この結婚はどうせうまくいかない 原作7巻終章-17あらすじ|あなたの歪みから生まれた破片【ネタバレ】

この結婚はどうせうまくいかない 原作7巻終章-17あらすじ|あなたの歪みから生まれた破片 この結婚はどうせうまくいかない

🌹 本記事は、『この結婚はどうせうまくいかない』原作第7巻・終章をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分や必要な箇所では、原作の表現を引用しています。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。
※地名・人名について:本作には現時点で原作小説の公式日本語翻訳版がないため、地名・人名などの固有名詞は原文をもとに当サイトで日本語表記しています。今後、公式日本語版で異なる表記が採用される可能性があります。

終章|風はかつて吹いていた場所へと帰っていく 17

オスカルも、ヴァレンザの名も、何ひとつなかった頃へ。
ただフアンの姉であり、エスカランテの娘だった頃へ——。

壊れかけたカイエターナは、ようやく自分が歩んできた人生を振り返り始める。

けれどイサベラは、彼女をそこへは戻さない。

そして、カイエターナが何気なく語った「パノテ」の話から、イサベラは初めて知る。

アリシアがイネスに与えようとしていたものが、胎児だけを害する薬ではなかったことを。

最初から、そういう人間だったのです

その穏やかな夫の顔を胸に刻みながら、イサベラは目の前のカイエターナを見つめた。 同じ血を分けた姉弟だというのに、フアンとは少しも似ていない女を。

「……自分の残された生涯をすべて捧げたところで、イネスの足元にも及ばない。その程度の人間だったことを、もしかすると自分でも分かっていたのかもしれぬな」

カイエターナは、またアリシアについて語っていた。

皇太子は長い間、自分を顧みようともしなかった。 ならば、あの女はどれほどオスカルを恨み、心の中で憎んでいたことか——と。

そしてまた、同じ場所へ戻っていく。

「あやつは……一体いつから、あれほどの悪意を抱いていたというのだ? 婚礼さえ挙げられれば、この先の人生に何ひとつ望むものなどないというように振る舞っていた、あの頃から——」

「……あの頃から、もしかするとそうするつもりだったのだろうか……?」

「ある日突然、人が変わるはずがございましょうか」

イサベラは静かに答えた。

「最初から、そういう人間だったのです」

「すべて……すべて台無しにしたのだ。あの気味の悪いバルカの女が、何もかも台無しにした……」

もちろん、イサベラ自身も、アリシアがオスカルを完全に破滅させたとは考えていた。

世に二人といないほど従順で、おとなしい女であるかのように振る舞った。
オスカルがどれほど自分を蔑んでも、少なくとも害をなすことだけはない——そう信じ込ませながら、いつしか彼を支配する毒をその手に握った。 精神的にも。 肉体的にも。

だがイサベラは同時に、そんな女を妻に迎えたことこそが、オスカルにとって必要な均衡だったのだとも思っていた。 そうでなければ、あれほどの悪行を重ねながら、滅びることもなく生き延びていたかもしれない。

