にきちんと置かれていた。
狩りを終えたバスティアンに届いたのは、
体調を崩した妻が先にホテルへ戻ったという知らせだった。
夫に配慮できる妻だと称賛した公爵家の夫人たちは、
主治医を送るとまで申し出た。
オデットは胃炎だと言ったが、
どうやら妊娠ではないか、という言葉も添えられていた。
丁重に断ったのは、もしかしたら、
その時すでに予感していたからかもしれない。
ホテルに戻れば、こうなっていることを。
——オデットが、逃げた。
客室に入った瞬間にわかった。
あの女が命のように大切にしている犬がいない。
従者は早戻りの知らせを知らず、連れてきたメイドまで消えていた。
導ける結論は一つだけだった。
考えてみれば、犬をわざわざ連れてきたこと自体、あの女らしくなかった。
出発前から、逃走を計画していたのだろう。
ハンスの報告によれば、アルデンヌの本邸では銀の燭台と食器が盗まれ、
モリーというメイドが持ち逃げしたと見られていた。
そっけなく応じるバスティアンの静かな瞳は、
空っぽのマルグレーテのクッションに向けられていた。
心配することはない——絶対の摂理のように断言され、ハンスは引き下がるしかなかった。
「妻のことは僕の管轄です」
通知文のような手紙
タバコを三本目まで灰にしてから、バスティアンは封筒を手に寝室へ戻った。
ベッドの端に腰かけ、封を破った。
光と闇の境界に置かれた顔には、何の感情も浮かんでいなかった。
『まず、このような形で別れることになったことについて、お詫び申し上げます』
手紙は、通知文のように味気ない挨拶で始まっていた。
—— すべてを台無しにしておきながら良い終わりを望んだ欲が、
互いを破滅させる最悪の終わりをもたらした。
今から過ちを収拾する道は、一日も早くこの契約を終わらせることだけ——。
淡々と綴られていた。
手紙は、モリーの正体も明かしていた。
テオドラの手先であり、それを通じて本家と内通していたこと。
追放すれば別の人間をつけられるため処分を保留したこと。
モリーのことは、自分の手で始末してから去ること。
そして、離婚状と共に、皇帝宛ての手紙が同封されていた—— まるで、皇帝の手で死にたいとでも言うように、詳細に書き記された罪の備忘録のようだった。
『どうか、あなたの損失を最小限に抑える方法で処理してください。』
『あなたの世界の外で静かに生きていくことで、責任を果たしたいと思います』
火を握った手
もう一度時間を確認したバスティアンは、
くわえていたタバコを、そのまま手の中で握りつぶした。
肌が焼ける痛みにも、火を握った手を離さない。
素直に従う女でないことは、よく知っていた。
だが、まさかここまで狂った真似をするとは。
少なくとも、最低限の道理をわきまえないほど愚かな部類ではなかったはずだ。
——いったい、なぜだ?
記憶をたどりながら、破り捨てた手紙と離婚状を火に投げ入れる。
その動作は、極度に抑制され、静かだった。
——「家族」
やがて答えを見つけた眼差しが、細くなる。
家族のことになると、ひどく無謀で愚かになる女だった。
だが父は死に、妹は新しい家庭と共に去った。
残る可能性は、ただ一つ。
——公爵夫人の推測は、間違っていなかったようだ。
その結論と同時に、呼び鈴が鳴った。
待っていた名前
ドアの向こうには、困惑した支配人と、靴磨きのカバンを提げた幼い少年が立っていた。
どうしても直接渡せと命じられたという手紙を、
少年は駄賃と引き換えに、懐の奥から差し出した。
バスティアンは、火傷を負った手でそれを受け取った。
蜜蝋で固く封じられた封筒の表には、待ち望んでいた、まさにその名前があった。
—— ケラー
過去2年間、オデットの影の役割を果たしてきた、あの探偵だった。
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