泣いてみろ、乞うてもいい|原作76話 戻れない道|ひびの入ったガラスのようで あらすじ【ネタバレ】

泣いてみろ、乞うてもいい|原作76話あらすじ 原作カテゴリ

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🌹 本記事は『泣いてみろ、乞うてもいい』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。本文中の会話・心理描写・印象的な表現については、原作の表現を適宜引用しています。
ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

ようやく、本当のレイラに

「ビルおじさんのこと、聞いたよ」

長い沈黙を先に破ったのはカイルだった。

「うん」

レイラはテーブルの端を見下ろしたまま、短く答えた。
カフェで向かい合ってから、レイラは一度も彼を見なかった。

「ごめんね、レイラ」

「……あなたがなぜ?」

重々しい謝罪に、ようやくレイラが顔を上げる。
眼鏡の奥の瞳には、疑問が満ちていた。

そのきらきらとした目に、カイルは安堵した。
ようやく本当のレイラに向き合った気がした。

「何の助けにもなれなかったから。そんなことも知らずに、馬鹿みたいな手紙を送り続けたこと」

「違うわ、カイル。あなたは何も悪くない。これはあなたと関係のない、おじさんと私のことよ」

レイラは断固として首を横に振った。

「あれはただの不幸な事故だったの。もう全て……解決したことなの」

「もう大丈夫なのかい? 本当に?」

「ええ」

再び長い睫毛を伏せる。
しきりに引っ張っていたセーターの袖は、手の甲をすっかり覆っていた。

僕が君を知らないとでも

「何かあるのなら、率直に教えてほしい、レイラ。僕が、何でも助けるよ」

「なぜそんなことばかり言うの」

「君が全然大丈夫そうに見えないからだ」

袖を引っ張る手が止まった。
レイラはゆっくり息を吐き、両手をテーブルの下へ隠した。

「レイラ、僕が君を知らないとでも思うのかい?」

カイルは確信した。

不吉な予感は正しかった。
目の前のレイラは、あまりにもレイラらしくない。

ビルおじさんは精一杯レイラを愛していたが、
言葉にならない心まで察するほど繊細ではなかった。

そしてレイラは、自分の苦しみを隠すことに慣れすぎていた。

辛いと、苦しいと、助けてと、
手を差し出せない子だった。

それを知ってから、カイルはレイラを注意深く見るようになった。
元気に笑うほど、さらに深く見つめた。

それでも、隠すことに慣れたレイラのすべてを見抜けたわけではない。
ただ、長年見つめてきたからこそ、何かがおかしいという予感だけは持てるようになっていた。

今のように。

「話してごらん、レイラ。
何か月も僕の手紙に返事をしなかったのも、今こういう態度で僕に接するのも、全然君らしくない」

人は変わるのよ

「人は変わるのよ、カイル」

レイラはゆっくり目を開き、カイルを見つめた。
落ち着いて沈んだ眼差しは、一見冷静にさえ見えた。

「あなたが知ってる私の姿でないからといって、それが私らしくないわけではないわ。ただ、これが今の私なのよ」

「たった二つの季節の間に、他の誰でもない君が変わったというのかい?」

「そんなに短い時間だけではないと思うわ。それに、私たちはもう前と同じでいられない関係でしょ?」

「レイラ!」

「返事をしなかったのは、それが私の答えだからよ。カイル、私たちは終わったの。もう元に戻すことはできないの。何もかも」

カイルをまっすぐ見つめ、
まるで釘を打つように一言ずつ言い切った。

「私はね、カイル、あなたのことが嫌いになったわ。
エトマン夫人が許してくださるとしても、今度は私が嫌なの。
それなのに、あなたと二人きりで、故郷に背を向けて逃げて結婚するなんて。そんなことは考えることもできない」

呆然とするカイルを残し、レイラは立ち上がった。

「こういうことは、あなたに言いたくなかったわ。私たちの友情だけは、大切な思い出として残したかったの。だから返事を避けていたのに……結局こうなってしまったわね」

「嘘だろう。どうして……」

「私があなたにできる答えはこれだけよ。だから、少しでも私を思ってくれる気持ちが残っているのなら、もう二度と会わないことにしましょう。人々があなたと私の名前を一緒に口にするのも、もう嫌なの。お願いよ、カイル」

