🌹 本記事は『バスティアン』原作86話をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分は原作の表現を引用しています。
宝石店のテーブルに、ダイヤモンドが並んでいた。
オデットは帰ろうと繰り返し、バスティアンは引かなかった。
そして深夜、アルデンヌに戻った二人の寝室で、バスティアンは目を覚ました。
帰ろうとするオデット
「もう帰りましょう」
ネックレス、指輪、イヤリング。何を勧められても結果は同じだった。
せきたてるように名前を呼ぶオデットの声が、か細く震えていた。
周囲を窺うような焦燥に満ちた眼差しと、
バスティアンの上着の袖口を掴んだ青白い指先も同様だった。
しかしバスティアンは引かなかった。
いいものを贈りたかった。
小切手帳にサインをするだけで果たしてきた義務とは違う、何か。
この女を喜ばせること以外に何の目的も持たない、
いわばあの青いアヤメのようなもの。
花瓶に生けられたアヤメは、数日間寝室を飾っていた。
オデットは頻繁にその花を見つめた。
時には静かにそのそばに佇んだり、花びらをなでたりもした。
とても穏やかそうな顔で、静かな微笑みを浮かべながら。
宝石は永遠にしおれないのだから、これ以上のものはないだろう。
「どのようなものをお探しですか?」
「常に身に着けていられる宝石がいい」
宝石商の主人が考え込んでから、指輪のケースを並べた。
どのダイヤモンドリングも美しかったが、それ以上の感動は呼び起こさなかった。
女の宝石を選ぶ目利きなど、バスティアンにはなかった。
その事実を受け入れたバスティアンは、直接ぶつかってみる道を選んだ。
まずオデットの手首を掴み、一番近くにあった指輪を手に取った。
手を抜こうとするオデットの抵抗をやすやすと制圧し、慎重に最初の指輪をはめた。
じっくりと見てからそれを外すと、宝石商が次の指輪を差し出した。
一つ、また一つと。
バスティアンは同じやり方で指輪をはめ、鑑賞し、また外すのを繰り返した。
諦めたオデットは、じっと目を伏せたまま手を預けていた。
まつげの影が落ちた目元が赤かった。
バスティアンは静かな微笑みを浮かべて最後の指輪をはめた。
四角くカットされた青いダイヤモンドの縁に、
小さく透明なダイヤモンドの破片を何重もの花びらの形に配置した指輪だった。
濃い青のダイヤモンドの輝きが、オデットの青白い肌と調和していた。
満開の花の形をモチーフにしているという点も気に入った。
バスティアンは、最後の指輪を外さないことで自分の決断を伝えた。
「このような輝きのダイヤモンドは珍しい。最高等級である上に特別に細工にも力を入れました。帝国中どこを探しても見つからないでしょう」
「少し緩いようだが」
「クラウヴィッツ夫人の指がとりわけ細いからでございます。今週末までにお直しいたします」
「ああ! ローザンヌへ出発されますな!」
興奮した宝石商の顔が紅潮した。
バスティアンは落ち着いた頷きで返事をした。
懇願するように見つめるオデットに与えられる答えは、それがすべてだった。
深夜の悪夢
アルデンヌには相変わらず雨が降っていた。
なかなか寝付けずに寝返りを打っていたオデットは、
諦めの溜め息をついて体を起こした。
置き時計は、いつの間にか二時をとうに過ぎた時間を指していた。
夜が明けたら、テオドラ・クラウヴィッツに会わなければならない。
オデットはもう一度任務を心に刻み、クローゼットの中を確かめた。
渡す書類を隠しておいた場所だ。
バスティアンとサンドリンの関係は、相変わらず深そうに見えた。
男の欲望に無駄な期待を抱いた女の末路がどれほど悲惨なものか、
オデットはよく知っていた。
それは毒杯と同じだった。
オデットは揺らぐ心を立て直すように、布団の端を掴んだ。
微動だにしなかったバスティアンが、突然眠りから覚めたのはその時だった。
突風が吹き荒れる音が、寝室の静寂を破った。そ
の騒音の中でも、バスティアンはただじっと虚空を見つめていた。
バスティアンの呼吸が次第に乱れていった。
それとは対照的に、虚ろな瞳は沼のように深く静かだった。
まるで目を開けたまま悪夢の中をさまよっているかのようだった。
「バスティアン」
オデットは用心深く名前を呼んだ。
何度か呼んでも効果がないため、慌てて彼を揺さぶり始めた。
虚空をさまよっていたバスティアンの視線は、
しばらく経ってからようやくオデットに届いた。
「あっ……!」
安堵のため息をついたオデットの唇から、か細い呻き声が漏れ出た。
手首を掴んだバスティアンの不意打ちのせいだった。
掴まれた手首の痛みにこれ以上耐えられなくなった頃、
バスティアンの瞳は次第に焦点を取り戻していった。
「オデット」
そのままオデットを放したバスティアンは、その手でゆっくりと顔をなで下ろした。
上品とは言えない罵りの混じった独り言の後に、深い嘆息が続いた。
「電気をつけないでください」
「眠っている時は俺に触れないでください、オデット」
ぎゅっと閉じていた目を開けたバスティアンが、低く囁いた。
ひどく優しいため、かえって冷たく感じられる声だった。
「悪い夢を見ているようだったから、そうしたんです」
バスティアンは何も答えなかった。
じっと見つめているだけだったが、ついにその視線さえも外してしまった。
「……ごめんなさい」
バスティアンは相変わらず沈黙を守るだけだった。
まるで冷たい壁が築かれたかのようだった。
あの行為と、突然押し付けられた分不相応な贈り物が、自分だけの夢だったかのように。
「おやすみなさい、バスティアン」
「あなたも」
バスティアンが返した短い答えからは、かすかに笑っているような気配が感じられた。
しかし、その微かな希望は、間もなく跡形もなく消え去った。
バスティアンが背を向けて横になった。
同じベッドを使うようになってから、初めてのことだった。
一番近くまで来たと思った日に、
バスティアンは再び一番遠い場所まで遠ざかった。
私はこの男を知らない。
オデットがたどり着ける結論は、結局それ一つだけだった。
このような不確実性に、自分とティラの人生を賭けることはできなかった。
甘い毒に酔って破滅する女になりたくはなかった。
ようやくうとうとと眠りについた瞬間に、思い浮かんだ最後の考えだった。
テオドラの朝
夜が明ける頃になると、一晩中降り続いた雨が上がった。
正午に近くなって目を覚ましたテオドラは、
頭痛を和らげるための酒をグラスいっぱいに注いだ。
オデットに大口を叩いたものの、本当は血の気が引いていくような気分だった。
ジェフ・クラウヴィッツは今すぐにでもダイヤモンド鉱山を手に入れたくて焦っていた。
ひとまず引き留めてはみたものの、
いつまで手綱を締めつけられるか自信がなかった。
あの子はバスティアンの執務室に無事に入れただろうか。
息苦しいほどの不安に耐えられなくなった頃、
ナンシーが小走りでやって来て、姪が持ってきたメモを渡した。
オデットからだった。
それを確認したテオドラは、まだ一口も飲んでいない酒をそのままに、席を立った。
まともに寝ていなかったため顔はやつれていたが、
いつの間にか歓喜の微笑みが浮かんでいた。
「出かける準備をしておくれ。早く!」
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