泣いてみろ、乞うてもいい 原作61話「慈善公演」ネタバレあらすじ|漫画79話の続き

泣いてみろ、乞うてもいい|原作61話あらすじ 原作カテゴリ

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RECAP ここまでのお話 漫画79話まで

孤児だったレイラは、遠縁のビル・レマーに引き取られ、アルビスで初めて本当の「家」を手に入れた。

やがて幼なじみのカイルから求婚されたレイラは、その申し出を受け入れる。
カイルへの気持ちが男女の恋というより家族愛に近いことは、自分でもわかっていた。
それでも、自分を一生宝物のように大切にしてくれるであろうカイルを失いたくなかった。

二人でラッツへ行けば、望んでいた大学にも通える。
そして何より、マティアスとも関わらずに済む。
レイラは一度、その未来を選んだ。

しかし、孤児であるレイラを受け入れられないカイルの母・リンダの策謀によって、二人の関係は破綻する。
カイルは一人ラッツへ。
大学進学を諦めたレイラはアルビスに残り、教師になった。

そして、逃れられると思っていたマティアスとの関係は、さらに深みへとはまっていく。

そんなある日、マティアスから「ハンカチを返しに来い」と命じられたレイラだが、彼を別邸に訪ねることを避けるため、森の道で彼の車を待っていた。
ハンカチだけ渡ししたら、すぐに帰るつもりだった。

ところが、そこへ現れたリエット・フォン・リンドマンから、マティアスの愛人でいるより自分のほうが適役ではないかと嘲弄される。
傷ついたレイラはその場から走り出し、暗がりの中でマティアスとクロディーヌを乗せた車にぶつかってしまう。

「大丈夫ですから」

そう言い残して自転車で小屋へ戻ったものの、怪我はひどく、レイラは痛みに耐えながら一人ベッドでうずくまっていた。

そこへ、伝書鳩のフィービーがマティアスからの伝言を運んでくる。
「ハンカチを持ってこないといけないだろ。お前が来ないなら、私が行ってやってもいい」

仕方なく別邸へ向かったレイラを、マティアスは待っていた。
彼がレイラを呼びつけたのは、ハンカチのためではなかった。
怪我を心配していたのだ。

そして、レイラの身体に残されたひどい傷を目にしたマティアスは、黙ってその手当てを始める。
これまでレイラを傷つけ、その涙さえ楽しんできた男が、その夜は彼女の傷を癒やそうとしていた。

さらに、レイラが流した涙を目にした瞬間——
マティアスは、初めて彼女から視線を逸らした。

自分でもまだ名前をつけられない感情が、彼の中で動き始めていた。

📖 原作61話あらすじ|慈善公演

🌹 本記事は『泣いてみろ、乞うてもいい』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。本文中の会話・心理描写・印象的な表現については、原作の表現を適宜引用しています。
ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