ひびの入ったガラス

夢を見ているような気分に囚われ、
カイルは何も答えられなかった。

その間にレイラは荷物をまとめ、カフェを出ていった。

チャイムベルが鳴り響いて、ようやく我に返る。

「待って! レイラ!」

慌てて追いかけ、自転車に乗ろうとするレイラの肩を掴んだ。

振り向いたレイラの目は、
今にも涙を流しそうに赤く腫れていた。

だからだった。

それ以上、何も言えなかったのは。

まるで、ひびの入ったガラスのようだった。

あと少し追い詰めれば、
がらがらと崩れ落ちてしまいそうで。

レイラはカイルの手を振り払い、自転車で走り去った。

その姿が見えなくなっても、
カイルは長い間その場に立ち尽くしていた。

——間違いなく、何かが起こった。

そして、その何かを必ず見つけ出してみせる。

選んだ未来

「うわあ。これはまったくひどい有様になってしまいましたね」

修復中の温室を眺め、リエットが面白そうに言った。

かつて完璧な楽園だった温室は、
凍死した植物が取り除かれ、掘り返された花壇が廃墟のように広がっていた。

「あの子が愛人の役割を、かなり満足のいくように果たしているのでしょうね」

「ブラント令嬢がそんな言葉まで口にするとは思わなかったぞ?」

リエットの目が少し大きくなる。

クロディーヌは唇を噛んだが、すぐにいつもの余裕ある表情を取り戻した。

「ごめんなさい、お兄さま。失言でしたわ」

「謝る必要はないさ。嫉妬しているブラント令嬢が、めったになく人間らしく見えてね」

アルビスに到着したばかりのリエットをここへ連れてきたのは、
慰めてもらいたかったからかもしれない。

とぼけたふりをして戯れるだけだと分かっている。
それでも、そんなリエットに慰められている自分がいた。

やがて二人は家族の集う応接室へ戻った。

時折リエットと目が合うたび、
クロディーヌは考えた。

——もし両親が選んだのが、ヘルハルト家ではなくリンドマン家だったなら。

けれど、その答えもまた分かっていた。

両親の選択は正しかった。

世界はますます速く変わっていく。
その波は、旧時代の象徴である貴族たちにも容赦なく押し寄せるだろう。

数多くの名門が変革の波に消えても、
ヘルハルト家は生き残り、新しい時代の栄誉を手にする。

クロディーヌが望む未来は、その名の中にあった。

決して過去にはならない、
永遠の現在(いま)の栄光のような未来。

やがて話題が来年の夏の結婚式へ移った。

顔を上げると、リエットの柔らかな茶色の瞳と目が合う。
戯れるようでもあり、優しげでもあるその眼差しが、クロディーヌは好きだった。

幼い頃からずっと。
もしかしたら、これからも。

——しかし、もはや戻るには遠すぎる道を来てしまった。

振り返ることも、後悔することもない。

だからこそ、自分が選んだ未来は、
そのために諦めた幸せをすべて合わせたのと同じくらい、完全無欠でなければならなかった。

もしも、のために

夕食まで時間ができると、
クロディーヌは頭痛を口実に客室へ戻った。

暖炉の炎を見つめながら、レイラのことを考える。

彼女の知るレイラ・ルウェリンは賢く、
何より、身の程に合わないほど高潔な自尊心を持った子だった。

そんな女が、男の影に隠れた愛人として生き続けられるはずがない。
時が来れば、自ら姿を消すだろう。

——しかし、いつでも「もしも」は存在する。

その「もしも」に無防備なまま遭遇するほど、
クロディーヌは無謀ではなかった。

ちょうどその頃、薬を取りに行っていた女中が戻ってきた。

小走りで近づいた拍子にカーペットへ足を取られ、盆と薬瓶、グラスを床へ撒き散らして転んだ。

「大丈夫?」

クロディーヌの目が、女中の右手で止まった。

割れたガラスで切った傷から、血が流れている。

「大したことありません。こんな傷はすぐに……」

「だめよ」

クロディーヌは微笑んだ。

「右手が使えなくなったのだから、私の世話をするのは難しくなったわね。……そうよね、マリー?」

「ええ。はい、お嬢様」

幼い頃からクロディーヌに仕える、
口が堅く勘の鋭い女中は、すぐに主人の意図を察した。

レイラを呼んでください

右手に包帯を巻いたマリーを連れ、
クロディーヌは貴婦人たちのいる応接室へ向かった。

「クロディーヌ、あなたが不便になってしまいましたね。家の女中の一人を付き添いにつけてあげます」

「結構ですわ。大きな客を迎える準備で皆忙しいのに、手間を取らせるわけにはいきません」

「でも、付き添いなしで過ごすわけにはいかないでしょう」

「それなら、レイラを呼んでいただけないでしょうか?」

「レイラ? 庭師の養女、あのレイラのことかい?」

「はい。幼い頃から気が置けない仲ですし、ちょうど休暇中で忙しくないはずですから。
数日間傍に置きたいのです」

ブラント伯爵夫人が目を吊り上げたが、
クロディーヌは構わず続けた。

「怪我をした女中にできないことだけを手伝ってもらえれば十分です。
実は、あの子を話し相手としてそばに置きたいのです」

「子どもの頃からだから、レイラが一番気楽かもしれないわね」

エリーゼ・フォン・ヘルハルトは頷き、
鈴を鳴らして女中を呼んだ。

「レイラ、あの子を連れてきておくれ」

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