泣いてみろ、乞うてもいい|原作71話 捨ててください|もう泣かない、乞わない あらすじ【ネタバレ】

泣いてみろ、乞うてもいい|原作71話あらすじ 原作カテゴリ

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🌹 本記事は『泣いてみろ、乞うてもいい』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。本文中の会話・心理描写・印象的な表現については、原作の表現を適宜引用しています。
ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

私の役割

昨夜と同じように、マティアスは悠然と一歩下がった。
違ったのは、レイラが先に立ったことだ。

廊下を歩いていったレイラは、応接室ではなく寝室のある方へ向かった。

理由を尋ねず、マティアスは黙って後に続いた。

いつもわずかな破格で彼を楽しませる女が、今日はどんな予期せぬことをしでかすのか——その期待も湧いてきた。

そしてレイラは、案の定その期待を満たした。
取っ手を握って少し躊躇したかと思うと、自ら寝室のドアを勢いよく開け放ったのだ。

さあ、好きなだけやってみろ、とでも言うように、
マティアスは緩く腕を組み、閉まったドアに背を預けて立った。

——『私は私の役割を果たしたのだから、君も君の役割を果たすべきだろう』

今日の手紙には、その一文だけがぽつんと記されていた。

——役割。

その単語が与える侮辱に、レイラはしばらく動けなかった。

——『愛人なら愛人らしくふるまうものだ、レイラ』

隅に追い詰めた鼠を弄ぶ猫のような微笑で公爵が投げたその言葉まで蘇ると、
両足で自分を支えられず、ドサッと座り込んでしまった。

泣いてみろ、乞うてもいい

半ば意識を失っていたはずのあの夜の記憶が、
身の毛がよだつほど生々しく蘇る。

どれほど痛く、恥ずかしかったか。
自分の体が自分の意のままにならないことが、どれほど絶望的だったか。

知識がなくても分かった。
あれが、決して愛の行為ではないことくらいは。

ただ欲望に任せているのとも違う。

——『君が泣けば面白いし、君が請い願うのを見れば楽しい』

窓から吹き込む冬の風を浴びながら、
レイラは去年の夏の夜に公爵が吐き捨てた言葉を、突然思い出した。

——『だからレイラ、泣いてみろ。乞うてもいい』

そうか。

面白くて、楽しい。
ただ、それだけなのだ。

狩りを楽しむように、あの男は私を——。

答えを見つけた時、虚脱した笑みが泣き声のように漏れた。

ただそれだけなのに、時折もしかしたら、
他に何かあるのではないかと深くあの男の目を見つめていた自分が、
堪えられないほど嫌になった。

誓い

「レイラ!」

戻ってきたビルおじさんの声に、辛うじて体を起こす。

窓を閉め、カーテンを閉め、赤い目元を袖で力いっぱい擦って振り返った。
そして決心した。

——私はもう二度と、私はもう二度と、あなたの前で乞わない。泣かない。
いかなる面白みも楽しみも与えない。

一日でも早く、あなたが私を捨ててくれるように。


その誓いを噛みしめながら、
レイラはブラウスとスカート、靴を順に脱いだ。

下着まで自ら脱ぐには、さらに大きな勇気が必要だった。
それでも、レイラは最後までやり遂げた。

公爵が自分の体にした仕打ちを考えれば、
今さら裸を見せるのを嫌がるのもおかしい。

何より、もう二度と最初の夜のように悲惨に犯されたくはなかった。
それならいっそ、自ら選択する方がましだった。

「はぁ……」

マティアスは呆れてため息をつき、半裸のレイラを見つめた。

胸を覆っていた腕を下ろし、残る下着も一つずつ脱ぎ去る。
最後にストッキングまで脱ぎ捨てると、糸一本纏わない体が目の前に晒された。

脱いだ服を椅子に置き、髪を留めていたピンも抜き取る。
うなじと肩を伝って流れ落ちた髪は、金色の波となって白い背中を覆った。

まっすぐで穏やかな眼差しとは裏腹に、
マティアスの息遣いは微細に乱れていた。

額の髪をかき上げる間に、レイラはベッドの端におとなしく座った。
気の狂ったような行為を毅然とやり遂げた気迫はどこへ行ったのか、全身が細く震えていた。

淑女の真似

ゆっくりと近づいたマティアスが、目を伏せるレイラの顎を掴む。

「何をしている?」

「……私の役割です」

強く言い切ったつもりでも、声の震えまでは隠せなかった。

「君の役割とは何だ?」

「もうよくご存知でしょう」

肩をすくめながらも、レイラは見下ろす視線から逃げなかった。

「公爵様がお決めになったのですから」

膝の上に行儀よく置かれた両手へ、マティアスの視線が落ちる。

——裸で座って淑女の真似とは。

嘲笑する瞬間でも、その眼差しはレイラの上を彷徨った。
再び大きな瞳と向き合うと、乾いた虚脱した笑いが噴き出す。

——金を払って女を買う気持ちは、これほど汚いものなのだろうか。

笑みが消えると、瞳は冷ややかな光だけで満たされた。
良い子を褒めるように、レイラの頭を撫でる。

倦怠感すら感じさせる柔らかな手つき。
口元の微笑みもまた同じだった。

レイラが妙な不吉さを感じたその瞬間、
頭を撫でていた手が突然、首を絞めるように掴みかかった。

真っ青になったレイラをそのまま押し倒し、ベッドに押しつける。

首を絞めてしまいたい女の体の上に乗り上げた瞬間、マティアスは少し笑った。

暖炉のマントルピースの上の鏡が、その姿を映していた。

完璧で平穏な日々を送っていたマティアス・フォン・ヘルハルトが消え去った場所には、
生まれて初めて渇望したものを手に入れられず、歪んでしまった一人の男が収まっていた。

