この結婚はどうせうまくいかない 原作7巻終章-25あらすじ|あなたに、一度も与えてあげられなかった愛をあげる【ネタバレ】

この結婚はどうせうまくいかない 原作7巻終章-25あらすじ|あなたに、一度も与えてあげられなかった愛をあげる この結婚はどうせうまくいかない

🌹 本記事は、『この結婚はどうせうまくいかない』原作第7巻・終章をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分や必要な箇所では、原作の表現を引用する場合があります。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。
※地名・人名について:本作には現時点で原作小説の公式日本語翻訳版がないため、地名・人名などの固有名詞は原文をもとに当サイトで日本語表記しています。今後、公式日本語版で異なる表記が採用される可能性があります。

終章|風はかつて吹いていた場所へと帰っていく 25

カッセルの帰還を待ちながら、驚くほどよく食べ、子供のように浮かれるイネス。

そんな彼女の前に、痩せ細った一匹の野良犬が現れる。

その姿は、かつてカッセルが拾った初代アレハンドロとあまりにもよく似ていた。

犬をめぐって交わした言葉。
愛を同情だと思い込んだ自分。
そして、涙を流しながら彼女を手放したことを悔やんだカッセル。

過去の記憶をたどったイネスは、今度こそ自分の手で、かつて与えられなかった愛を与えようとする。

三人だもの

カッセルはもうすぐ帰ってくる。

そう信じて機嫌よく食事を続けるイネスを、ミゲルは呆然と眺めていた。
かつて一日かけてもリンゴを半分しか食べられなかった女性が、今では次々と皿を空にしている。

「……イネス、本当によく食べるね」

「三人だもの」

以前の姿を知るミゲルには、まるで別人のようだった。しかもイネスは、自分の皿だけでは飽き足らず、ミゲルの料理にまで手を伸ばしている。

この官邸では、カッセルの体格と運動量を基準にした大量の食事が、ミゲルにも出されていた。

一方、女主人の食欲に喜んだ料理人ヨランダは、イネスの食事量を少しずつ増やし、今ではミゲルに匹敵するほどになっていた。

それでもイネスは、人の皿から料理を取ることをやめない。

「じゃあ、僕の足りない分はどうなるんだ」

「全部、あなたの甥や姪が大きくなるための栄養になるのよ」

そう言われては、ミゲルも言い返せなかった。

君は子供みたいに浮かれているんだよ

「こんなに浮かれている君を見るのも初めてだけどね」

「浮かれているだなんて。子供みたいに聞こえるじゃない」

「そうだよ。君は子供みたいに浮かれているんだよ、イネス」

イネスは少し不満そうに唇を尖らせた。

窓の外には、まだ工事の跡が残る庭と、その向こうに広がる海が見える。
カッセルが帰るまでに庭まで整えたかったが、どうやら間に合いそうになかった。

本当は妊娠が分かるより前に隣家を手に入れ、夫を驚かせるつもりだったという。

ミゲルは、兄なら門扉一枚を贈られただけでも喜んだだろうと呆れた。

ましてイネスは、カッセルが尊敬するノリエガ大佐にまで芝居を打って、家を一軒手に入れたのである。

「カッセルにペラペラ喋ったりしたら承知しないわよ」

ミゲルは、黙っていても大佐本人が話すだろうと返し、困り果てた恩師の口調まで真似し始めた。
カッセルの生還が明らかになった途端、妻が二軒の官邸をつなぐ工事を始めてしまった、と。