六歳のカッセルに刃を振るっておきながら、
その母親には何食わぬ顔で礼を尽くしていた十歳の少年。

あの身の毛もよだつ人間が、そのまま何十年も生き続け、
やがてオルテガを支配していたとしたら——。

帝国そのものがオスカルの手に握られるくらいなら、一人が苦しむ方が、比べるまでもなくましだった。

イサベラは胸元ですすり泣くカイエターナの頭を、いかにも気の毒そうに撫でた。

その涙を見つめる瞳にあるのは、柔らかな軽蔑。 冷淡な憐憫。 そして、そのどちらにもなりきらない無関心だった。

私は見たのだ

「……あの子は、完全に肉塊になっていたのだ」

カイエターナが呟いた。

「叩き潰された肉塊に……」

「……」

「あの姿で、私の目の前に横たわっていた。あれが私の息子だったことも……かつて人間だったことさえ、信じられなかった」

声が震えた。

「イサベラ。私は見たのだ」

「……」

「私の息子が……顔の半分を残して、全身が原形もないほど押し潰されていたのを……」

「おかわいそうに……」

「手が……手がなかったのだ……」

カイエターナは乾いた笑いを漏らした。

そして再び、その憎悪はアリシアへと戻っていく。

「……私が、あの女の持っていたパノテを、その口へ根こそぎ突っ込んでやった話はしただろうか?」

「してくださいましたわ。私には、すべてお話しくださるではありませんか」

「あの女が、身の程も知らずオスカルの子を身ごもったなどとほざいたことも、話しただろうか?」

「もちろんでございます」

「あの女のせいでオスカルの身体は、もはや形さえ見分けられぬほどになってしまったというのに……」

カイエターナの声には、粘りつくような憎悪が滲んだ。

「あの女は、自分が皇帝の母になろうという野心で頭がいっぱいだったのではないか……」

(それだけは、あってはならないことだったわね)

その点だけは、早くからカイエターナ自身の残酷さによって断たれていて幸いだった。

あの頃のオスカルは、永遠に正気を取り戻せないように見えたとしても、それでもまだ「生きている者」だった。 息子が、わずかでも息をしていた。 だからこそ、カイエターナにもできたことだったのだ。

けれど——。

今のように、『かつて自分の息子だった何か』をその目で見てしまった後だったなら?

もしアリシアが本当にオスカルの子を産むかもしれないと思ったなら、果たしてその子の髪一本にさえ危害を加えることができただろうか。

今でさえカイエターナは認めようとしない。それでも、自分の血を引くかもしれなかった子を自らの手で害したことへの罪悪感を、幾度となく振り返っているのだろう。

そして、その後悔から逃れるために——必死になって、アリシア・バルカをさらに憎んでいる。

(エスカランテの命を害したその手で、皇孫を抱く?栄光の中で生きようというの?)

人間を完全に干からびさせて、殺すことまでできる

「だからバルカの地へ人をやって、残っているものまで持って来いと命じたのだ」

カイエターナは続けた。

「そうして、手当たり次第にあの女の口へすべて突っ込んでやった。すると突然、一晩で皮と骨ばかりの姿になってしまった」

「……」

「たかが子を孕めなくするだけの代物を、何をあれほど恐れているのかと思っていた」

どうせ、もう二度と腹に何かを宿す機会などないというのに。

「そうだろう?」

「……」

「ところがあれは、人間を完全に干からびさせて、殺すことまでできるものだったのだな」

カイエターナをあやすように撫でていたイサベラの手が、自分でも気づかぬうちにぴたりと止まった。

生命そのものを削り取るようなものが、胎児にだけ害を及ぼすはずがない。
それくらい、イサベラにも分かっていた。

「だから、あの女は自分の口に粉薬の一粒が入るだけでも、ぶるぶる震えておったのだ」

「……」

「子が死ぬのを恐れていたのではない。自分が死ぬことを恐れていたのだ。それを知っていたから……」

カイエターナの高笑いが、金属を擦り合わせるような鋭い音を立てた。

(もし、あのとき気づいていなかったなら……)

イサベラの背筋を、冷たいものが走る。

(イネスまで、いつか一瞬にして……)

今では毎日のように血を吐いているらしい。 死体のように黒ずんで、干からびて、まともに息をすることもできず、口にしたものは片端から吐き戻しているのだと——カイエターナは愉快そうに続けた。