助かった

荒い息が静まってから、
マティアスはようやくベッドを立った。

伏せているレイラは、気配だけで察した。

——助かった。

一番最初に、そう思った。
もう本当に終わりだ。

助かった。本当に助かった。

また刺激するかもしれないと恐れ、死んだように静かに待つ。
皺の寄ったシーツを握りしめ、体を丸めたまま、一刻も早く公爵が去ってくれることだけを。

足音が遠ざかると、安堵のため息が細く漏れた。
もう一度あの行為をされたら、体が壊れてしまうと感じた。

だが、あまりにも早く気を緩めすぎたのだろうか。

遠ざかっていた足音が、再び近づき始めた。
シーツを握る指の関節が白く変色する。

首を上げれば状況を確認できるのに、彼と目が合うことがレイラは心底嫌だった。
馬鹿みたいにただ祈るだけの間に、服を着て戻ってきた公爵がレイラの頭を撫でた。

髪をそっと引っ張り、指を櫛に見立てて梳き下ろす。
クスクスと笑う声が聞こえた。

「良くやった、レイラ」

頭を下げた彼が、低く囁く。

再び頭を撫でる手つきが与える、身を売る女に落ちたかのような侮辱に、
レイラの手は細く震えた。

——泣いてはだめ。

その誓いにだけ縋りついた。
長く凄絶な情事が続く間も泣かなかった。

今さら涙を流すわけにはいかなかった。

鏡の中

寝室のドアが閉まり、玄関のドアが開いて、また閉まる音が聞こえた。

公爵が完全に去った。
レイラはようやく体を起こした。

腫れた唇を擦ると、微かに血が滲む。
ひりひりと痛むが、大きな傷ではなかった。

恐る恐るベッドを降り、
床に足を踏みしめて立ったレイラは、何気なく向けた視線の先で自分と向き合った。

それがマントルピースの鏡に映る自分だと気づくまで、わずかな時間がかかった。
目を背けたい気持ちとは裏腹に、両目はぼんやりと鏡を見つめた。

——何ものではない男との、何でもないことに過ぎない。

頭では理解しているが、体に残った痛みは簡単には消えなかった。

服を着られそうもなく、ハンカチで滅茶苦茶になった体を拭く。
何度も手を止めて息を整えたが、ついに泣きはしなかった。

レイラはその事実に、深く安堵した。

小石や空のドングリの殻を見つけると、
何でもないようにポンと蹴り飛ばしてみる。

こんなささやかな憂さ晴らしで、
いつか忘れられることに過ぎないと言い聞かせるように。

最後の手紙

——『最愛の僕のレイラへ』

忘れたいその手紙が再び浮かんだのは、静かに自分の部屋に隠れ込んだ瞬間だった。
他の手紙は全て暖炉で燃やした。
それでもついに捨てられなかった最後の一通を、レイラは握りしめてベッドにもたれた。

——『僕と結婚してくれない?』

このプロポーズは、これまでの数多くのプロポーズを全て合わせたものよりも真実の告白だと、カイルは綴っていた。

来年の春、誕生日が過ぎれば祖父の遺産を自由にできること。
大学街に小さな家を借りて、二人が勉強を終えるまで暮らせること。
急ぐ必要はない。卒業まで時間をかけても構わない。

——『だからレイラ、僕とラッツへ行こう』

幼い頃から語り合った未来。
いつか自分は医者になり、君は鳥を研究する学者になる。
その未来にはいつも君がいる。

——『母が考える幸福は僕の幸福ではない。それは母の虚栄心だ』

家族を捨てるのではなく、自分の幸福を探すのだ。

——『君を僕の世界のように愛するよ。
大切にする。傷つけないよ、レイラ』

『君の気持ちが僕と同じなら、僕に言ってくれ、レイラ。
君を迎えに行く。僕と一緒に旅立とう。僕たち二人が幸福でいられる場所へ』

夜が明けるまで、レイラは何度も読み直した。

現実になったかもしれないカイルとの未来を描くたびに、
当然のように公爵が与えた悪夢が浮かび上がった。

ビル・レマーの気配が聞こえてきた頃、レイラは体を起こした。

そして大切に撫でたその手紙を、部屋の暖炉に入れた。
手紙はすぐに灰となって消え去った。

捨ててください

ヘッセンが別邸に用意したケーキは、手つかずのまま残されていた。

街のホテルのティールームのケーキをわざわざ注文させた理由も、
公爵がこの種の甘いものにあまり手をつけないことも、
彼はおぼろげに分かっていた。

深呼吸をして気を引き締め、寝室へ入った。
公爵は普段と変わらず新聞を広げていた。

「旦那様、ケーキは再び準備させましょうか?」

「いや、結構だ」

虚空を見つめた眼差しは、すぐに新聞へ戻った。

「それでは、残っているケーキは……」

愚かな質問だと分かりながら、ヘッセンは慎重に切り出した。

公爵は新聞を一枚めくり、何気ない様子で答えた。

「捨ててください」


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※本記事は結末までのネタバレを含みます
泣いてみろ、乞うてもいい 結末ネタバレ|全体の流れと結末整理


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