泣いてみろ、乞うてもいい|原作83話 愛が愛であることを知らずに|高貴な令嬢の男は、あのような姿なのだな あらすじ【ネタバレ】

泣いてみろ、乞うてもいい|原作83話あらすじ 原作カテゴリ

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🌹 本記事は『泣いてみろ、乞うてもいい』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。本文中の会話・心理描写・印象的な表現については、原作の表現を適宜引用しています。
ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

ごめんね、マリー

「ごめんね、マリー。」

鏡越しに目が合った女中へ、クロディーヌは淡々と詫びた。
女中は驚いて、手にした櫛を置いた。

「そんなお言葉はやめてください、お嬢様。全ては——」

「わたしが、ちゃんと振る舞えなかったせいですから。」

「違うわ。私が愚かだったのよ。あなたをあんな困境に追い込むべきではなかった。」

溜め息をつき、クロディーヌは化粧台の前から立ち上がった。

皇太子夫婦を迎える身支度を終えた姿は、
優雅で美しく、既にアルビスの女主人と言っても遜色なかった。

「あなたに負った借りは、決して忘れないわ。
本当にごめんね。そして、ありがとう、マリー。」

固く手を握って告げられたその言葉に、女中の目頭が赤くなった。
長年仕えてきて、こんな言葉を聞くのは初めてだった。
高飛車で自尊心の強い主人を、それでもずっと慕ってきたマリーには、胸の痛む姿でもあった。

「これも、ぜんぶレイラのせいで……」

「そんな言い方はやめて。私の考えが浅はかだっただけよ。」

女中を制し、クロディーヌは寝室を出た。

あの男が、愛着を持った様子を

荒れ果てた温室を一周し、生き残った植物と鳥を移した日光浴室へ足を向ける。

愚かな庭師への苛立ちが再びこみ上げかけた頃、
背後から慣れた声がした。

「浅はかな手を使って傷ついたお心は、もう癒えられましたか、ご令嬢?」

振り向くと、予想通りリエットが立っていた。

一瞬目を吊り上げたが、クロディーヌはやがて虚脱したように笑い、テーブルに着いた。
甘い花の香りと鳥の歌声のおかげか、心が安らいだ。

「素敵な慰めをありがとうございます、お兄様。」

「どういたしまして。」

向かいに座ったリエットへ、クロディーヌはふと話題を変えた。

「私ね、この件が問題になるなら全部レイラのせいだと思っていたの。馬鹿げた考えだったわ。」

「あまり心配するな、クロディーヌ。男は女に夢中な時は何でもできる種族だ。そのうち熱も冷める」

「一般的な男性ならそうでしょう。でも、あの男はマティアス・フォン・ヘルハルトですよ」

溜め息混じりの言葉に、リエットは反論できなかった。

「あの男が誰かに愛着を持った様子を、お兄様は見たことがありますか?」

差し込む日差しのガラス天井を見上げていたクロディーヌが、
少し疲れた目でリエットを見た。

「私はないわ。一度も。自分の母親にさえ、特別な愛着のない人でしょう」

飛躍しすぎだと言いたかったが、リエットは否定できなかった。

「そんな男が、女中に執着するなんて」

「厳密に言えば、レイラ・ルウェリンは女中ではないよ」

「変わりはありませんわ」

落ち着いた口調のせいで、その声は一層冷たく聞こえた。

見ていない

「あの日、あの男があんな嘘をついた日に、とっくに気づくべきだったのに。」

自嘲するクロディーヌの眼差しが、徐々に深まっていく。

庭師の小屋に泥棒が入った、あの夏の朝。
クロディーヌは、一人で散歩に出るマティアスを見た。
川沿いの別棟へ向かうようだった。

生け花のバラを切っていた彼女は、衝動的にその後を追った。
滅多に人を入れない別棟を、だからこそ一度、許してほしかった。

花の詰まった籠があったから、花瓶を飾るという口実にも都合が良かった。
マティアスは、普段より大きな歩幅でずんずんと歩いた。

息が切れる頃、クロディーヌは思いがけない光景に出くわす。
川沿いの道で、マティアスが不意に足を止めた。
向かいには、反対から歩いてきたらしい見知らぬ中年の男が立っていた。

