泣いてみろ、乞うてもいい|原作77話 可哀想なあなた|持っているのに、渇望する あらすじ【ネタバレ】

泣いてみろ、乞うてもいい|原作77話あらすじ 原作カテゴリ

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🌹 本記事は『泣いてみろ、乞うてもいい』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。本文中の会話・心理描写・印象的な表現については、原作の表現を適宜引用しています。
ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

「あまり負担に思わないでね」

何と言われたのか、レイラはすぐには飲み込めなかった。

耳を澄まして聞いたはずの言葉が、意味を結ばないまま頭の中を乱れて巡る。
その心を見透かすように、エリーゼ・フォン・ヘルハルトはもう一度口を開いた。

「当分の間、あなたにクロディーヌを手伝って欲しいのよ。報酬は十分に払ってあげるから。」

「しかし奥様、私はこのような仕事は……」

「クロディーヌの話し相手になるのは、小さい頃からやり慣れているのではないの?」

眉間に皺を寄せ、公爵夫人は不快をあらわにした。

「まさか断るとは思わなかったわ。クロディーヌがあれほど愛した温室を台無しにしたビル・レマーを、寛大に扱ってやった恩を思えば……
この程度の手助け一つできないなんて、あって良いことかしら。」

ビル・レマーの名を口にする声には、隠す気もない怒りがそのまま滲んでいた。

——ああ。あの庭師。

声を潜めた貴婦人たちのざわめきが、冷たい命令のあとに続く。

「あまり負担に思わないでね、レイラ。」

一歩離れて状況を静観していたクロディーヌが、優しげな一言を添えた。

「簡単なことだけ手伝ってくれれば、残りの時間はあなたのすべきことをして過ごして良いわよ。」

青ざめていくレイラの顔を、クロディーヌは注意深く見つめる。

「私がこうしてお願いするわ、レイラ。どう?大丈夫でしょう?」

どうせ一つしかない答えへ向けて、
クロディーヌは巧みにレイラを追い詰めていった。

……はい、お嬢様

「おい、クロディーヌ!」

向かいに座ったリエットが、唇の形だけで名を呼んだ。
止めるような素ぶりだったが、クロディーヌは引かなかった。

——言うなれば、万が一に備えてのこと。

自分から姿を消してくれないのなら、あの子を夫の愛人として見て過ごすことになる。
そうなった時には、それに見合った秩序が必要だ。
レイラが分際を越えず、愛人としての立場を守るなら、あえて対立するつもりはなかった。

