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街へ
アルビスへの残留を校長に伝えたレイラは、久しぶりに見せた本物の笑みを残して校長の家を後にした。
肌を切るような寒さの中、レイラはとぼとぼと街を歩いた。
急いでアルビスへ戻りたいという気持ちは起きなかった。
当てもなく商店街を歩き、中央駅の広場でぴたりと足を止めた。
このまま、どこかへ去ってしまったら……。
しかし結局逃れられないことは分かっていた。
ビルおじさんを置いてどこへ去れるだろうか。
仮に逃げたとしても、公爵は諦めないだろう。
そんな風に刺激すれば、むしろもっと大きな苦難を負うことになる。
力なく足を返しながら、レイラは確信する。
どうせくだらない欲望に過ぎない。
手に入れたのだから、すぐにつまらなくなるだろう。
そうなれば捨てるだろう。
どうか一日でも早く、と。
カイルの手紙
プラタナス並木道を歩く頃、不意にカイルの手紙が思い浮かんだ。
——『最愛の僕のレイラへ』
常に同じ挨拶で始まっていた数十通の手紙を、その朝レイラは何度も繰り返し読んだ。
なぜ届かなかったのか、わざわざビルおじさんに尋ねなくても分かった。
そうするしかなかった気持ちまで理解できるため、悲しみはより深くなった。
警察署から戻った翌朝、食卓の前でビルおじさんは言った。
お前の心がまだカイルと同じなら、自分は二人の味方になると。
しかしその言葉は、レイラの意識の深いところに届くことなく、
虚しく散らばっていった。
何ものでもない
アルビスの出入り口を前に、レイラは深く息を吸い、拳を握りしめた。
『あなたにとって私が何ものではないように、私にとってもあなたは何ものではない。』(引用:原作70話)
あの夜の記憶が蘇る度に、レイラはそう思った。
何ものではないあなたに、私は決して傷つけられないと。
しきりに足が震え、冷や汗が滲んできたが、
それでも立ち止まらず足を踏み出した。
クロディーヌの誓い
一方、公爵邸ではクロディーヌがビルのアルビス残留に異を唱えていた。
しかしマティアスは、「温室復旧には彼ほどの適任者はいない」と穏やかに、しかし翻す気など微塵もない口調で一蹴した。
誰のための決定かは火を見るよりも明らかだった。
夫の愛人と同じ領地で生きる公爵夫人など、あってはならない。
クロディーヌは母親に静かに告げた。
「新しい公爵夫人には、新しい庭師が必要なものですから。」(引用:原作70話)
約束の時間
別邸の応接室では、
マティアスがレイラの金色の万年筆を指の間で回しながら時計を確認した。
去年の秋からずっと当然のように持ち歩いていたペン。
蓋に刻まれた金色の名前が、微かな灯りの中で煌めいた。
そろそろだろうと思った瞬間、聞き慣れたノックの音が聞こえてきた。
開いたドアの向こうには、予想通り、その顔が立っていた。
次話では、別邸でのマティアスとレイラの夜が描かれる。
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