慌てて木の陰に身を隠したのは、今思えば、一種の本能だったのだろうか。
場面そのものは、印象的でもなかった。

招かれざる客を見つめるマティアスと、戸惑って何かをまくし立てる男。
大したことではないと判断したのか、
マティアスはすぐに通り過ぎ、男も慌てて姿を消した。

少し悩んで、クロディーヌは屋敷へ引き返した。

そして間もなく、
庭師がレイラの学費を盗まれた件で、アルビス中が騒然となった。

関係ないと関心を失っていたその件に再び興味が湧いたのは、
数日後、警官が公爵邸へ来た朝だった。

あの日、怪しい人物を見なかったかという問いに、
マティアスが何食わぬ顔で嘘をついた、まさにその瞬間だ。

「見ていない。」

間違いなく見ていたはずの男が、完璧な嘘をついた。

——一体、なぜ。

理解できないまま、クロディーヌは喜んで共犯者になることを選んだ。
もしかすると、あの時すでに予感していたのかもしれない。

——その嘘の理由が、レイラであることを。

私の婚約者は、あの子を求めている

その予感は、間もなく現実になった。

見知らぬ男こそレイラの学費を盗んだ犯人で、それを唆したのが、息子の結婚を阻もうと必死なエトマン夫人だと明るみに出た日に。

「私の婚約者は、あの子を求めているのだわ。」

その事実を知った日、クロディーヌは少し笑った。
高潔なヘルハルト公爵が嘘をつき、計略を巡らせてまで、あのレイラを手に入れようとするなんて。

しかもその方法が、あの娘の得られる最善の生き方を台無しにするというのだから。

卑劣な欲望を持つ婚約者には少し失望したが、気にするつもりはなかった。
あの男はマティアス・フォン・ヘルハルトで、相手はただのレイラだったから。

——まさか、ただのレイラごときに、こんな屈辱を受けるとは。

「心配するな、クロディーヌ。
その愛着が本物でも、マティアスがあの子を公爵夫人の座に座らせるはずがない。」

リエットの慰めにも、クロディーヌはすぐに頷けなかった。

「そうですか?」

あり得ないとわかりながら、不安に呟く。

「そうでしょうか?」

今度は、切実な願いを込めて尋ね返した。

愛が愛であると知れば、止められない

細めた目でクロディーヌを見ていたリエットの唇から、長い溜め息が漏れた。

「それほど不安なら、いっそ放っておけ。」

「どういう意味ですか、お兄様?」

「君の婚約者が、愛が愛であることを知らずにいるようにしろ。
全く知らないまま、あの女を失うように。そう放っておけ。」

「まさか、ヘルハルト公が自分の感情ひとつわからずにいると?」

「もし本当に愛しているのなら、マティアスにはわからないだろう。」

断固としたリエットの前で、クロディーヌは信じられない様子だった。

そんな感情が何であるかを、一生知らずに生きてきたのだから。
見当すらつかないのだから、気づきもしないだろう。

「あり得ません。」

「これは君のための心からの忠告だ。マティアスを刺激するな、クロディーヌ。」

——愛している女性が、無事に従兄弟の妻となるのを願う忠告だというのか。

自分が情けなくて笑い出しそうになりながら、
それでもリエットはクロディーヌの幸福を願った。

その幸福がヘルハルト公爵夫人の座にあるのなら、
それさえ手に入れさせてやりたいと思うほどに。

「余計なことでレイラ・ルウェリンを刺激し、マティアスに自分の感情を悟らせるな。
そのきっかけを与えるなという意味だ。」

「人の心は、可笑しなものでね。愛が愛であると知れば、止められなくなる。」

——君に向けた、私の心のように。

伝えたい言葉の代わりに、リエットは軽く微笑んだ。

その時、廊下の向こうから人の気配がして、二人の会話は途切れた。
現れたのは、礼装のヘルハルト公爵だった。

リエットの横を過ぎ、彼はクロディーヌの前へ進み、白い手袋の手を差し出した。

「皇太子殿下がまもなくご到着です。参りましょう、令嬢。」

その優雅な微笑みのどこにも、
クロディーヌを窮地に追い込んだあの日の冷酷さはなかった。

瞳が揺れたのも束の間、
クロディーヌは負けず劣らず自然な微笑みで、その手を取った。

「ええ、ヘルハルト公。」

ただ明るく快活なその声に、リエットは失笑を禁じ得なかった。

「ある意味では、天が定めた一組だ。」

首を振ったリエットも、間もなく席を立った。

高貴な令嬢の男は

三人は間もなく、皇太子夫婦を出迎える人々が並ぶロビーのホールへ着いた。
そこでリエットは、あの女を見た。

使用人たちの最後尾に静かに立つ、ヘルハルト公爵の女、レイラを。

皇太子夫婦の車が着くと、待機していた写真家たちが忙しく動き出す。
公式の帝国視察ゆえ、それにふさわしい儀礼が整えられていた。

長年アルビスで多くの貴賓を見てきたレイラでさえ、
改めて驚くほど大きく華やかな規模だった。

公爵は、婚約者のブラント令嬢と共に現れた。
腕を組んで並ぶ二人は、閃くフラッシュの嵐の前でも、緊張の気配なく優雅だった。

深夜、陰に隠れて会うあの男とは、全くの別人だった。
節度と品位のある態度のどこにも、レイラの知る狂った男の痕跡はなかった。

——高貴な令嬢の男は、あのような姿なのだな。

緩やかに瞬くレイラの瞳に、冷たい冬の光が宿った。
赤いカーペットの階段を降りたマティアスとクロディーヌは、
優雅な微笑みで皇太子夫婦と向き合った。

声の届かない距離からでも、鮮明に感じ取れた。
互いへの態度が、ひどく親密であることを。

公爵の礼服を飾る目映い勲章を見ていたレイラは、思わず手を背に隠した。
何も握っていない指先が、突然ひりひりと痛んだ。

何度もきらめく鳥の翼を撫でた、あの手だった。

クロディーヌの金を、
丁重に受け取らねばならなかった、その手でもあった。

俯いて足元だけを見つめる間に、皇太子夫婦と随行団が階段を上がっていく。

——もう、すべて終わったのだ。

苦い安堵に視線を上げたレイラは、すぐに濃い後悔に囚われた。

クロディーヌが、振り返っていた。
正確にレイラを見下ろし、にこやかに微笑んでいた。

チャラチャラと硬貨の揺れる音が聞こえてくるようで、
レイラは背後の手に一層力を込めた。

日差しの影が、ひどく長く感じられる青白い午後だった。

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愛を知らないマティアス考察


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