「ほら、クロディーヌが直接あなたにお願いしているじゃない?」

見ていた貴婦人の一人が、不満げにレイラを咎める。
レイラは道に迷った子どものように途方に暮れた顔で、クロディーヌを見た。

どうかその命令を撤回してほしいと、切に願う眼差しだった。

——この水気を帯びた澄んだ眼差しが、あの無情な男の心を捉えたのだろうか。

学究的に考え込みながら、クロディーヌはレイラを見守った。
どうせ答えは決まっている。
焦る必要はない。

やがてレイラは、その答えを諦めるように口にした。

「……はい、お嬢様。」

頭を垂れ、両手をきゅっと合わせる。

「ありがとう。」

クロディーヌは明るい微笑みを浮かべて頷いた。

「本当に素直な子ね、レイラ。」

それが、ヘルハルト家の秩序

ラッツに滞在した四日間、マティアスの日程は休む間もなく組まれていた。
首都ラッツは、皇室や政界、社交界との人脈を束ねる、ヘルハルト家にとって重要な拠点だった。

先代の公爵たちと同じく、
結婚後のマティアスも領地と首都を行き来する生活を送ることになる。

——それなら、あの女をここに置いてはどうだろうか。

執務室の天井を見上げ、マティアスは考えた。

ラッツのヘルハルト邸は、
代々家門の主人の住まいであると同時に、主人が囲った愛人の住処でもあった。

父が最も長く傍に置き、大切にした愛人もこの邸で暮らしていた。
首都を訪れるたび当然のように彼女を目にしたが、マティアスも母も、それを当然として受け入れた。

父は、愛人の件が決してアルビスの垣根を越えないようにすることで、妻と子への礼儀を尽くした。
それが、マティアスの知るヘルハルト家の秩序だった。

「そうだ。それが良いだろう。」

手に入れても捨てられないのなら、
この欲望が思ったより長く続くのなら、その秩序に従うのが正しい。

結婚後もレイラをアルビスに置くのは、筋が通らないのだから。

持っているのに、渇望する

しかしあの女は、果たして——。

レイラ・ルウェリンの頑固な眼差しが浮かび、マティアスは目元を細めた。

素直に愛人としての暮らしを受け入れるとは思えない。
命のように思うビル・レマーに公爵の愛人だと明かすくらいなら、いっそ舌を噛み切ってしまう女だった。

「レイラ。」

甘美な毒酒のようなその名を反芻し、マティアスはゆっくりと顔を撫で下ろした。
かなり気に入っていたその愚かな性質が、またも耐え難いほど鬱陶しく、苛立たしくなる。

与えられるものは無数にあるのに、
彼の美しい愛人は何一つ受け取ろうとしない。

掌にしっかり握り締めているのに、
どうしても完全に自分のものと感じられない女だった。

——持っているのに、渇望しなければならない。

こんな気分だとは。

結論の出ないまま、長い溜め息だけが落ちた。

その時ふと気づく。

習慣のように、自分がレイラを考えているという事実に。

翼は黄色で

「旦那様、ファレル大佐が到着されました。」

付き人のマーク・エバースが、新たな客の到着を告げた。
短く頷き、マティアスは身支度を整えて執務室を出た。

応接室へ続く廊下の途中で、後ろにいたマーク・エバースが口を開いた。

「先ほど自然史博物館から回答が参りました。
昨年の春、通路天井のクリスタルオーナメントを手がけた職人が判明したそうです。皇室に宝石を納めるクロケンという商人だとか。同じものを注文してよろしいですか?」

「そうしてくれ。」

何気なく頷いて歩き出したマティアスは、二歩も進まぬうちに振り返った。

「ああ。翼は黄色で。」

「はい?」

「あのオーナメント、黄色い翼を持つ鳥で注文するように。」

指示を終え、そのまま広い歩幅で廊下を横切っていく。
色とりどりの鳥のオーナメントに、子どものように感嘆しながら駆け寄ったレイラの後ろ姿が、鮮明に蘇った。

背伸びをして鳥へ手を伸ばした姿も、
その輝く微笑みも、追いかけてひょいと抱き上げた瞬間の気分まで、すべて。

——それを与えれば、あの日のように笑ってくれるのではないか。

ラッツの自然史博物館の前を通り過ぎた時、ふとそう思っただけだった。

あの日、博物館を巡る間じゅう、レイラは浮き浮きと幸せそうだった。
標本と化石の間を回り、熱心に見て、記録し、感嘆していた。

このラッツで、彼女があれほど願った大学へ通わせてやれば、受け入れるのではないか。

応接室の戸口にたどり着いた頃、マティアスはふと思いついた。

よりによってカイル・エトマンと同じ大学だというのは気に障るが、
深く気にする必要はない。

——レイラはすでに、彼の女だから。

一段軽くなった気分で、マティアスは扉を開けた。

私的な感情を一瞬で消し去り、完璧なヘルハルト公爵の顔になって。

初めて出会った場所

「覚えているかしら、レイラ?私たちが初めて出会った場所は、まさにここだったのよ。」

美しい幼年の思い出でも回想するような口調で、クロディーヌは言った。

石像のように固まって向かいに座っていたレイラは、
小刻みに震える目を上げて周囲を見回した。

そう言えば十二歳の夏、クロディーヌ・ブラント令嬢のおもちゃとして連れて来られ、
捨てられた場所も、まさにこの応接室だった。

「はい、お嬢様。」

レイラは丁重に目を伏せて答えた。

大変なことはない、というクロディーヌの言葉は嘘ではなかった。
与えられた役割は、退屈した令嬢の話し相手だけ。

幼い頃のその役割と、何も変わらなかった。

「あの日が昨日のことのように思えるのに、もう時間がこんなにも経ったなんて。」

名残惜しそうに、クロディーヌは深い溜め息をついた。

可哀想にね

手を怪我した女中が入ってきて、午後のティーパーティーへ向けて着替えの時間だと告げた。

レイラは広げた本を閉じ、クロディーヌに続いた。
客室の寝室には、女中が選んだドレスと装身具が既に用意されていた。
レイラはただ、それを綺麗に着せればよかった。

女中は目を閉じてもできると言ったが、
こうした装いに不慣れなレイラには、決して容易ではなかった。

「なんてことです、ルウェリンさん!それは違いますよ!」

見ていた女中が大袈裟に騒ぎ、近づいてくる。

複雑な装飾に戸惑い、慌てるレイラの頬が微かに赤らんだ。

「おやめなさい、マリー。レイラが戸惑っているでしょう。」

女中を叱り、クロディーヌはレイラへ優しげな微笑みを向けた。

「続けて、レイラ。大丈夫よ。」

他の女中を呼ぶ気のないクロディーヌを前に、
レイラは何とかやり遂げようと努めた。

だが、どれほど時間をかけても、
不慣れなレイラに貴族令嬢の装いを完璧に整えることなどできなかった。

鏡の前に立ったクロディーヌは小さく溜め息をつき、被せられた帽子を脱いだ。

さらに次々と外されていく——手袋、ショール、ネックレス。

その緩やかな動作が、かえって冷厳に感じられた。

自らの手で再び身につけ終えたクロディーヌは、
少し前とは比べものにならないほど優雅で洗練されていた。

曖昧な微笑みを浮かべ、彼女はレイラを振り返る。

「可哀想にね。」

落ち着いた瞳が、静かにレイラを見つめた。
その視線が呼び起こす幼い頃と同じ無力感に、レイラの体は硬直する。

「相変わらず、あなたは何も知らない子なのね。」

落胆も苛立ちも見せまいとする声で、
クロディーヌは溜め息のように柔らかく囁いた。

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泣いてみろ、乞うてもいい 結末ネタバレ|全体の流れと結末整理


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