🌹 本記事は『バスティアン』原作85話をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分は原作の表現を引用しています。
バスティアンが廊下に出た。
オデットに残された時間は、十分もなかった。
引き出しを開けた
ドアが閉まり、足音が遠ざかると、オデットは急いでソファに隠した鍵を取り出した。
まだ服を着ていない状態だったが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
まず執務室のドアに鍵をかけ、まっすぐデスクへと向かった。
施錠された引き出しの一番下の段に鍵を差し込み、力を込めて回した。
カチリと、滑らかに開くロックの音が、荒い息遣いの中に響き渡った。
書類フォルダは表面のラベルに書かれた頭文字の順序で完璧に整理されていた。
そういえば、屋敷の書斎にあった書類も同じように整理されていた。
あの男の習慣のようだった。
——「ダイヤモンド」
その宝石の頭文字がある区画を、急いで探し始めた。
合間合間に時間を確認することも忘れなかった。
チクタクと音を立てる時計の針が、神経を蝕んでいくような気分だった。
長くても10分。
その間に見つけられなければ、終わりだ。
きつく目を閉じて視界を曇らせる水分を拭い、
悪寒が走るように震える指先にも力を込めた。
ようやくその名前がついたラベルを見つけたが、鉱山に関連する書類ではなかった。
次の、その次の書類を探すうちに、5分が過ぎた。
—— ダイヤモンド鉱山
切に願っていたそのラベルがついた書類を見つけたのは、
目の前が真っ白になり始めた頃だった。
一瞬にして緊張が解けたオデットは、そのままカーペットの上にどっと座り込んでしまった。
まるで全速力で走ったかのように息が切れた。
吐き気が込み上げてくるようだった。
泣きたくもなった。
証拠を隠した
ようやく体を支えられるようになったオデットは、
引き出しの前まで這っていき、床に散らばった書類を整理し始めた。
飾り棚のガラスドアに映った自分の姿と向き合うことになったのは、
ちょうどその引き出しを再び施錠した瞬間だった。
ガラスに映った自分の姿を見て、オデットは一瞬足を止めた。
まだ身に着けている真珠のネックレスとストッキングが、
その女をさらに淫らで下品に見せていた。
オデットは大きな波のように押し寄せる嫌悪感を何とか無視し、
立ち上がった。
引きちぎった紙は小さく折りたたんで上着の内ポケットに入れ、書類フォルダは暖炉の炎の中に投げ入れた。
鍵はソファの前の適当な位置に落としておいた。
バスティアンがうっかり落としたように見えるように。
あの男の下で喘いでいる最中に思いついた妙案だった。
—— これでよし。
もう一度状況を整理したオデットは、慌てて服を着た。
自分の体がどう動いているのか、自分でもわからなかった。
まるで奇妙な覚醒状態に入ったような気分だった。
上着を着せてやった
ブラウスの最後のボタンを留めた時、規則的なノックの音が聞こえてきた。
「どうぞ」
ゆっくりとドアを開けたバスティアンは、特に何も言わずに執務室に入ってきた。
目が合うと、オデットはにこりと愛らしい微笑みを浮かべた。
「ごめんなさい。もう髪を整えるだけなのですが。もう少し待っていただけますか?」
バスティアンは快く頷き、ウィングチェアに腰掛けた。
忙しなく動く白い指が、夜のように黒い髪と対照をなしていた。
今もその体中に残っているであろう自分の痕跡を思い返すバスティアンの指先に、
ぐっと力がこもった。
「終わりました」
バスティアンと目が合ったオデットは、滑らかな微笑みを浮かべた。
あのソファの上で無残にも乱れていた女だとは信じられない姿だった。
—— 自分は一体、彼女にとって何なのだろう。
バスティアンは、はかない疑問を飲み込みながら立ち上がった。
カーペットの上に落ちている、デスクの引き出しの鍵が目に入った。
オデットと戯れているときに落としたようだった。
バスティアンは、何でもないことのように拾い上げた鍵をジャケットのポケットに入れた。
ハンガーにかかっていた自分の上着を羽織ったバスティアンは、
続いて暖炉の前に広げておいたオデットの上着を手に取った。
「大丈夫です、バスティアン、私がやります」
ひどく驚いた顔をしたオデットが近づいてきた。
この女に、この程度のマナーすら示してこなかったというのか。
バスティアンはわずかに眉をひそめながら、オデットに上着を着せてやった。
何事もなかったかのように振る舞っていたオデットが、ようやく素直な感情を見せた。
恥ずかしさで赤くなった頬が美しかった。
そっと伏せた目の下には、まつげの影が同じように落ちていた。
車窓の観覧車
雨粒のついた車の窓ガラスが、
アトラクションの光を幻想的に見せていた。よりによって、そこに観覧車が建っていた。
オデットは必死にため息を飲み込み、
運転中のバスティアンの横顔を観察した。
バスティアン・クラウヴィッツは、
莫大な利益のために偽りの結婚を計画した冷血漢だった。
ただ、そのようにだけ、思えるならいいのに。
オデットは慌てて助手席の窓の外に視線を逸らし、揺れる眼差しを隠した。
バスティアン・クラウヴィッツは、ありがたい人だった。
世間が定めた道徳や規範の基準はどうあれ、少なくともオデットにとってはそうだった。
その好意と親切を享受した日々の記憶が、観覧車の明かりの中で一つひとつ蘇った。
バスティアンはまもなく、
父親への復讐が失敗に終わったという事実を知ることになるだろう。
それはテオドラへの協力を決心した時点で、すでに覚悟していたことだった。
しかし、この結婚が滞りなく終わるまでは、あの男がそれに気づかなければいいのにと、オデットはふと思った。
すべてが片付いた後なら、傷も少ないだろうから。
もちろん、すべては結局、厚かましく身勝手な欲望に過ぎないだろうが。
オデットは、愚かな感傷を呼び起こす光を避けるため、視線を落とした。
プレヴェ大通りの宝石店
視線を落とした先に、
豪華なショーウィンドウを備えた宝石店があった。
「オデット」
静かに名前を呼んでみても、オデットは振り返らなかった。
ここまでくると、一体何がこの女をこれほど魅了したのか気になり始めた。
路面電車が通り過ぎると、道路の渋滞が解消された。
ゆっくりと速度を上げていたバスティアンは、衝動的にハンドルを切った。
プレヴェ大通りの高級商店街。
少し前のあの宝石店がある方向だった。
閉店間際の店に入ってきた客に驚いた宝石商の主人は、
しかしすぐに心からの笑顔を取り戻した。
「バスティアン。もう帰りましょう」
「そうじゃないんです。私は本当に何も望んでいませんから……」
「もう準備ができたようですな。こちらへどうぞ」
商売を邪魔しようとする客を急いで制止した彼は、店の奥へ大尉夫妻を案内した。
金庫から本物の宝石を持ってくると、オデットは思わず小さく感嘆の声を漏らした。
照明の光を反射する宝石たちの、うっとりするような輝きが目を刺した。
様々な色とりどりの光を放っているが、種類はすべて同じだった。
オデットが盗んだ書類に記された、あの名前と同じ宝石。
ダイヤモンドだった。
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