🌹 本記事は、『この結婚はどうせうまくいかない』原作第7巻・終章をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分や必要な箇所では、原作の表現を引用しています。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。
※地名・人名について:本作には現時点で原作小説の公式日本語翻訳版がないため、地名・人名などの固有名詞は原文をもとに当サイトで日本語表記しています。今後、公式日本語版で異なる表記が採用される可能性があります。
終章|風はかつて吹いていた場所へと帰っていく 14
反逆者を鎮圧するために並べられていた艦隊は、今や左右へ割れ、生還した司令官を迎え入れていた。
マレバへ戻ったカッセルを待っていたのは、
何事もなかったかのように親しげな笑みを浮かべるバルカ中佐。
そしてバルカは、カッセルを救出したマウリシオたちに、軍律に則った「即決処分」を求める。
だが、その軍律はまもなく、バルカ自身へと向けられることになる。
本当に、帰ってきたのだ
艦隊の半数は港とその周辺に停泊し、残る半数は海岸沿いに長く横一列の陣を敷いていた。
つい先ほどまで、反逆者を鎮圧するために配置されていた海軍だ。
それが皮肉にも左右へと割れ、憎々しいはずの離脱者たちの艦船を迎え入れるため、大騒ぎになっていた。
本当に、カッセル・エスカランテが帰ってきたのだ。 生きて。
せめて息子の遺体だけでも公爵夫人のもとへ届けられたらと、
沈痛な思いで彼らを応援していた者たちも。
大佐が亡くなられるはずなどないと、
何の根拠もない信仰にも似た確信を貫いていた者たちも。
誰もが満足できる結末だった。
司令官が帰還してきたというのに、それをどうして反乱だと追及できるだろう。
上官を帰還させるために一時的に持ち出した艦船を、
いったいどんな口実で利敵行為だとして砲撃できるというのか。
横一列に並んだ艦隊の間を、エスカランテ大佐の旗艦が悠然と通り抜けていく。
そのたびに、船という船から巨大な歓声が沸き起こった。
慎み深さを世間に対してばかり要求して
「ディオ・ミオ。エスカランテ! 君は本当に生きていたのだな」
「バルカ中佐」
たった五隻を相手に数十隻もの艦船を整列させていたというのに、バルカ侯爵はまるで彼の帰還を心待ちにしていたかのようにマレバ港へ姿を現し、カッセルを出迎えた。
昔と変わらぬ、親しげな笑みを浮かべて。
たとえ現在はカッセルが上官であっても、軍歴ではバルカの方が遥かに長く、かつては直属の上官でもあった。
カルステラでは、そうした過去の上下関係も無視されない。私的な場であれば、先輩である部下が多少礼を崩すことも許される。
だが、今は全軍が司令官の帰還を迎えている最中だった。
その場で、部下であるバルカが上官に敬語を使わない。
筋を通す方法があるとすれば、軍人ではなく、エスカランテ小公爵とバルカ侯爵として振る舞うことだった。
バルカには三百年以上受け継がれてきた侯爵位がある。
——メンドーサでは、私がいまだにお前より上にいることを忘れるな。
そんな暗示まで織り交ぜ、バルカは周囲の目から自分を守ろうとしていた。
(慎み深さを世間に対してばかり要求して、どうするつもりだ)
カッセルは舌打ちすると馬へ飛び乗り、大領主の城へ向かった。
その間もバルカはぴたりと横につき、カッセルが留守にしていた間に自分が何を成し遂げたのか、どのようにラス・サンディアゴを最後まで服属させたのかを、息つく暇もなく語り続けていた。
まるで自分が、占領に一秒でも貢献したかのように。 まるで、すべてが何事もなかったかのように正常へ戻りつつあるかのように。
すでに遅いゆえ、即決処分を望む
大領主の城は、マレバと周囲の海を四方に見渡せる高い丘の上に建っていた。