イサベラは、手の甲から血の気が失せるほど強く拳を握った。

一度ではない。 何度も、何度も握り締め——ようやく力を抜いた。

それほどの毒を、イネスに。 エスカランテの子供たちを身ごもったイネスに、アリシアは与えようとしたのだ。

奥歯が鳴りそうなほどの怒りが込み上げた。

「あのような女は、決して母親になってはならぬ」

カイエターナが呟いた。

「……その通りでございます」

イサベラは静かに同意した。

「ですから、皇后陛下がお下しになったご決断は正しかったのです」

「……」

「正しいことをなさったのですよ」

そして、さらに優しく言い聞かせる。

「あのような悪辣な者は、何ひとつこの世に産み落としてはならなかったのです」

——母親だけが悪辣だったわけではない。 父親も、母親も。
どちらにも、この世に何かを遺す資格などなかった。

そう考えれば、カイエターナが生まれてこの方、最もよく成し遂げたことは——自らの孫を、自らの手で殺めたことなのかもしれない。

イサベラの口元が、わずかに歪んだ。

フアンに会いたい

「……このまま死にはせぬだろうな?」

不意にカイエターナの声が揺れた。

「もう一度生かせ。立ち直らせろと、そう厳命しておいたのだ」

「……」

「まだ死んではならぬ。まだ……」

死なれては困る。

「今死なれてしまえば、何ひとつ晴れぬではないか」

カイエターナの呼吸が乱れていく。

「私が……息が詰まって死にそうなのだ。どうしても、息をすることが……う、うぐっ……できぬのだ、イサベラ……」

「これからはすべて、我が皇后陛下がお望みになる通りになりますわ」

「……フアンに会いたい……」

「……」

「イサベラ。フアンに会いたいのだ……」

細く、今にも消えてしまいそうな声で呼ばれたその名が、どうしようもなく切なかった。

あれほど自分勝手に生きてきたというのに。 今になって——。

イサベラは何も言わず、カイエターナの歪んだ目元をそっと拭った。

「いつか、お会いになれますわ」

「……」

「お二人は、お互いにとってたった一人のきょうだいではありませんか。ただ、少し時間が必要なだけでございます」

「……私を」

カイエターナが怯えるように尋ねた。

「私を、ひどく恨んでいるか?」

「ご心配なさいますな。夫はあなたを恨んではおりません」

「……オスカルが」

「……」

「あの子が、フアンを殺そうとしたのだな……」

イサベラは答えなかった。

「フアンが、あの子のためにしてやれぬことなど何ひとつなかったというのに……」

己の父親以上に、自分を愛してくれた叔父を。

「あの子は……フアンを殺そうとしたのだな」

繰り返すほど、その声は陰鬱さを増した。 けれど同時に、少しずつ明瞭になっていく。

——イネスが言っていた「時間の無駄」とは、まさにこういうことなのだ。

カイエターナは、これ以上気づく必要などない。 現実を正しく見つめる必要などないのだ。

「もう過ぎたことでございます。それに、フアンは無事なのですから」

イサベラは穏やかに制した。

「どうか、それ以上深くお考えになりませんよう」

戻りたいのだ、イサベラ

「あるいは……。
オスカルは、罰を受けたのかもしれぬ」

カイエターナの声が変わった。

「そうなのだろう?」

憎悪が、今度は死んだ息子へ向かい始める。

「忌々しい、不孝者め……!」

「……」

「もう一度時間を戻せるのなら、あの子など産みもしない」

カイエターナは吐き捨てるように言った。

「誓うぞ。マキシミリアーノ・ヴァレンザと交わることもしない」

そして——。

「父様の手紙を……」

「……」

「すべて、返事を書くのだ」

カイエターナの声から、先ほどまでの激しさが消えていった。

「私に会いたいと望んでおられるのなら、いつだって……」

「……」

「……戻りたいのだ、イサベラ」

ぽつりと零れた。

「オスカルも、私の名に冠されたヴァレンザも、何ひとつなかった頃へ」

ただ、フアンの姉だった頃へ。 エスカランテだった頃へ。

「お前にも……お前にも、優しくしてあげるから」

「……」

「もう二度と、あんなふうには接しない。だってお前は、こんなにも私によくしてくれる……」

縋るように、イサベラを見つめた。

「イサベラ。お前がどれほど私の慰めになっていることか……」

そして、幼子のように尋ねた。

「私を許してくれるかい?」

「……」

「私を……」

まるで十六、十七の頃のカイエターナ・エスカランテへ戻ってしまったかのようだった。
脈絡もなく、幼い頃の口調が漏れ出していた。

あなたの歪みから生まれた破片

イサベラは静かに微笑んだ。

「よしよし。大丈夫でございます」

「すべて……すべて、なかったことになればいいのに……」

「……」

「いっそ、これが全部、夢だったなら……」

「昔のことは、すべてお忘れなさい」

イサベラは優しく言い聞かせた。

「何ひとつ、後悔なさいますな」

「……」

「あなたは、何も間違っておられないのですから」

そして最後に、もう一度。

カイエターナの罪も、オスカルの罪も、彼女自身が辿り着きかけた後悔も——すべてを一つの場所へ押し戻す。

「ただ、アリシア・バルカが——」

「……」

「あなたの歪みから生まれた破片だった。それだけのことでございます」

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