泣いてみろ、乞うてもいい|原作75話 その選択は正しかった|あなたが何だというのよ あらすじ【ネタバレ】

泣いてみろ、乞うてもいい|原作75話あらすじ 原作カテゴリ

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🌹 本記事は『泣いてみろ、乞うてもいい』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。本文中の会話・心理描写・印象的な表現については、原作の表現を適宜引用しています。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

カナリアの水浴び

マティアスを目覚めさせたのは、カナリアの歌だった。

機嫌が良いのか、鳥は澄んだ声で囀り、鳥籠の中を飛び回っている。
やがて水入れにぴょんと降り立つと、
嘴と頭を浸し、羽をばたつかせて全身に水を浴びせた。

フッと笑い、マティアスはベッドにもたれる。

水浴びを終えたカナリアは止まり木に上がり、ぶるると水滴を振り払った。
それから広げた羽を、せっせと嘴で整え始める。

——小さな体で、ちょこちょこと。

その性質まで、まるでそっくりだった。

その選択は正しかった

カイル・エトマンが戻ってきた。

その報せは一日も経たないうちにアルビス中へ広まり、マティアスの耳にも届いた。

——だから何だ。

舌の上で何度か転がしたその名前を、軽い失笑で打ち消す。

旅行を取りやめて戻ってきた理由など、知ったことではない。
たとえ二人に未練が残っていたとしても同じだった。

レイラは、彼の愛人である限りカイルを受け入れるような女ではない。

——それでいい。

カフスを留めるマティアスの唇に、穏やかな微笑みが浮かんだ。

レイラ・ルウェリンの、あの愚かで潔癖な性質が気に入っていた。

時折頭をよぎった疑問——
こんな形であの女を手に入れたのは、間違いだったのではないか。

今なら、はっきりと打ち消せる。

——選択は正しかった。

マティアスは満足げにドレスルームを出た。

カイル・エトマン。
もはや気にする必要のないその名前は、きれいに消し去られていた。

天が与えた縁

使用人たちの間でも、話題はカイルの帰郷でもちきりだった。

「あんなに長い間、一緒に過ごしたんですもの。簡単に気持ちを断ち切れるものかしら」

幼い頃から二人を見てきた使用人たちにとって、
レイラとカイルはただの噂話の種ではなかった。

本当にお似合いだった。
天が与えた縁だと思っていた者さえいた。

「私はあとでレイラのところへ行ってくるよ。
レマーさんも留守だし、あの子一人で大丈夫か心配だからね」

モナ夫人は深いため息をついた。

モナ夫人の訪問

「レイラ! 家にいるの?」

甲高い声に、机の前でぼんやりしていたレイラは我に返った。
お茶を淹れて向かい合うなり、モナ夫人が顔を覗き込む。

「どこか具合でも悪いのかい? 顔色が良くないよ」

「よく眠れなくて。疲れているのかもしれません」

「ああ、レイラ。また徹夜で勉強したんだろう」

レイラは不自然に笑って眼鏡を掛け直した。

ビルはまだ半月ほど帰れないらしい。
貴重な植物を集め直すため、各地を回っているという。

「それにしても、またアルビスで働かせてもらえるなんてね。うちの公爵様だからこそだよ」

満足げにマティアスを褒めるモナ夫人の前で、
レイラは味のしないケーキを黙って食べ続けた。

カイルは違うじゃないか

「カイルが故郷に帰ってきたそうだよ。あんたも聞いたかい?」

「はい。聞きました」

「会ったのかい?」

「いいえ」

茶碗の取っ手を弄りながら、レイラは素っ気なく笑った。

「私があんただったら、カイルの手を取って逃げていくよ」

「私とカイルは、もうそんな関係ではありません」

「分かってるよ。でもね、レイラ」

モナ夫人はしばらく考え込んだ。

「もし本当に、あんたのために戻ってきたのなら、もう一度よく考えてごらん。
他の男なら止めるけど……カイルは違うじゃないか」

それ以上にうまい言葉を、モナ夫人は見つけられなかった。
けれど、それこそがカイル・エトマンという青年を最もよく表していた。

「レマーさんとも話していたんだよ。あんたたちをこのまま別れさせて、本当に良かったのかって」

レイラは微笑んだまま、何も答えなかった。

今となっては、他の男の愛人である自分が、カイルについて何を語れるというのだろう。
そう思った瞬間、心臓を引き裂かれるような痛みが走った。

その痛みは深く沈み、
マティアス・フォン・ヘルハルトへの憎しみとなって積み重なっていった。

あなたが何だというのよ

モナ夫人が帰ると、小屋は再び静寂に包まれた。

レイラは残ったケーキを食べ始めた。
食欲などなかったが、それでも食べた。

ビルおじさんを心配させたくない。
何より、あの男のせいで自分が痩せていくことが嫌だった。

「あなたが何だというのよ」

冷めたお茶でケーキを流し込む。

痩せた体を持ち出して公爵が吐いた下品な言葉を思い出すと、
吐き気が込み上げた。

それでも食べた。

平凡な日常を取り戻すように、部屋を掃除し、洗濯をした。
そうしているうちに、ぼんやりしていた頭も少しずつ澄んでいった。

公爵は首都へ発った。
戻るのは早くても週末。

数日だけでも、あの男から離れられる。
そのことに安堵している自分が、ひどく物悲しかった。

「いつになれば終わるのだろう……」

考え込むのが嫌で、レイラは小屋を飛び出した。

冷たい風の中、自転車を勢いよく漕ぐ。
図書館で本を返し、雑貨店で粉石鹸とブラシを買った。

目が眩むほど甘いホットチョコレートまで飲んだ帰り道には、
少し笑えるようになっていた。

会いたくない、その顔

アルビスへ入る道の角を曲がるまでは。

そこで——

とても恋しかったのに、
決して会いたくなかった顔と出会った。

「レイラ……」

自転車の車輪が止まり、静寂が落ちる。
温かみを帯びた低い声だけが、冬の空気に染み込んだ。

カイルだった。

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