🌹 本記事は『バスティアン』原作108話をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分は原作の表現を引用しています。
バスティアンが皇宮へ発つ前に、オデットは寝室で彼と向き合った。
今夜が、この結婚の終わりに向けた最初の一手になるはずだった。
覚悟
バスティアンが早く帰宅した。
そしてまた外出する。
目的地は皇宮。
この結婚を終わらせるための交渉をする、
まさにその場所だった。
ただ予定されていた未来が近づいてきただけだ。
オデットは流れに逆らいたくなかった。
苦痛がさらに深まるだけだから。
着替えて、バスティアンに会って、
また普通の午後を過ごせばいいだけのことだ。
考えを整理したオデットは、
まず帽子と手袋を脱ぎ、身につけていた宝石を外した。
痩せたせいで緩くなった結婚指輪は、化粧台の上に置いた。
ほどいた髪を梳かし始めた頃、いつもと違う雰囲気を察した。
「……メグ?」
マルグレーテが見当たらないことに気づいたオデットは、
慌てて化粧台の前から立ち上がった。
手にしていた金の櫛を落としたのと、日差しが降り注ぐ窓辺に静かに佇む男を見つけたのは、
ほぼ同時だった。
厚かましい女として
衝撃と混乱に、オデットが目を瞬かせている間に、
バスティアンが近づき始めた
オデットとの間に一歩分の距離を残して立ち止まった彼は、
丁重に黙礼した。
かろうじて意識を保ったオデットは、それに見合う格式ある挨拶で返した。
「皇帝陛下に謁見なさると伺いました。
取引が滞りなく成立してよかったわ。おめでとう、バスティアン」
顔が徐々に赤くなるのを感じたが、オデットはひるまなかった。
隠しきれないのなら、毅然としようと決めた。
惨めな姿で、この結婚の最後を飾りたくはなかったから。
それならば、いっそ厚かましい女として記憶されたいと願った。
「今までありがとう……そして、ごめんなさい」
数えきれないほどの思考と、感情の激流が過ぎ去った後に残ったのは、
結局そんなありふれた一言だけだった。
「あなたの決定を教えてください。従いますから」

私はあなたを憎んでいる
バスティアンは、オデットを見つめていた目を伏せ、
手首の時計を確認した。
—— 四時。
そろそろ決着をつけなければならない時だった。
探偵が報告したオデットの行動は、バスティアンの予想をはるかに超えていた。
いっそ、あの男やもめと関係を持っていたという知らせを聞く方がましだったかもしれない。
少なくともそれは、理解の範疇にある行動だからだ。
家族のために人生を人質に取られ、
家族のために裏切り、
そしてまた、家族だ。
その忌まわしい、家族に対するオデットの盲目的な献身と愛は、
バスティアンにとって今や驚きすら覚えるほどだった。
しかし、実際に自分の人生を泥沼から救った恩人の背中には、
平気でナイフを突き刺した女だった。
その事実を思い出すと、罵詈雑言混じりの乾いた笑いがフッと漏れた。
今さら純真なふりをする女を通り過ぎたバスティアンの視線は、
壁にかけられた額縁の上で釘付けになったように止まった。
海軍祭りの宣伝物として配布された、甘い偽りの瞬間を捉えたあの写真だった。
喪服のベールを脱いだオデットを見た瞬間から感じていた、あの微かな違和感。
バスティアンは今、その正体をようやく理解した気がした。
オデットは写真の中の女とは、似ているようでどこか違っていた。
以前より痩せてはいたが、その輪郭も雰囲気も、むしろ以前より柔らかく成熟して見えた。
苦しい歳月をくぐり抜けるうちに、
かすかに残っていた少女の面影は消え、一人の大人の女性へと変わっていた。
その変化を目の当たりにした瞬間、バスティアンはふと悟った。
過去のオデットがどれほど幼い女だったのか。
そして、その幼い女に踊らされ、裏切られた自分がどれほど情けない間抜け者だったのかも。
バスティアンは静かに目を伏せた。
祈るように重ねられた青白い両手。
その指先が奏でた旋律を覚えている。
ピアノを弾く女を照らしていた月明かりと、
その瞬間が永遠であってほしいと願った愚かな心まで。
—— 僕は、あなたを憎んでいる。
絶え間ない自己欺瞞の下に隠してきた本心を、バスティアンはもう認めることにした。
墓石に刻んだ名前だと決めつけていた瞬間でさえ、実は知っていた。
その墓を掘り返し、棺を叩き壊してでも、必ず決着をつけたかったということを。
この女を踏みつけ、傷つけ、壊したかった。
そうして、彼の足元にひざまずき、泣かせたかった。
その下劣な欲望に直面したとき、
バスティアンはついに理解できたようだった。
この女にはひどい苦痛を、
彼にはそれに見合うだけの利益を与える代償を。
今まで思いつきもしなかったという事実が虚しいほど、簡単な答えだった。
審判
眉をひそめて笑ったバスティアンが、最後のもう一歩を詰めてきた。
「涙ぐましいお別れの挨拶は、また今度にでもした方がよさそうです。
僕の決定に従うには、少し時間が必要になるでしょうから」
本能的な脅威を感じたオデットは、思わず後ずさりした。
しかしバスティアンは、その間隔さえも崩しながら迫ってきた。
ドレスの裾に足を取られたオデットが小さな悲鳴を上げると、
バスティアンが抱きとめた。
「気をつけてください。借りをすべて返済する前に体を壊されては困る」
罠にかかった鳥のようにじたばたともがく女からは、
柔らかく甘い香りがした。
大きくて硬い手が、オデットの顔を掴んだ。
逃れようともがいてみたが、
バスティアンはさほど力を込めることなく、彼女を完璧に制圧した。
「僕の子を産むんだ」
ついに審判を下す声が、永遠に終わらないかと思われた静寂の中に流れ込んできた。
オデットは、理解できない外国語でも聞いたかのような顔で、
呆然とバスティアンを見つめた。
「あなたが持っているのは、その素晴らしい血統一つだけではないですか?
ですから、それで借りを返せという意味です。
皇室の血が混ざった子どもであれば、まずまず満足のいく代償になるでしょうから」
「……いっそ私を牢屋に送ってください!それを望んでいたのでしょう!」
バスティアンはゆっくりと頭を下げて、オデットと目線の高さを合わせた。
「君は、子どもが生まれたらすぐに離婚させられるだろう、オデット。そして、君が産んだ子どもに、一生、二度と会えなくなるだろう。その子どもは僕とサンドリンの子どもとして育つことになるからな」
光を失っていくオデットの瞳を見つめながら、
バスティアンは淡々と自分の決定を告げた。
「……今、あなたは一体何を言っているのかわかっているの?」
「少し面倒ではありますが、仕方ないでしょう。父親はすでに死んでしまいましたし、命のように大切にしている妹は、すぐに姉を捨てて去っていくでしょうから、新しく一つ作って奪うしかない」
—— 子どもを産め。
—— そして、去れ。
オデットが最も愛するものを奪う。
それがバスティアンの判決だった。
オデットは、魂が抜けたかのように、呆然とそのおぞましい要求を反芻した。
いったい何が起こっているのか、うまく理解できなかった。
悪夢を見ているのだと信じるほうが、よほどましな気がした。
「僕にとって一番大切なものを台無しにしたのだから、君も一番大切なものを失うのが公平な取引だろう。 違いますか?」
フリルをいじっていたバスティアンの指先に力がこもった。
オデットがそれに気づくと同時に、
ドレスのボタンが弾け飛ぶ音が聞こえてきた。
決して夢ではない、生々しい感覚だった。
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