冬が来た朝

あの見慣れない夜が夢だったように、穏やかな日々が続いていた。

リンドマン侯爵は領地へ戻り、
マティアスから強圧的な手紙が届くことも、不意に訪ねてくることもなくなった。

その間に季節は変わった。

窓を開けると、冷たい空気とともに鮮明な冬の匂いが押し寄せる。
レイラは寒さも忘れ、銀白色の日差しに満たされたアルビスの森を眺めた。

その髪、似合わないよ

今日は、市内の公会堂で学校の子供たちによる慈善公演が開かれる日だった。

「品位ある教師の姿を見せましょうね、ルウェリン先生?」

昨日の会議で、校長はわざわざレイラを名指しした。

「私の自転車が何だというのよ」

不満をこぼしながらも、レイラはせっせと髪を三つ編みにしていく。
仕上がりを鏡に映した瞬間、ふいにあの男の言葉が蘇った。

——「その髪、似合わないよ」

秋のプラタナスの道で、マティアスが突然投げかけた言葉。

——「綺麗だよ、君の髪。羽根みたいだ」

続いて思い出した言葉に、
まるで鏡越しに彼と目が合ったような気がして、レイラは慌てて視線を逸らした。

薄くなった痣

身体に残っていた痣は、もう薄くなっていた。
けれど、あの夜の記憶はまだ鮮明だった。

マティアスは約束どおり、それ以上レイラを傷つけなかった。
傷に口づけた奇妙な時間が終わると、何事もなかったように軟膏を塗り、痛む肩に包帯を巻いた。

その手つきは、患者を診る医者のように落ち着いていた。

そして——

再び服を着て彼と向き合った、その先の記憶が蘇りかけた瞬間、
レイラは逃げるように立ち上がった。

カラスに気をつけろよ

「綺麗だぞ、レイラ。今夜、公会堂でお前が一番綺麗だろうよ」

台所へ出てきたレイラを見て、ビル・レマーはからからと笑った。

「貴族のお嬢様や貴婦人もお見えになるんですよ」

「それが何だ。どんな金銀財宝を身に纏おうと、お前より綺麗なお嬢さんはいねえさ」

去年、公爵邸のパーティにつけていったネックレスを勧めたのもビルだった。

たった一夜でも、レイラをお姫様のようにしてやれた日。
それは彼にとっても誇らしい思い出だった。

「私、どうですか、おじさん?」

後ろ手を組んではにかむレイラに、ビルは楽しそうに笑った。

「カラスに気をつけろよ、レイラ。あんまりきらきらしてるから、ぱっくり咥えて持っていかれそうだ!」

窓辺のカナリア

「今日はどういうわけか、歩いて出勤するようだな」

邸宅の窓から、狩り場へと続く道を歩く小さな姿を見つけ、マティアスの口元がわずかに緩んだ。
あれほど遠くても見間違えるはずがない。

レイラだった。

短く口笛を吹くと、一羽のカナリアが飛んできて、差し出した手に止まった。

マティアスはその手を窓辺へ寄せた。
まるで自分の鳥に、道を歩くレイラを紹介するかのように。

だがカナリアは興味を示さず、すぐに巣へ戻ってしまう。
やがてレイラの姿も窓から消えた。

それでもマティアスは、長い間そこを動かなかった。

いつからか、こうして窓辺で朝を迎えるのが習慣になっていた。
日差しの中をせっせと仕事へ向かう、一人の女を眺めながら。

——もう、治っただろうか?

傷だらけだった小さな身体を思い出し、眉をひそめる。

あの夜以来、レイラには会っていない。

気になるのなら、訪ねて自分の目で確かめればいい。
けれど、そうする気にはならなかった。

自分でも理解できない、これまでにはなかった感情だった。

飴玉と、あの涙

あの夜、レイラは泣いた。

これまで数えきれないほど見てきた涙なのに、なぜかあの時の泣き声だけが、いつまでもマティアスの脳裏から離れなかった。

鎮痛剤を飲ませ、唇についた薬を拭う。
そして薬箱に入っていた飴玉を一粒、レイラの口に入れてやった。

しばらくして、彼女の瞳から大粒の涙がぽろぽろと零れ始めた。

何がそれほど悲しいのか。
声を上げることもなく、飴玉を口に含んだまま、ただ彼を見つめて泣いていた。

「まだ、痛むのか?」

レイラは頷いた。

どうすればいいのかわからなかったマティアスは、彼女を腕に抱いた。

最初は押し返そうとしていたレイラも、やがて力を失う。
そして飴玉を噛みながら、彼の胸で声を上げて泣いた。

マティアスはただ、その身体を抱き続けた。

泣き声が止む頃には、彼のセーターは涙でびっしょりと濡れていた。

指の間から零れ落ちるもの

レイラが泣くと、マティアスはたいてい楽しかった。

涙に濡れた美しい顔が好きで、わざと泣かせたことさえある。

もちろん、気に障る涙もあった。
自分ではない誰かがその理由になることは、許し難かった。

いつだって明確だった。

涙だけではない。
レイラのすべてが、
そして自分の人生のすべてが、そうでなければならなかった。

けれど——あの夜の涙だけは違った。

あの時のレイラは、自分が泣いていることさえわかっていないようだった。

怒りも恐怖もない瞳。
空っぽにも、何かで満たされているようにも見える、見慣れない表情。

その涙を、止めてやりたいと思った。

それは、カイル・エトマンのために泣くレイラを見た時のような、首を絞めてでも涙を止めさせたいという怒りとは違っていた。

見慣れず、不快なのに、嫌ではない。
香り高い酒に酔ったような気だるさと、何かに追われるような不安と焦燥。
混乱の中にあったものを、マティアスはようやく一つの言葉で捉えた。

喜び。

そう、喜びだった。

レイラを泣かせ、追い詰めることで得てきたものとは比べものにならないほどの。

その気になれば、とっくに手に入れて捨てられたはずの女のそばを、
なぜ今までうろつき続けてきたのか。

——この喜びを知るために。

——手に入れるために。

涙を拭い、髪をかき上げる間、レイラはおとなしく彼に身を委ねていた。
けれど、その瞳にかすかに宿っていた何かは、やがて消えた。

あとに残ったのは、以前と同じ恐れと諦めだけだった。

いくら見つめても、もう戻ってこない。

マティアスは、その喜びを取り戻したかった。
一度は掴んだはずの何かが砂に変わり、指の間からさらさらと零れ落ちていく。

その感覚に、マティアスは眉間に皺を寄せた。

そうしましょう

丁重なノックが響いたのは、その時だった。

母が風邪をひき、今夜の慈善公演に大奥様と同行できなくなったという。

「慈善公演?」

「カルスバールのいくつかの学校が共同で準備する公演で、この村の学校の子供たちも参加するそうです」

そこでようやく、マティアスは今朝のレイラを思い出した。
歩いて出勤していた理由も、いつもより身なりを整えていた理由も。

「そうしましょう」

マティアスは快く承諾した。


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