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🌹 本記事は『泣いてみろ、乞うてもいい』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。会話部分は原作の表現を引用しています。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。
帳消しになった、すべて
なぜいつも、一番隠したいみじめな心をこの男に見破られてしまうのだろう。
レイラは泣きたい思いをこらえ、公爵の視線を見つめた。
落ちたフォークと食べかけのケーキ皿。
マティアスはすぐにレイラが隠したがっていたものを見つけ出し、低く笑った。
「一人でこそこそと何をしていたのかと思えば、あれを食べていたのか」
おかしなことに、そのたった一つの事実が、他のすべての幻滅と苛立ちを消し去った。
レイラが頭から離れなかった日々も、
この女をそばに置くために日程を前倒しにした馬鹿な真似も、
好きなものを食べさせたくて、らしくない頼みをしたことも。
何もかも。
すべてが、ただレイラがあれを食べたという事実一つで、帳消しになった。
大した計画があったわけではない。
ただ一緒に散歩してみたかった。
夕食を食べて、お茶を飲み、ごく普通の夜を過ごしてたかった。
たったそれだけのために、
出張先へ愛人を呼び寄せるという滑稽な行為に及んだのだ。
「いつものように」
なぜ起こさなかったのか、と問う代わりに、
マティアスはケーキの風味の残る唇にキスをした。
頬に、鼻筋に、優しくついばむようなキス。
いつもとは違うその触れ方に、レイラはかえって飛び上がる。
「やめて、ください。
ただ……いつものようにしてください。お願いですから」
衝動的に出た言葉だったが、切実な本心だった。
優しさは、いつもの乱暴さより恐ろしい。
この男には「いつも通り」でいてもらわなければ、心が保てない。
しばらくレイラを見下ろしていたマティアスは、
言葉の代わりに自身の意志を伝えた。
その夜、彼はいつもの彼ではなかった――まるで何かを要求するかのように、執拗に。
温かく柔らかな体を抱きしめると、マティアスには理解できた。
レイラに会えなかった時間のすべて、不完全な欲望に囚われていた。
だから今、レイラが自分の懐にいることが、あまりにも当然のことに思われた。
このような女は、世界にただ一人しかいない。
マティアスが望むのは、その一人だった。
私の小さな鳥、
レイラ・ルウェリン。
暗闇は、やがて荒い息遣いを圧倒する嬌声によって揺らめき始めた。
十三歳の夏から、公爵夫人だった
その頃、眠れぬクロディーヌは、遠い夏の日を反芻していた。
念入りに着飾らせた娘の肩を掴み、「淑女にならなければ」と念を押した母。
マティアスと親密になることが一番重要だと説かれた、十三歳の夜。
嫌ではなかった。
あんなに素敵な少年を見たことがなかった。
ヘルハルト家のあらゆる芸術品の中で最も美しいのは後継者マティアスだ、という人々の冗談は、冗談ではなかった。
ただ——
彼の前に立つと、なぜだかいつも透明人間になったような気分になった。
常に丁重に扱ってくれたにもかかわらず。
成人も間近の少年にとって、まだ幼い従妹が物足りなく映るのは当然のことだった。
だが、マティアスの態度には、それとも少し違う距離感があった。
「ヘルハルト公爵夫人になれば、帝国最高の貴婦人になるのですか?」
「このアルビスが私のものになるということですか?」
窓の外、バラの庭園と噴水と広大な領地を見下ろして、
幼いクロディーヌは晴れやかに微笑んだ。
「努力してみます、お母様」
その約束のために献身してきた歳月が、ついに報われる目前だった。
——それなのに。
あの子の心を、どうやって打ち砕けばいい
夜が深くなっても、レイラは小屋に戻らなかった。
どこで、誰といるかは火を見るより明らかだった。
愛人として可愛がるだけなら、我慢できた。
彼に愛されたいという気持ちなど、最初からなかった。
クロディーヌが望むのは確固たる妻の座と息子。
ただそれだけだ。
マティアスも同じだったからこそ、婚約は成立したのだ。
だが、あの晩餐会の夜。
ほんの一瞬、完全な他人を見るように自分を凝視した、あの眼差し。
あの男はもう、以前のヘルハルト公爵ではない。
——あの男が自身の気持ちに気づく前に、終わらせなければ。
マティアスが手放せないのなら、レイラが去らなければならない。
静かに、痕跡すら残さず。
——マティアス・フォン・ヘルハルトは必ず、彼女の夫にならなければならない。
そのためには、あの子の心をどう打ち砕けばいいか。
「カイル・エトマン……」
長い熟考の末にその名を呟くクロディーヌの唇の端が、やわらかく弧を描いた。
夜が去っていく色の瞳
目を開けると、眠る男の顔があった。
眠気に酔ったレイラは、魅入られたように見つめた。
ひどく美しく、気品のある顔だった。
——『あの人だ。森で見た、あの恐ろしくも美しい人』
夢うつつのまま、布団から手を出して、その頬に触れてみた。
温かかった。
——夢の中でも温もりを感じるものなの?
意識が鮮明になった瞬間、レイラは慌てて手を引っ込めた。
だがマティアスは彼女をしっかりと抱きしめ、脚を絡ませていて、抜け出せない。
もがくのを諦めたレイラは、仕方なく彼を見つめた。
初めて会った日の少年と、目の前の男。
生来の容貌はそのままに、骨格は熟成し、より鋭利になっている。
郵便馬車でアルビスへ向かった日の記憶はまだ生々しいのに、もうずいぶん長い時間が流れたのだ。
あの頃の痩せた小さな少女を虚空に描くうちに、夜明けがほのかに訪れた。
そして再びマティアスを見た瞬間、レイラはか細い溜息を漏らした。
夜が去っていく色に似た瞳が、そこにあった。
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