🌹 本記事は『バスティアン』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。会話部分は原作の表現を引用しています。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。
再会しても、もう追い詰めない。
「時間が必要なら待つ」
そう告げたバスティアンは、その日の午後、マクシミリアンと向き合う。
オデットへの想いをめぐって、二人の男の品位と覚悟が静かにぶつかる。
従姉妹のマリー
日差しで熱せられた広場の風が、見つめ合う二人の間を通り過ぎた。
満席のカフェの喧騒の中、オデットの世界から音は消えていた。
「ご注文はいかがなさいますか?」
ウェイターの声が沈黙を破る。
オデットは緊張した眼差しで周囲を見回した。
知った顔はない——だが安心はできなかった。
田舎の人々の絆は深く、噂は人づてに隣村まで広がる。
よそから来た家庭教師の評判のおかげで農場主の娘を教えられるようになったように、
ここで起きたことも間違いなく村に知れ渡る。
——バスティアンの出現が意味するもの。
それを理解したオデットの顔は青ざめた。
当のバスティアンは、ためらいなく料理を注文した。オデットの分まで勝手に。
そして好奇心を隠さないウェイターに、呆れた嘘を付け加えた。
「マリー・ヴェラーは私の従姉妹です。ロスバインに用事ができて、久しぶりに顔を見に来ました」
少なくとも、必要以上の騒ぎを起こす気はないようだった。
平静を装っても、揺れる眼差しと赤くなった頬までは隠せない。
いっそ卑怯な選択を責めてくれることを願ったが、
バスティアンは優しい沈黙の中で視線を受け止めるだけだった。
時には本心のように見えて混乱させ、
結局は悲しみとなって消えた、あの嘘の数々の瞬間のように。
「トリエ伯爵夫人にお願いしたんだ。最善の結末は、僕たちが直接決められるようにと」
静かな声が、喧騒の中でも鮮明に届いた。
「陛下の命令。世間の目。利害得失。そんなものはすべて忘れて、僕たち二人の気持ちでもう一度考えてみよう」
極度に抑制された眼差しは、冷たくもあり熱くもあった。
炎の中の青い芯のような、
忘れようと努めてきた記憶の中の、あの目だった。
「待つよ」
運ばれてきた料理を見下ろして、オデットは深いため息をついた。
バスティアンの前には厚切りの肉料理。
オデットの前には、香りの強くないソースの魚料理。
付け合わせもパンもワインも、すべて彼のものとは違う——彼女の好みを考慮した選択であることは、明らかだった。
「まずは食事をしましょう、姉さん。
それがマリー・ヴェラーさんにとっても良いことでしょう。違いますか?」
これまでの辛い努力を一瞬で水の泡にした男は、夏の陽差しのような微笑みを浮かべていた。
久しぶりに再会した従兄妹。
その脚本に従うのが最善と分かっていても、オデットは芝居に集中できなかった。
不意の事故に遭ったように、頭はまともに思考できない。
ようやく克服した過去が、瞬く間に再び現在となった。
たった一人の男の存在だけで。
これほどあっけなく、虚しく。
一刻も早く離れなければという強迫観念は、もはや恐怖に近かった。
「……一方的な決断を下したことは分かっています。その点はずっと申し訳ないと思っていました。今からでも謝ります。ですが、私の考えは今も変わりません。ですからどうか……」
「——待つよ」
張り裂けそうな心臓の鼓動の間に、水の流れるような声が届いた。
「時間が必要なら待つよ、オデット」
揺らぐことなく向き合う目から、もう視線をそらせなかった。
賑わっていたテラス席が閑散としていくまで、二人はただ見つめ合っていた。
罠にかかったようだった。
このすべての苦痛と悲しみの始まりとなった、あの悲劇的な瞬間のように。
カール・ロヴィスという客
「カール・ロヴィス様が伯爵様を訪ねていらっしゃいました」
助手の報せに時計を見ると、4時。約束の時間だった。
