失われた未来④|94話 まだだ ─ 花火の下で、最後のキス

失われた未来④|94話 まだだ ─ 花火の下で、最後のキス 原作本編

🌹 本記事は『バスティアン』原作94話をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分は原作の表現を引用しています。

祭りの最後の夜。

バスティアンはオデットの腰を抱いたまま、笑みを崩さなかった。
オデットは失神寸前だった。

そして花火が上がった。

甲板の夫婦

「このような奥様を残して、たった一人で発つとは。クラウヴィッツ少佐はやはり意志の強い軍人だな」

年配の提督が気のない冗談を言った。
バスティアンと話している間も、視線はオデットから離れなかった。

「貴く大切な人なので、大切にしてあげたいのです」

バスティアンの図々しい答えに、ワハハと愉快な笑いが爆発した。
将軍たちが去ると、ようやく一息ついた瞬間にも、
バスティアンは妻の腰を抱きしめた手を離さなかった。

人生最高の時を過ごしていると疑わないような姿だった。

「笑うんだ」

魂が抜けたように虚空を見つめていたオデットは、その時ようやくハッと驚いて顔を上げた。
目が合うと、熱を帯びた頬がさらに赤く染まった。

「妹のためなら命も捧げる勢いだったのに。その間に心でも変わりましたか?」
「答えろ、オデット」

バスティアンの声は、ぞっとするほど低く沈んでいた。
視線を避けるのに必死だったオデットは、
その時になってようやくバスティアンをまともに見つめた。

いっそオデットが泣いてくれればいいのにと、バスティアンはふと思った。

いつわりの涙でも流しながら許しを請い、懇願する姿が見たかった。
一分一秒たりともこれ以上耐えられないほどにうんざりするほど。

そうなれば、まだ残っている取引を忘れて、
この女を捨てることもできるだろうと思われた。

「……ごめんなさい」

細い腰を抱きしめた指先に、ぎゅっと力がこもり始めた頃、
オデットは震える唇を開いた。

バスティアンは熱を帯びた溜め息を静かに吐き出した。

涙を拭ったオデットの両目は、再び深い水のように冷たく静かになった。
頑なに結ばれた唇と、まっすぐに伸ばされた長い首が、孤高な印象を一層際立たせていた。

オデットは素晴らしい女優だった。
自分だけの妄想に囚われて忘れかけていたあの事実を、バスティアンはふと思い出した。
それはオデットを契約結婚の相手に選んだ最大の理由でもあった。

それでも、この女を信じた。

自分がどれほど愚かだったかを改めて悟った瞬間、オデットは笑った。
甲板を飾る色とりどりの提灯の光の中で。

無駄な夢を見させてくれた日々と同じくらい美しく。

結局、すべての瞬間が嘘だった。

失神寸前

クラウヴィッツ少佐夫妻の席は、船首の上部甲板に用意された。
英雄に対する皇帝の配慮だった。

もう限界だった。

どうにか耐え抜こうと必死に頑張ってみたが、
疲れ切った体はすでに意志の統制を離れていた。

両足から感覚が消え、視界がぼやけてきた。

—— もう少しだけ。

オデットは口の中の柔らかい皮膚を噛みしめ、自分を叱咤した。
花火が終わって艦艇が帰港するまで我慢すればいいだけのことだった。

乱れた息を整えたオデットは、手を伸ばして甲板の手すりを掴んだ。

それと同時に、パーンと、最初の花火が打ち上がった。
その爆音とともに沸き起こった群衆の歓声が、街全体を揺るがし始めた。

しかし虚ろになったオデットの瞳は、もはや何も映し出さなかった。

一瞬、世界の音が消えた。
続いて光が消え、足元が崩れた。

—— どうか。

もうすべて終わってしまったという無力感の中でも、
オデットは最後の未練を捨てられなかった。

その刑罰のような希望が恐ろしくて、泣き声が漏れそうになった瞬間、
バスティアンが近づいてきた。

長い海岸線に設置されていた花火が、一斉に天高く舞い上がった。
空高くに届いた花火が咲き誇ると、ローザンヌの夜はきらびやかな黄金色に染まった。

バスティアンは、その黄金の雨の下でオデットを抱きしめた。
見物人の視線など気にしなかった。
オデットの抵抗も同じだった。

失神寸前のオデットを腕の中に抱き隠した。
誰もこの女の状態に気づかないように、深く、もっと深く。

—— まだだ。

この女の人生に終止符を打つのは、彼でなければならなかった。
だからその日が来るまで、オデットは決して崩れてはならなかった。

バスティアンは、怯えた獣をなだめるようにオデットの背中を撫でながら周囲をうかがった。
花火よりスリリングな見世物を見つけた船上パーティーの客たちが、彼らを注視していた。
皇帝も例外ではなかった。

その夜、誰もが英雄の愛を見ていた

最後のキス

オデットは花火のクライマックスが近づいて、
ようやくパニック状態から抜け出した。

まだまともに体を支えることはできなかったが、
息遣いはだいぶ落ち着いていた。

バスティアンは手袋をはめた手を上げて、
オデットの額を濡らした冷や汗を拭ってやった。

首を絞めてやりたい衝動が大きくなるほど、
周囲に向ける愛情深い微笑みはますます完璧になっていった。

「耐えるんだ」

バスティアンは、愛を囁くように甘い声で冷酷な命令を下した。

大きくて硬い手が顔を包んだ。
本能的な恐怖が襲ってきたが、オデットは抵抗できなかった。

すでに皆が彼らに注目していた。
視線が作った牢獄に閉じ込められたオデットにできることは、
ただ予定された苦痛を待つことだけだった。

どこからか口笛の音が聞こえてきた。
からかうような歓声もそれに続いた。

ふと、その事実に気づいたオデットの視界が屈辱の涙でぼやけた。

「バスティアン」

思わず囁いた名前が、火薬の匂いが染みついた風に乗って広まった。

バスティアンは、落ち着いた様子で伏せた目でオデットを見つめた。
青白い瞳には、冷たい嘲笑が宿っていた。

最後の希望さえ失ったオデットが気を落とすと同時に、彼が唇を重ねてきた。

オデットは諦めたように目を閉じた。

皇帝の計算

花火の最後は、妻に捧げる英雄のキスで飾られた。
皇帝は満足げな眼差しでその光景を見守った。

なんとドラマチックな場面だろうか。
脚本を書いた張本人でさえ騙してしまうほどの、見事な演技だった。

あの者は、果たして約束した期間が過ぎた後も、
オデットとの結婚を続けるのだろうか。

不敬でありながらも忠実な英雄を見つめる皇帝の眼差しが深くなった。
それが最善だろうが、たとえ離婚したとしても、喜んでその選択を尊重するつもりだった。

一枚の絵のように美しい恋人たちのキスは、最後の花火の下で終わった。
誰も、それが愛ではなく刑罰だとは思わなかった。

皇帝は力強い拍手で彼らを称賛した。

喝采を受けるに足るフィナーレだった。


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