カッセルは、まるで自分の城へ帰ってきたかのように馬から飛び降りると、大股で巨大なホールへと入っていく。 中を行き交っていた水兵たちは、一斉に顔をほころばせ、次々と敬礼を送った。
ホールの最前部には、一段高く設けられた壇上に巨大な円卓が鎮座している。
かつて大領主と領主たちが取り囲んで座っていたその場所には、オルテガ海軍の海図とマレバの海図が、照らし合わせるように並べられていた。
カッセルは最上席へと向かい、じっとそれを見下ろした。
「ところで、君の副官のことだがね。マウリシオだ」
なぜだ、と短く問い返すことさえなく、カッセルは静かに目を上げて彼を見た。
バルカ中佐は一瞬怯んだものの、すぐに何もかもを丸く収めてしまうような、いつもの人好きのする笑みを浮かべる。 そしてカッセルの怪我をしていない方の肩を、ぽんぽんと叩いた。
誰も信じなかった荒唐無稽な話ひとつを頼りに、あれほど危険なことをやってのけるとは。 誰の副官だか、実に大したものだ——と。
「その通りです」
「こうして奇跡的に生きている姿を目にすると、言葉も出ないほど嬉しいよ」
「お聞きする限りでは、ずいぶんよく喋っておられるようですが」
「これまた冗談を」
バルカは笑って受け流した。
皇太子殿下が突然崩御されたこと。
君の戦死の報せを皮切りに、オルテガがもはや立ち直れぬほどの痛手を負ったこと。
だが蓋を開けてみれば、エスカランテは生きていた——。
「まったく、何十回労っても足りないほどの人材を持ったということだな。ただ……」
「ただ」と滑らかに続いた言葉に、周囲を取り囲んでいた将校たちの視線がカッセルへ向かった。
カッセルは相変わらず平静に見えた。
品位ある姿勢を崩さず、何食わぬ顔で中佐の言葉に耳を傾けているようにも見える。
「マレバを守れという明確な命令があったにもかかわらず、彼は上官に抗命して無断で軍務を離脱し、他の同僚たちにまで自分と共に上層部へ抗命するよう唆したのだ。健気に思う気持ちは分かるが、これは厳然たる手続き上の問題であり、軍法とは上下の規律に関わる問題なのだ」
「……」
反逆とみなしても差し支えないほどの行為だった。 まして船を五隻も持ち出したとなれば、時期が時期だけに、常識的には利敵行為も同然に見える。
利敵行為を除いたところで、どれも死刑に相当する行為であることは分かるだろう——。
「カッセル。我々は戦時下、戦乱の渦中にいる軍人ではないか」
「もちろん、その通りです」
すべての軍人は軍律に従って処理されねばならん。 大佐が戻るまでは、私が唯一の代理権者だった。 それを破った者たちには、然るべき処分を下した——。
「然るべく、理に適った処分をなされたのでしょう」
「本当に、大佐の名誉に泥を塗らぬよう最善を尽くしたのだ。それをすべて無視し、裏切ったのがあのマウリシオと、その同僚たちだ。功績は認めよう——だが、彼らにも手続き上の処分は必要だ」
「何をお望みなのですか?」
「すでに遅いゆえ、即決処分を望む。大佐さえ私に許可してくれるならば」
静まり返っていた周囲が、一瞬にしてざわめいた。
実質的にマウリシオを後押ししていたエルバ少佐は、やはりそう来たかとでもいうように、傍らに立つ将校の肩をぽんぽんと叩いた。
ただし功績は認め、降格によって死者の名誉を失墜させるようなことは避けようではないか。
戦死として処理すれば、彼らにとっても名誉ある最期となる。
家族も生涯、年金を受け取れるだろうし——。
「つまり私に、『私を救出してくれた部下たちに、救ってくれてありがたいが、手続きを守らなかったからここで射殺されろ』と言えとおっしゃるのですか?」
「それとこれとは厳然たる別問題だ、カッセル。反乱、抗命、離脱。私はすでに警告を与えている。今や私は、この場で奴らを撃ち殺す権限を持っているのだ」
