この結婚はどうせうまくいかない 原作7巻終章-26あらすじ|彼は明日、帰ってくる【ネタバレ】

この結婚はどうせうまくいかない 原作7巻終章-26あらすじ|彼は明日、帰ってくる この結婚はどうせうまくいかない

🌹 本記事は、『この結婚はどうせうまくいかない』原作第7巻・終章をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分や必要な箇所では、原作の表現を引用する場合があります。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。
※地名・人名について:本作には現時点で原作小説の公式日本語翻訳版がないため、地名・人名などの固有名詞は原文をもとに当サイトで日本語表記しています。今後、公式日本語版で異なる表記が採用される可能性があります。

終章|風はかつて吹いていた場所へと帰っていく 26

約八か月ぶりに、カッセルと再会するイネスは、鏡の前でドレスに難癖をつけていた。

太ったのではないか。
顔まで大きくなったのではないか。
これでは夫に自分だと分かってもらえないのではないか。

生まれてこの方、気にも留めなかったことばかりを心配する主人を、フアナは微笑ましく見守っていた。

けれど、その騒ぎの奥には、カッセルにだけは知られたくないことがあった。

まるでベルグラーノ要塞みたい

「……これでは、私があまりにも大きく見えないかしら?」

鏡の前で、イネスは不満そうに自分の姿を眺めていた。

以前はもっとお腹が大きくなってほしいと願っていたはずなのに、今度はドレスに閉じ込められているようだという。

「まるでベルグラーノ要塞みたい。歩く要塞になった気分よ。不格好だわ」

フアナが懸命に否定しても、イネスは納得しない。

もっと胸元の開いたドレスはないかと尋ねたものの、それでは傷痕が見えてしまうと指摘され、しぶしぶ諦めた。

「……少しは食べるのを控えておけばよかったわ」

あれほど食べられなかった頃を知るフアナにとって、主人が旺盛な食欲を取り戻したことは、何より嬉しいことだった。

だが、イネスの悩みは尽きない。

「これじゃ、カッセルが私だと分からないんじゃないかしら?」

お腹だけでなく、顔まで丸くなった気がする。
夫と並んだ時、自分の顔の方が大きかったらどうしよう。

真剣に悩むイネスに、フアナは呆れた。

「このところ、妙なことばかりおっしゃいますね」

「私は至って真面目よ、フアナ。あなたの主人の黄金比が危機に瀕しているの……」

カッセル・エスカランテが引き起こした「症状」

フアナの目には、イネスは以前にも増して美しく映っていた。
顔は艶やかに輝き、ふっくらとした胸元も、大きく膨らんだお腹も、妊婦としてこの上なく美しい。

あれほど食べているのに、いったい栄養はどこへ消えているのだろうと思うほどだった。

つい昨日まで、イネスは鏡など気にも留めていなかった。
そもそも、生まれてこの方、自分の容姿についてこんなふうに悩んだことなどなかったのだ。

フアナには分かっていた。

これは、カッセル・エスカランテが引き起こした「症状」なのだ。

——約八か月ぶりに夫と再会する。

そのことが、普段なら決して気にしないような些細なことまで、イネスに心配させている。
もっとも、いざ旦那様に会えば、自分がどう見えるかなど忘れて、二人だけの世界に夢中になるに違いない。

そう考えたフアナは、金糸で月桂樹の葉を刺繍した白いドレスを選び、同じ模様の緑色のマントを重ねた。

「これをお召しになるのがよろしいでしょう」

いつの間にか決定権はフアナに移っていたが、イネスは鏡を見ることもなく、憂鬱そうに頷いた。

それさえ気づかれなければいいのよ

「どうせ遅くなるのなら、傷痕がもう少し薄くなってから帰ってくればいいのに……」

「これ以上お帰りが遅くなれば、ご自分から探しに行かれるくせに……。」

フアナが軽くたしなめる。

イネスはなおも、自分が少しは健康そうに見えるかと尋ねる。

フアナがどれほど美しいかを説明しても、本人は納得しなかった。

そこでフアナは、主人の頬を両手で包み、何度も口づけながら答えた。

「はいはい、とても健康そうに見えますよ、ミ・アモール」

「いつ毒を飲んだのかしら、と思うくらいでしょう?」

「ええ、もちろんですとも」

「あのとき苦しんだことなんて、少しも顔に出ていないわよね?」

「ええ、ええ」

「よかった……それさえ気づかれなければいいのよ」

イネスが本当に気にしていたのは、太ったことでも、ドレスが似合わないことでもなかった。

カッセルに再会した時、毒によって苦しんだ痕跡を見抜かれたくなかったのだ。

分からないなら、それでいいわ

入港式までの時間が、なかなか過ぎていかない。

イネスは窮屈なドレスを脱ぎ、庭へ出た。
テラスで眠っていたバスケスが、用心深く後をついてくる。

数日前に洗われた犬は、本来の白い毛並みを取り戻していた。
まだ痩せてはいるものの、驚くほど早く生気を取り戻しつつある。

イネスは時折その頭を撫でながら、海へ向かって緩やかに下る庭を歩いた。

水平線には、まだ船の旗一つ見えない。

胸の奥には焦りが渦巻いていたが、表情は穏やかだった。

「……アレハンドロ」

犬は反応しなかった。

「何でもないの。ただ、もしかしたらその名前に反応するかと思って」

小さく首をかしげる犬に、イネスは静かに告げた。

「分からないなら、それでいいわ。……バスケス」

今度は犬が近づき、手の甲に鼻先を擦り寄せた。

十分な食事を与えられるようになり、かつて乾いていた鼻も、今ではしっとりと潤っている。

彼は明日、帰ってくる

その仕草に触れた瞬間、遠い記憶が蘇った。

かつて、アレハンドロと一緒に海を眺めていた日々。
終わりの見えない苦しみの中にも、自分たちには少しずつ、幸せな思い出があったのかもしれない。

イネスがぼんやり歩いて石につまずきそうになると、
さりげなく前へ回り込み、守ってくれた犬。

カッセルが毎朝、彼女のために花を摘んでくれた低木の下で、
主人の帰りを待ち続けていた白い犬。

まるで、今日こそカッセルが帰ってくると信じているかのように。

「……ありがとう」

イネスはバスケスの背中をゆっくりと撫でた。

そして、もうしばらく海を見つめてから、静かにその場を後にした。

——彼は明日、帰ってくる。

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