原作小説

この結婚はどうせうまくいかない

この結婚はどうせうまくいかない 原作2巻8章⑫|時々、ここにいらっしゃらないような気がするんです【ネタバレ】

倒れたのはイネスだった。しかし顔色が悪かったのはカッセルだった。使用人たちが「大尉様があの時戻ってこられなかったら」と繰り返すたびに、彼の顔はさらに灰色になった。館全体が慌てふためく中で、ラウルだけが落ち着いていた。慣れていたからだ。「時々、ここにいらっしゃらないような気がするんです」——その言葉の意味を知っているのは、イネスだけだった。
この結婚はどうせうまくいかない

この結婚はどうせうまくいかない 原作2巻8章⑪|あなたがそんな顔をするのは初めて見た【ネタバレ】

エミリアーノはビルバオにいる。宝石商への手紙は届かない。本物の首飾りは手の中にある。それでもイネスは息ができなくなった。倒れる瞬間に見えたのは、蒼白に顔を歪めたカッセルだった。あなたがそんな顔をするのは初めて見た——それだけを思った。
この結婚はどうせうまくいかない

この結婚はどうせうまくいかない 原作2巻8章⑩|エスカランテよ——崩れ始めたイネスと、嫌な予感【ネタバレ】

逃げるように出て行った女が、数時間後に戻ってきた。冷たく、攻撃的で、一切の駆け引きを拒んだ。店主ドン・ロサーノには、この件にこれ以上関わるべきではないという確信だけが残った。かんらん石のメダルを見た瞬間から、イネスはもう正常ではいられなくなっていた。
この結婚はどうせうまくいかない

この結婚はどうせうまくいかない 原作2巻8章⑨|どうか私を覚えていないで【ネタバレ】

エミリアーノは床ばかり見つめ、どうしても言葉を続けられるずにいた。イネスは、すべてにときめいた。すべてが彼女の知っていたものと違っていた。愛されていた記憶が、そのまま罪悪感へ変わっていく。冷たい宝石の上へ唇を埋めながら、イネスは呟いた。どうか私を覚えていないで、と
この結婚はどうせうまくいかない

この結婚はどうせうまくいかない 原作2巻8章⑧|V.O.——過去が、現在に穴を開けた【ネタバレ】

馬車が動いた。向かいの陳列台が現れた。考えるより先に、足が動いていた。エル・タベオの旧市街で、イネスはかんらん石のメダルを手に取り、裏返した。刻まれていたのは「V.O.」——祖母の旧姓だった。カルステラの静かな日々に、過去が穴を開けた。
この結婚はどうせうまくいかない

この結婚はどうせうまくいかない 原作2巻8章⑦|天下のカッセル・エスカランテも、恋に落ちては形無しだな【ネタバレ】

「天下のカッセル・エスカランテも、恋に落ちては形無しだな」——大佐には丸見えだった。カッセルは否定した。愛じゃない、都合が良いだけだ、と。しかし否定の仕方そのものが、完全に恋している男のものだった。イネスが怒らない、疑わない、感情をぶつけてこない。その物足りなさの正体に、カッセルはまだ気づいていない。
この結婚はどうせうまくいかない

この結婚はどうせうまくいかない 原作2巻8章⑥|嫉妬よ——可哀想なカッセル・エスカランテ【ネタバレ】

マリア・ノリエガを一目見て、イネスは「完璧だわ」と思った。執着があり、美しく、カッセルへの感情が本物。必要な条件をすべて満たしていた。カッセルをマリアの馬車に乗せ、ラウルに尾行を命じ、嫉妬よと即答した。その答えは冗談のようで、けれど本人だけは、実は少しも笑っていなかった。
バスティアン

バスティアン原作|君を愛していた——それが、僕の人生だった【ネタバレ】

バスティアン』196〜197話。オデットは手紙を受け取ったが、開けなかった。彼が帰ってくると信じていたから。その同じ夜、バスティアンは沈む船の上を走りながら、ロスバインで言えなかったすべてを心の中で叫んでいた。「オデット、オデット、オデット。愛している、オデット」——君を愛していた。それが、僕の人生だった。
バスティアン

バスティアン原作|遅すぎた告白——観覧車と、あなたのオデット【ネタバレ】

『バスティアン』。ロスバインの別れから数ヶ月後、オデットはすべての真実を知った。家、王冠、離婚、そして戦争——バスティアンが黙って背負っていたものの重さに、オデットは観覧車の下で崩れ落ちた。「愛しています」。届く場所を失った言葉が、今度は手紙になって戦場へ向かった。
ロスバイン編

バスティアン原作|ロスバイン最後の七日間⑩|分かれ道——追わないことで証明した愛【ネタバレ】

『バスティアン』ロスバイン編⑩・最終回。振り返らずに丘を越えていくオデット。橋の上で立ち止まり、足が動かなくなるバスティアン。「愛している」——声に出せなかった言葉を抱えたまま、二人はそれぞれの道へ向かった。そして二日後、艦隊はトロサ諸島へ出航した。