ならば私にも、今この場で
「それは聞き捨てならない、実に嬉しいお言葉ですね。ならば私にも、今この場で中佐を撃ち殺す権限があるということになりますから」
先ほどまでざわめいていた空間が、息遣いさえ聞こえそうなほど静まり返った。
バルカは自分の耳を疑うように眉を上げる。
カッセルが無造作に口を開いた。
「ドミンゴ!」
ホール全体に響き渡る大声だった。
将兵たちがその一声に圧倒されるように、思わず身を竦ませる。 その瞬間、ドミンゴ大尉が部下たちを率いて前へ出た。
「バルカ中佐を捕らえろ」
「はい」
「カッセル!」
「もちろん、侯爵閣下におかれましては、いくらでも私をそのようにお呼びいただいて構いません」
「一体……!」
「ですが、上官を殺害しようとしたバルカのクソ野郎に、馴れ馴れしく名前を呼ばれるのは困ります。それでは私の名誉に関わりますので」
バルカ中佐直属の部下たちがドミンゴを制止しようと飛び出してきたが、すぐさま他の将校たちが飛びかかり、瞬く間に彼らを制圧した。
その様子を見ていた一部の水兵たちから、早くも笑い声が漏れる。
バルカの顔が、これ以上ないほどの屈辱に染まった。
「こんな法があるものか! カッセル! 一体何を根拠に!」
「ないわけがないでしょう。すでに中佐ご自身の口から、いくつかは認められたも同然です。上官殺害。反逆。利敵行為。内通……マウリシオたちの罪状と、まるで鏡写しのように重なっていますね。たった今も、大声で抗命なさいましたし」
「何を!」
「しかし、マウリシオには情状を酌量すべきいくつもの功績があるのに対し、中佐には何ひとつ功績を見出すことができません。このままでは軍律が正しく保たれず、規律が弛んでしまうのではありませんか?」
「エスカランテ! 何を馬鹿げたことを言っている!」
「ブルゴスの残党を連れてこい!」
なぜ、ガンベラだったのか
ほどなくして、ブルゴスの残党たちがホールの中央へと引きずり出されてきた。下船する前から尋問を受け続けていた彼らは、もはや誰一人として無事な姿ではなかった。
カッセルがエルバ少佐に目配せする。 少佐は、通訳のできる副官を伴って前へ進み出た。
「エスカランテ大佐をガンベラへ拉致したのは、34日前。間違いないか?」
「間違いありません」
副官が、質問と答えを交互にラマンチャ語とオルテガ語で声高に通訳した。 オルテガ軍にはラマンチャ語をある程度聞き取れる者が相当数いたため、証言をでっち上げる余地はなかった。
(何だと、拉致だと……?)
何となくバルカ中佐に不利な流れになっていることを喜んではいたものの、肝心の理由までは知らなかった将兵たちにとって、「拉致」という言葉は大きな波紋を呼んだ。
殺さんばかりの視線が、一斉に中央の海賊たちへ注がれる。
「拉致を指図したのは誰だ?」
「ブルゴスから最後の指示を受けておりました。彼は、バルカ中佐が諸島へ上陸するより前に、すでに接触に成功していたと言っていました。中佐の望みどおりエスカランテ大佐を確実に殺害すれば、大領主の利権の一部を譲り受ける約束を取り付けた、と」
戦闘中も、その後も、こちらは付近を捜索し続けていた。
どうやってそこへ潜り込み、大佐を連れ去ったというのか。
「我々が直接出向く必要はございませんでした。あなた方の内部に裏切り者がいたからです。明け方、とある無人島へ大佐が打ち上げられたところを、捜索中に密かに連れ去ったようでした」
ならば、わざわざガンベラまで運ぶ必要も、お前たちの手を借りて殺す必要もなかったはずだ。
「奴らは、死線を彷徨っている大佐を時限爆弾のように恐れておりました。近くにそのまま置いておけば、軍医たちに発見されて助けられるかもしれない。それを危惧していたのです」