待ち合わせは王立植物園の野草の庭園——そこまで考えれば、偽名の客の正体は自然と察しがついた。
バスティアンの方から先に連絡してきたのだ。
トリエ伯爵夫人の知らせを聞いた翌日、オデット抜きで二人だけの面会を要請してきた。
通話の間、一度も声を荒げず、公務のように冷静で礼儀正しく。
マクシミリアンはそこでようやく、伯爵夫人がオデットの居場所を教えた理由を理解した。
オデットを助けると決めた時から、覚悟していたことだった。
今さら責任を回避するつもりはない。
野草の咲き乱れる草原で、二人は適度な距離を置いて向き合った。
バスティアンの顔のどこにも敵意はなく、礼儀正しい他人の態度——個人的な感情を持つ必要などない、ただそれだけの関係に過ぎないかのように。
近づいてくる貴婦人の一団に目をやったバスティアンの提案で、
二人は人通りのない深い森へ入った。
森の中の対峙
「妻に会って来た帰りです。この間、元気にしているようでした」
淡々と本題を切り出すバスティアンの脳裏を、逃げるように去ったオデットの記憶がよぎった。
午後の授業を口実に席を立ち、行き先を尋ねると大きく揺れた眼差し。
不安に震える姿をこれ以上見たくなくて、それ以上は引き止めなかった。
せっかくの平和を踏みにじる怪物になったかのようだったが——それでも、会えて嬉しかった。
「妻が色々と大変お世話になったと聞きました。心から感謝いたします」
「今の状況には似つかわしくない挨拶のようですね。レディ・オデットは、すでに少佐の妻の座を離れたと承知しておりますが」
離婚はまだ成立していないと返すバスティアンに、
マクシミリアンは強圧的な所有権を行使するべきではないと反論した。
「それもまた、心からの友情から生まれた助言ですか?」
「人間的な憐憫からのお願いでもあります」
「ならば、ジェンダース卿に一つお尋ねします。思いやりと友情以上の目的は、本当にないのですか?」
「クラウヴィッツ少佐!」
高潔で超然としていた男の顔が、瞬く間に赤く染まった。
「卿の答えは、聞いたことにしておきます」
ただの友情だけで、こんな無謀を企てる男はいない。とっくに分かっていたことだった。
おそらく伯爵自身もぼんやりと察している。
ただ、許容できない感情だからこそ、否定しようと努めているだけだろう。
すべてが整理されるまで、必ず一線を守る男。
オデットを理解し、尊重し、傷つけることなく。
その品位と尊厳は、諸刃の剣のようだった。
バスティアンにとって限りなく難しいことが、この男には息をするように簡単だった。
だから安堵し、その一方で虚しかった。
「私はまだオデットの夫ですし、ですからシャペロンの代理人以上の権利があるということです」
「もしレディ・オデットが助けを求める状況が生じれば、私はトリエ伯爵夫人の代理人としての役目を果たします」
「卿の正当な権利は尊重させていただきます」
無駄な神経戦を繰り広げる気はなかった。ただ、安全線を明確にしておきたかった。
平穏な夕食への祈り
予想外の一撃は、散歩の終わりに飛んできた。
「レディ・オデットは、今、私の娘を教えている最中でしょう。レッスンの日にはたいてい一緒に食事をするのですが、もしよろしければ、クラウヴィッツ少佐もご一緒にいかがですか?」
普通の食事の誘いのような態度。
雑草にばかり執着する変人だという評判は、訂正した方がよさそうだった。
「卿のお気持ちだけ、ありがたく受け取っておきましょう」
見せつけるように夕食を台無しにすることもできた。
だが、一つの家族のように幸せそうな三人を見るという不愉快な経験を、自ら望む気にはなれなかった。
それぞれの道へ去り際、
すれ違っていく伯爵の車を見ながら、バスティアンは祈った。
——どうかオデットの夕食が平穏でありますように。
明日からは、そう平穏ではない夕食が続くことになるだろうから、と。
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