泣いてみろ、乞うてもいい|原作70話 君は何ものでもない あらすじ【ネタバレ】

泣いてみろ、乞うてもいい|原作70話あらすじ 原作カテゴリ

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🌹 本記事は『泣いてみろ、乞うてもいい』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。本文中の会話・心理描写・印象的な表現については、原作の表現を適宜引用しています。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

残ることにした

「良い考えだ、ルウェリン先生。故郷の村にある学校より良い場所はないだろう」

校長の顔に、満面の笑みが浮かんだ。

レイラは微かな笑みを浮かべて視線を伏せた。
気まぐれを起こしたことがひどく気恥ずかしい、とでもいうように。

「余計なことを言ってご心配をおかけして、本当に申し訳ありません」

「心配なんてとんでもない。ところでルウェリン先生、その……テオとはもう全く会ってみる気はないのかね?」

「え? テオというと……あ!」

今さらになって、雑貨屋の息子の名前を思い出す。

——エトマン博士の息子と縁談が持ち上がっていたお嬢さんには、
やはり満足できない相手なのだろうか。

思案する校長の胸に、余計な考えがよぎる。
過分な地位を欲張っても最後は良くないと、今はよく知っているはずなのに。

「そうだ、ルウェリン先生。来年の行事で演劇をすることになったら、ルウェリン先生が主役を務めるのはどうだ? とてつもない寄付金が集まりそうだが」

他愛もない冗談に、レイラは思わずフッと笑い出した。
久しぶりに見せた、本物の笑みだった。

逃げられない

肌を切る寒さの中、レイラはとぼとぼと歩いた。
急いでアルビスへ戻りたいという気持ちは、少しも起きなかった。

当てもなく商店街をさまよい、目に入らないショーウィンドウを眺めた。

——その足が、中央駅の広場でぴたりと止まる。

——このまま、どこかへ去ってしまったら。

無意味な衝動が湧く瞬間でさえ、レイラは分かっていた。
結局、逃れられないことを。

ビルおじさんを置いて、どこへ、どうやって。

仮に説得してアルビスを離れても、公爵は諦めないだろう。
刺激すれば、もっと大きな苦難を負うことになるかもしれない。

ビルおじさんを庭師として置き続けるという公爵の真意は明らかだった。

——だが、そうしたところでどうせ下らない欲望に過ぎない。

結局手に入れたのだから、すぐにつまらなくなるはずだ。
そうなれば捨てるだろう。

以前より強く確信できた。

あの夜、あの男が骨身に沁みて教えてくれたから。
ヘルハルト公爵にとって、レイラ・ルウェリンがどのような意味を持つのかを。

——どうか一日でも早く、捨ててくれますように。

顔向けができない

プラタナス並木道に入ると、不意にカイルの手紙が浮かんだ。

——『最愛の僕のレイラへ』

いつも同じ言葉で始まる数十通を、あの日の朝、レイラは何度も繰り返し読んだ。

なぜ届かなかったのかは、尋ねなくても分かった。
そうするしかなかったビルの気持ちまで理解できるからこそ、悲しみは深かった。

「……レイラ。ここにあった手紙は……すまない」

翌朝、食卓で切り出したビルは、黙って微笑むレイラを見て顔を曇らせた。

「俺は本当に、色々な面でお前に顔向けができない」

青白い冬の日差しの中、その髪はひどく白く見えた。
数日の間に、また白髪が増えたような気がした。

「もしお前の心がまだカイルと同じなら、俺がお前たち二人の味方になってやろう」

決然とした眼差しで、ビルは続けた。

「お前のための道を、俺が勝手に決めるべきじゃなかった。それを今頃になって……。悪かった」

けれど、その言葉はもうレイラの心の深いところまでは届かなかった。

——何もかも、遅すぎた。

「私は大丈夫です」

結局、言えたのはそれだけだった。

「朝ご飯にしましょう、おじさん」

赤い目元で微笑むレイラを見つめ、ビルはそれ以上何も言えずに頷いた。
その朝、二人はどちらも皿の半分さえ空けられなかった。

何ものでもない、あなた

アルビスの出入り口を通る前、レイラは深く息を吸って拳を握った。

——『あなたにとって私が何ものではないように、私にとってもあなたは何ものではない』

あの夜の記憶が蘇るたび、レイラは思う。
何ものではないあなたに、私は決して傷つけられないだろうと。

足は震え、握った手に冷や汗が滲む。
それでも立ち止まらず、足を踏み出した。

小屋に着いた時には、息が喉の奥まで上がっていた。
逃げ込むように中へ入ると、長い安堵のため息が漏れる。