かといって、絞め殺して再び海へ投げ込めば——海へ転落した時にはなかったはずの死因の痕跡を残した状態で、オルテガ軍に発見されかねない。 だからこそ、生きていようが死んでいようが、一刻も早くスパニラから遠ざけることだけを望んだのだと。
なぜ、南部のガンベラで見つかったのか。
その答えが、ここでようやく明らかになった。
自然に流れ着いたのではない。
近くに置けば助けられ、殺せば痕跡が残る。
だから、運ばせたのだ。
「なぜ、すぐに殺さなかった?」
「わざわざ手を下さなくとも、放っておけば勝手に死ぬだろうと考えたからです」
先ほど牢獄で「そうだ」「その通りだ」という返答を繰り返しながら、徹底的に叩き込まれた内容が、バスケスの口から淀みなく出てきた。
自分で賢いと吹聴していたのも伊達ではない、とでも言わんばかりに。
「ならば、我らが大佐はなぜ、あのように健在でおられるのだ?」
「我々が考えを変えたからです」
「どのように?」
「考えてみれば、エスカランテ大佐は死んでいるより生かしておく方がはるかに高くついたからです」
殺して得られる報酬より、生きたエスカランテを利用して得られる富の方が大きい。
海賊たちは、そう考えたのだ。
あちこちから、納得したような嘆息が漏れた。
そうだ。 比べるまでもない。
その間、全部嘘だ、これはあのクソ野郎が仕組んだ陰謀だ、私は無実だ——そう金切り声を上げて地団駄を踏んでいた中佐は、とっくに口を塞がれ、今や身をよじって暴れていた。
軍の反逆者か、民間の殺人者か
「――だそうだ、バルカ中佐」
「……」
「中佐のお言葉に従えば、我々はすべての戦闘を終えたにもかかわらず、いまだ戦時下、戦乱の真っただ中にいることになります。戦時においては何よりも軍律が重んじられ、既存のあらゆる刑罰もより重くなるものです。おかげで、今すぐ私自身の手で中佐をこの場で処刑できる根拠が、少なくとも五つは数えられますが……さて、どのような処分が妥当でしょうか?」
「……」
「誤解なさらないでください、侯爵。私が侯爵に個人的な怨恨を抱いているわけではありません。ただこれは、侯爵がマウリシオに望まれたのと同じく、あくまで手続き上の問題であり、オルテガの軍法を正しく立て直すための規律の問題なのです」
「……」
「やはり老練でいらっしゃると言うべきでしょうか。戦死者として処理し、遺族には末永く年金を受け取らせてやる——慈悲深い発想が、特にそうでしたね。私も同じようにお返ししてはどうかと思うのですが」
「……」
「侯爵夫人が遺族年金を受け取れるよう、配慮して差し上げましょう」
遺族年金は通常、軍人の家庭にとってはそれなりに心強い足しになるものだった。
しかし、バルカ侯爵ほどの者にとっては、嘲笑にしかならないような小銭に過ぎない。
死ねば、その金くらいはくれてやろうというのだ。
侯爵の目が青く燃え上がったその瞬間、カッセルが一歩踏み込み、間近まで迫った。
「中佐。『すべての軍人は軍律に従って処理せねばならん』とのことでしたね。あなたは間違いなく、オルテガ海軍の軍人ですか?」
「……」
「それとも、ただエスカランテの長子を殺害しようとした、バルカ侯爵ですか」
バルカ侯爵は、もともと爵位とは縁のない次男として生まれ、幼い頃から生涯を海軍軍人として生きてきた男だった。
だからこそカッセルの問いは、彼が抱く海軍軍人としての誇りを刺激すると同時に、軍の反逆者になるか、一介の殺人者になるか、自分で選べという意味でもあった。
——お前が海軍軍人であることを誇るのなら、いっそ今この瞬間、反逆者になれ。
そうすれば、お前一人の死で反逆はなかったことになり、名誉ある戦死者になることもできる、と。
しかし、いったい誰がこれを「選択の余地がある」と考えるだろうか。
軍法から逃れようとして貴族としての身分を選べば、今度はメンドーサでさらに大きな災厄が待ち受けている。 それは脅迫と、何ら変わりがなかった。
