泥の中の愛59|167話 6月の空のように ─ つるバラの窓と、埋まった夫の席

バスティアン|泥の中の愛59|167話 6月の空のように ─ つるバラの窓と、埋まった夫の席 原作本編

🌹 本記事は『バスティアン』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。会話部分は原作の表現を引用しています。
ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

夜行列車を乗り継ぎ、バスティアンはついにオデットのいるロスバインへ。

三ヶ月ぶりに妻を見つけても、すぐには声をかけなかったバスティアン。

つるバラの窓辺での「もう少しだけ」を経て、
二人はついに再会する。

偽名の将校

ラッツからの夜行列車、駅のベンチでの仮眠、始発の鈍行列車。
終着駅に着いたのは夜が明け始めた頃だった。

オデットの村はここから徒歩で一時間ほどの人里離れた場所。
バスティアンは駅前のホテルに荷物を置くことにした。

「見るからに身分の高い将校さんのようですが……。
この田舎に何の用事でいらしたのですか?」

そこで初めて、制服のまま来たことに気づいた。海軍省から直行したせいだった。

「親戚に会いに来ました」

宿泊登録簿には、知人の名前を組み合わせた偽名を記した。

シャワーと髭剃りを終え、夏用リネンのスーツに着替える。
まだ癒えていない手首の傷は、ガーゼの包帯と時計で隠し、カフスを整えた。

中折れ帽を手に、朝食も断ってホテルを出た。

農繁期の田舎町は、早朝から真昼のような活気に満ちていた。

広場を抜け、住宅街を過ぎると、澄んだ小川が現れた。
——オデットがいる村へと流れる、水脈だった。

「もう少しだけ」

トリエ伯爵夫人は、居場所を教える代わりに二つの条件を付けた。

オデットの意思を尊重すること。
傷つけないこと。

その簡単なことが、あれほど難しかった過去を思い出させる念押しだった。
バスティアンは熟考し、謙虚に受け入れた。


道を尋ねた老婆は、こぢんまりとした石造りの家を指差した。

「マリー・ヴェラーさんを訪ねてきたお客さんみたいですね」

見慣れない名前を心の中で繰り返し、バスティアンは思わずフッと笑った。

「ええ。そうです。マリー・ヴェラーの親戚です」

家の角に差し掛かったとき、二階の窓が開いた。
何気なく顔を上げたバスティアンは、息を殺して足を止めた。

——つるバラに囲まれた窓の向こうに、オデットが立っていた。

遠い空を見つめる眼差しには、以前にはなかった平穏が宿っていた。
苦痛と悲しみの痕跡が消えた顔は、咲いたばかりの花のように瑞々しかった。

バスティアンは一歩下がった場所で、見慣れているようで知らないオデットを見つめた。

美しいものを壊さず、
ただ見つめていたかった、遠い日の心で。

——もう少しだけ。

愚かな願いを込めて。

カーテンが閉じられた後も、彼の視線は長い間、そこに留まっていた。

マリー・ヴェラーの一日

オデットは白いモスリンのドレスを身につけた。
近所の老婦人に借りた型紙で、自分で仕立てたものだった。

余り布で作った空色のベルトを結び、手編みのレースの手袋をはめる。

今日は体裁を重んじる農場主の家でのレッスンの日だった。

川辺を歩く道は、水遊びをする子供たちの笑い声と、野バラとギンバイカの香りに満ちた美しい日だった。

ふと足を止めたのは、小川にかかった飛び石を渡っていた時。

振り返ってみたが、そこにあるのはベンチで談笑する老人たち、水遊びの子供たち、白鳥、風になびく柳——ごくありふれた夏の午前の風景だった。

その後も、時々そんな瞬間があった。

隣村の入り口で。
生徒の家に入るとき。
レッスン中に窓の外を見た、ある瞬間。

集まりの準備に気を遣いすぎて過敏になっているようだと、オデットは結論づけた。

今回のティータイムの集まりは、初めてオデットが主催する番だった。
ここ数日、カップを揃え、カーテンを新調し、昨夜はレースの図案の準備で夜更かしまでした。

緊張が解ければ、大丈夫になるだろう。

広場の時計台の下を通り過ぎようとしていた時、
ちょうどレッスンをした生徒の兄が、わざとらしい前置きの末に昼食に誘ってきた。

「私はこれで失礼します。昼食の約束がありますので」

優しげな顔色とは裏腹に厳格な口調の平然とした嘘。

オデットは時計台前のオープンカフェのテラス席に座り、誰かを待つふりをしてコーヒーを注文した。こういう窮地を抜けるには、それが一番いい方法だった。

夫の席

読書に没頭し始めた頃、トントン、とテーブルを叩く音がした。

「こんにちは、美しいご婦人」

今日は色々と運が悪い日のようだった。
聞こえないふりで本を読み続けても、男は立ち去らない。

「申し訳ありませんが、連れがいますので」

「旦那様の席ですか?」

「はい。そうです」

念を押すように答え、ページをめくった——その時だった。あまりにも聞き覚えのある声だと、はっと気づいたのは。

ありえない考えを否定しようと視線を下げると、テーブルの上に大きな手が置かれていた。
ピアニストのように長くまっすぐな指と、硬いタコとの不調和。
そして、結婚の証である指輪の輝きが、鋭く目に刺さった。

——まさか。

顔を上げると、男はゆっくりと帽子を脱いだ。

「ならば、きちんと来たようですね」

呆然とまばたきをするうちに、夫の席が埋まった。

「お久しぶりです、夫人」

怒りも恨みもない青い瞳は、六月の空のように澄んで穏やかだった。

「いや、今はマリー・ヴェラーさんとお呼びした方がいいでしょうね」

斜めに傾いた唇に、いたずらっぽい微笑み。
崩れ落ちそうな体をまっすぐに立て、震える両手を膝の上で握り合わせる。

これが夢ではないと、もう認めなければならなかった。
どんな夢の中での再会も、今と同じではなかったのだから。

「あなたが……あなたがどうして……」

「会いたかった」

ため息の混じった優しい声が、テーブルを越えてきた。

「君に会うことで苦しい気持ちより、君に会えずに苦しい気持ちの方がはるかに大きいから。
……それがようやく分かった気がして」

羽毛のような雲の浮かぶ空を通り過ぎた視線が、再びオデットに向けられる。

「だから来たんだ、オデット。君に会いたくて」

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※本記事は作品内容の分析・評論を目的としたものであり、原作の翻訳全文を掲載するものではありません。