ネタバレ注意
ここから先は、重大なネタバレを含みます。
ビルバオから戻ったルシアーノが部屋に入ると、イネスは義父・フアンとカードゲームに興じていた。
一度も勝てないイネスが不満げにカードを投げ、
サファイアの指輪を負け分として義父の手に渡す。
どうせイサベラの物になるのだから惜しくはないが、父親よりも勝ち目のない相手は初めてで、
イネスだけが妙に本気になっていた。
「私はすでに君に毎日負けているような気分だよ、イネス」(引用:原作6巻)
第16章「川はみな海に注ぐが、海は満ちることがない」⑥|あらすじ
ローデスの今後
ビルバオの報告を聞いたイネスは、ローデス(マテオ)の今後について話し始めた。
まず大司教の直属護衛として聖域の内側へ置く。
出自が一介の画工のままでは、国政のあらゆる事案から生涯除外され続けるだろう。
しかし聖騎士、それもビルバオ大司教の直属護衛という経歴があれば、
皇帝の息子として生きられなかった過去を誰もなじることができない。
そしてその対価として差し出すのは——カッセルの名前だった。
大司教はすでにカッセルを崇拝している。
カッセルの名を使えば、大司教は動く。
そして——
後々、ローデスが帝位に就く頃には、教団が勝手に彼を押し上げるだろう。
「神に呪われた出生を、聖域で隠す。何も知らない孤児を、ビルバオの大司教が養子として慈しむほどにその才能と信仰が優れていたのだと——そうして私生児は、神が親しく生かし育てられた皇帝の息子となるわけか」 (引用:原作6巻)
フアンが低く呟いた。
ルシアーノがため息をついて頷いた。
「計算が早いな」
エミリアーノの名前
計画の話が一段落した頃、ルシアーノが口にした。
カッセルがエミリアーノの絵をことごとく買い取ったこと。
子供たちが生まれたら、彼に最初の肖像画を任せようと。

「……いいえ。もう手配が終わっているから。」
しかしルシアーノは引き下がらない。
二回描かせればいいと。
フアンの満足げな微笑み。
その固い手に触れるルシアーノの仕草、
それらがイネスにはひどく遠いもののように見えた。
——かつてエミリアーノを殺した手が、死にゆく彼を蔑んだ口が、
今はただ、妹への優しいぬくもりを伝えている。
彼はもう、自分の妹を台無しにした男を知らない。
自分の妹が台無しにしてしまった男を知らない。
(引用:原作6巻)
いつの日か、こうあることができていたなら。
——ひょっとしたら、最初から。
イネスは、慣れ親しんだ絶望が自分を一瞬でも飲み込む前に、笑った。
これもまた、一度きりの人生だったから。
過去を飲み込むということ
「それでも、ありがとう」
「何がだ」
「ありがとう。ルシアーノ……」 (引用:原作6巻)
彼女はまるで喉に詰まらせないようにするかのように、
兄の名前をしっかりと噛み締めて飲み込んだ。
大丈夫よ、ルシアーノ。
今はもう——。
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※本記事の人名・地名は原作ベースの仮訳です。今後の公式翻訳により表記が変更される可能性があります。