バルカ侯爵がエスカランテ大佐を拉致し、殺害しようと罠を仕掛けておきながら、図々しくも己の身分を掲げて生きて帰還した——そんな報せがメンドーサに伝わりでもすれば。
ここにいる他の者たちは知らずとも、バルカ侯爵は、皇太子があの日どのように死ぬことになったのかを知っていた。 自分がメンドーサへ戻るより先に、息子たちのほうが打ち殺されることになるだろう。
ここであの姪に唆されるまま事を起こしてしまったことを、今さら死ぬほど悔やんだ。
それでもバルカは、自分の手でエスカランテの血を流したわけではないことを、繰り返し慰めとしてきた。 極めて自然な死だったのだ、と。
ただ、ごく僅かに残されていた蘇生の可能性を、押し潰したに過ぎないのだと。
その口で「認める」と言って死になさい
「バルカ。『私が死んだために』皇太子が死んだことを、聞いたではありませんか」
首をわずかに傾けて囁くカッセルの低い声が、バルカの耳元を削った。
他の者には聞こえない声だった。
——軍の反逆者か、民間の殺人者か。
これは実質、極めて単純な問いだった。
(ここで貴様一人だけで死ぬか。戻って、バルカのすべてと共に沈むか)
——答えは一つだった。
「気にはなります。マレバの沖合に味方を水葬してまで、一体何を隠したかったのか。私が生きて戻ってきたことが心底惜しくて? それとも、死んではならない時に、あなたの手で『殺してしまった』過ちを咎められるのが怖くて?」
「……」
「ですが、まったく気にならない気もします。私はあなたの結末をすでに知っていますから。あなたの姪は、夫君である皇太子を死の淵へと押しやり、あなたは『私を殺して』その死に決定的な事由を与えたのだから……侯爵はカッセル・エスカランテの殺害者であると同時に、オスカル・ヴァレンザの殺害者でもありますね」
カッセルは淡々と言葉を続けた。
激怒した群衆が侯爵の息子たちを叩き殺すより先に、皇后がこのことを知れば、かなり厄介なことになりかねない。
今はアリシアを、バルカ家に生まれた異端程度に思っているだろう。 だが蓋を開けてみれば、バルカの血筋だからこそああなったのだ、という結論に至るかもしれない——。
「エル・レデキヤへの礼儀として、先輩に最も都合の良い方法をお教えしましょう。
ここで、このまま死ねばいいのです」
バルカ侯爵は、人生のあらゆる憎悪をかき集めたような目で、かつての部下を凝視した。
「その口で『認める』と言って死になさい」
——五体満足で生きている身で、図々しいにも程がある。
そう言っているかのような視線に、カッセルの口元から笑みがこぼれた。
「もちろん、僕は死んでいません」
「……」
「しかし、時には意図そのものが罪になります」
カッセルは彼から身体を離すと、マウリシオへ手招きした。
バルカの口を塞いでいた紐が解かれる。
エルバ少佐が厳重な声で尋ねた。
「中佐殿。我がオルテガの兄弟たちが証人となり、お尋ねします。すべての嫌疑を認められますか?」
「……認める」
すでに装填されていた拳銃が、カッセルの手に渡された。
右手で銃を受け取り、バルカ中佐へ向けて構えるまでに、ほとんど時間はかからなかった。
パァン——!
銃声がホールの高い天井を伝い、響き渡った。
古い石造りの壁からその余韻が消え去るよりも早く、額の中央を正確に撃ち抜かれた中佐が、その場に倒れ伏した。
「ご遺体はどういたしましょう」
「反逆者の遺体が本国へ帰還することはない。燃やせ」
「記録は、お言葉どおり戦死として……」
「詐欺師に信義を守る必要はないな。犯した所業を、そのままありのままに記録しろ」
そしてカッセルは続けた。
「また、マレバにおいて偉大なるオルテガの提督を代行する権限をもって命ずる。
バルカ中佐を二等兵へ降格する」
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