ビルは温室の復旧に早朝から夜まで精を出していて、家は空だった。

よろめきながらベッドに体を横たえる。

——『最愛の僕のレイラへ』

浮かび上がる手紙を消そうと目を閉じれば、今度はあの夜の記憶が襲ってきた。

いっそわんわん泣いてしまいたくなった頃——窓をトントンと叩く音が聞こえた。

かつてはときめきだった音。
今は、恐怖となった音。

冷たく硬直したまま、震える手で窓を開けた。

公爵の手紙を持ってきたフィービーが、そこにいた。

新しい庭師

「あの庭師をずっとアルビスに置く必要まではないのではないでしょうか?」

微笑みを絶やさぬまま、クロディーヌは静かに言い返した。
応接室の視線が一斉に彼女へ集まる。

「一度あんなことをしでかした愚かな人が、ま
た別の事故を起こさないとは限りませんから」

「令嬢が愛したガラス温室を造り上げた庭師こそビル・レマーでした。
温室を前のように復旧させることには、彼ほどの適任者はいないでしょう」

マティアスも微笑みを浮かべたままだった。
穏やかで落ち着いた口調。

それでもクロディーヌには感じられた。

——この男が、自分の決定を翻すことは決してない。

「ええ、あの庭師をもう少し我慢してあげるのも悪くないですわね」

彼女はこの辺りで一歩引くことにした。

マティアスがレイラを手に入れただろうと、クロディーヌは確信していた。
望むものがあれば手段を選ばず手に入れる冷血漢。
たかがレイラごときが逃れられるはずがない。

事故を聞いた時、彼女は悲しみと安堵を同時に味わった。

愛する温室が壊れたことは悲しいが、庭師がアルビスから消えることには安堵した。
庭師とともに、レイラも消えるはずだったから。

追い出したところで二人の関係が終わらないことは分かっている。
だが、それはあの二人の問題に過ぎない。

夫の愛人と同じ領地の中で生きていく公爵夫人だなんて!

——『クロディーヌ、私ならむやみにマティアスを刺激したりはしないね』

少し前に会ったリエットは、彼らしくない真剣な眼差しでそう言った。

——『もう終わった仲なら幸いだけど、
もしそうじゃないなら、静かに放っておくのが一番良さそうだよ』

理解も同意もできない言葉だった。

あれほどの事故を起こした庭師をあえて置くという決定が誰のためなのか、
火を見るより明らかではないか。

——ヘルハルト公爵を意のままに操るなんて。
あの純粋な顔とは裏腹に、男を手玉に取る腕前は並々ならぬもののようだ。

下劣な考えをしてしまう自分が嫌で、クロディーヌは一層端正に晩餐に臨んだ。

その夜、客用寝室を訪れた母が不満を漏らす。

「一体なぜ、あんな事故を起こした庭師を使い続けるつもりなのかしら」

壊れたガラス温室と庭園を眺めていたクロディーヌは、
落ち着いた微笑みで振り返った。

「ご心配なさらないで、お母様。その庭師がアルビスに留まるのは、長くても来年の夏までですから」

「まさか、大奥様とマティアス様が信頼している庭師を解雇しようというの?」

飛び上がる母の前で、彼女はあくまで泰然としていた。

「新しい公爵夫人には、新しい庭師が必要なものですから」

金色の名前

「命じられた通りに準備をして整えておきました」

声を潜めるヘッセンの言葉に、
マティアスは銀色の大きなドーム型の皿が置かれたテーブルへ視線を落とした。

「ご苦労様でした」

渡された郵便物のほとんどは、年末の社交行事の招待状だった。
中には、来年初めに帝国北部を巡回する皇太子夫妻のアルビス訪問を知らせる手紙もあった。

ジャケットから万年筆を取り出し、丁重に返信を書く。
署名を終えて蓋を閉じると、虚脱した笑みが漏れた。

——レイラ・ルウェリン。

蓋に刻まれた金色の名前が、微かな灯りの中で煌めいた。

去年の秋から、当然のように持ち歩いていたペンだった。
しばらくは面白半分で、その後は意識すらしなくなった。

「どうしていつも私の物を盗んでいくのですか?」

ぷりぷり怒っていたレイラを思い出すと、必ず笑いがこみ上げる。

「本当に……本当にカラスなんですか?」

その呆れた質問もまた同じだった。
指の間でペンを回しながら、腕時計を確認する。

——そろそろ時間だろう。

そう思った瞬間、
トントントントン、聞き慣れたノックが響いた。

ペンを元の場所に戻して立ち上がり、玄関へ向かった。

開いたドアの向こうには、予想通りその顔が立っていた。

彼の女、レイラだった。


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※本記事は結末までのネタバレを含みます
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