「黙りなさい」
「……ミゲル。勘が良すぎるのは、紳士の美徳ではないのよ」

「いつだったか、男のくせに勘も働かないなら死んじまえって言ってたのに」

近頃のミゲルは、ずいぶん減らず口が達者になっていた。

イネスが再び彼を黙らせようとした、その時だった。

もう僕の垣根の中に入ってきたんだ

ミゲルが、窓の外を通り過ぎる犬に気づいた。

庭に迷い込んだらしい、痩せ細った野良犬だった。
骨が浮き出るほど痩せ、身体は汚れ、怯えた様子で庭師の顔色を窺いながら歩いている。

イネスは息をのんだ。
かつて、カッセルが拾った初代アレハンドロ。

痩せ衰えた野良犬が官邸の庭へ迷い込む——あの時と同じ出来事が、再び目の前で起きていた。

イネスは弾かれたように部屋を飛び出した。

その脳裏に、遠い日の記憶が蘇る。

あの日も、カッセルは痩せて汚れた野良犬を拾っていた。
イネスは、通りには同じような犬がいくらでもいるのだから、餌を与えたら追い出せばいいと告げた。

けれどカッセルは、すでに自分の垣根の中へ入ってきた犬だから、特別なのだと答えた。
その優しさを、当時のイネスは素直に受け入れられなかった。

私みたいに病んでいる

当時のイネスは、自分の身体が長くはもたないことを知っていた。

カッセルに同情されることが嫌だった。
野良犬を見る彼の目に、自分へ向けられるものと似た憐れみを感じることさえ耐え難かった。

ところが、彼がイネスのために犬を追い出そうとすると、今度は強い不安に襲われた。

——また自分が、彼の善良さを損なわせてしまうのではないか。

——いつか自分もあの犬のように、彼から捨てられるのではないか。

イネスは犬を自分と重ねていた。
病み、痩せ衰え、死を待つばかりの存在。

彼女は、ビビアナ・カスタニャールの葬儀のあとにカッセルが迎えに来たのも、そんな自分を見捨てられなかったからだと思い込んでいた。

だから彼に、病んだ犬も、自分のような名目上の妻も、手遅れになる前に手放すべきだと告げた。

けれど、本当に言いたかったことは違っていた。

——自分のように、じきに彼のそばから消えてしまうものを、これ以上増やしてほしくなかった。

彼の人生を、これ以上傷つけたくなかった。
それでもイネス自身は、死ぬ前にもう少しだけカッセルを見ていたいという願いを捨てられなかった。

彼の人生が惜しいと思うほど、自分の人生を憎んでいた。

そして、彼の愛を恐ろしいと言って拒んだ自分には、もはや同情しか残されていないのだと思っていた。

僕が君を愛していることが、恐ろしいと……

だが、カッセルにとって、もちろん同情などではなかった。
彼はかつて、愛されることを恐ろしいと言ったイネスを苦しめないため、自分の気持ちを必死に隠していた。

彼女が戻ってきてくれたことが嬉しかった。
そばに置いておけるだけで十分だった。
愛していると告げずに生きることさえ、受け入れるつもりだった。
それなのに今度は、守ろうとすることまで同情だと言われてしまった。

庭に立つイネスの肩へ、ミゲルがそっと手を置いた。

「……イネス、泣いているのか?」

イネスは首を振った。
けれど、記憶の中のカッセルの声は消えなかった。

垣根なんかじゃなく、城壁を築いてでも

あの日、カッセルは初めて、抑えてきた感情を露わにした。
イネスが自分を恐れているからこそ、彼女の望みを尊重し、愛情を隠してきた。

だが本心では、イネスの父や兄に反対されようとも、彼女を二度と手放したくなかったのだ。
垣根どころか城壁を築いてでも守り、自分が死ぬまでそばに置いておきたい。

それほどまでに、もう一度彼女を失うことを恐れていた。

イネスは、涙でいっぱいになった彼の青い瞳を覚えていた。

君を、あの時放すんじゃなかった

カッセルは、かつてイネスを手放したことを悔やんでいた。

——『君が、まるで……僕さえいなければ。君が恐ろしいと思う夫が目の前にさえいなければ、ようやく君の人生は完璧になれるとでもいうように話したから』

その言葉を信じて離れたのだ。

けれど再び出会ったイネスは、自分には何の価値もないから捨ててほしいと口にするほど、傷ついていた。

彼はその変化を、誰よりも自分の責任だと感じていた。
病や死については、最後まで口にしなかった。

それでも、自分の選択が彼女をこんな姿にしてしまったのだと責め、ついには涙を流した。

——『君を、あの時放すんじゃなかった。イネス』

あの時、彼女の言葉を信じるべきではなかった。
どれほど恐れられても、手放すべきではなかったのだと。

カッセルは、イネスを守れなかった自分を責め続けていた。

川の流れは、決して逆には流れない

けれど、イネスは知っていた。
自分をこんな姿にしたのも、二人の子供たちを奪ったのも、カッセルではない。

すべての始まりは、ある女の、取るに足らないほど小さな悪意だった。
神の壮大な意志などではなかった。

まして、カッセルのせいなどでは決してなかった。
ただ、イネス自身にも、少しは責任があったのかもしれない。

もし時間を幼い頃まで巻き戻し、あの女の悪意によって、再び同じ不幸に突き落とされたとしても、今度は、カッセルを傷つけずに済んだかもしれない。

彼が差し伸べてくれた手を拒まず、その胸に抱きしめられた時、素直に身を委ねることができたかもしれない。

彼が自分を恨まなかったように、自分も彼を恨まずにいられたかもしれない。
彼が正気を失わずに自分を守り続けてくれたように、自分もまた、彼を——。

だが、そんな仮定に何の意味があるというのだろう。
イネスは、腕の中からすり抜けていった最初の子供の亡骸を、今も覚えていた。

最後まで「リカルド」という名を与えることさえできなかった、愛しい我が子。
まるで自分の腕を一本切り離し、一人の人間にしたかのように、かけがえのない存在だった。

その子を失った幼い日のイネスは、少しずつ正気を失っていった。
生まれた時から父親に生き写しだったその子は、死んだあとも、カッセルの顔に重なり続けた。

隣で眠る夫を見つめようとするたび、花々に囲まれて横たわる我が子の姿が蘇る。
愛する夫の顔を見ることさえ、恐ろしくなってしまったのだ。

カッセルは何ひとつ悪くなかった。
それでも、イネスにはどうすることもできなかった。

二人の間に生じた歪みは、もはや元に戻せないほど深く、狂ってしまった歯車は、どうあっても噛み合わなくなっていた。

だから、カッセルが悔やんでいるように、あの時イネスを手放さなかったとしても。
たとえ彼の腕の中で、彼の目の前で、イネスが死んでいったとしても。

それで二人の何が変わったというのだろう。

川の流れは、決して逆には流れない。

けれど、それでも。

あの日、カッセルは犬を追い出さなかった。
イネスが、あの犬も自分も長くは生きられないと言った時、彼は犬がきっと元気になると答えた。

綺麗に洗い、たくさん食べさせ、愛情を注げば、
かつて人間を恐れていたことさえ忘れるほど幸せになるはずだと。

そして実際に、カッセルは毎日、犬の世話を続けた。
痩せ衰えた身体は少しずつ回復し、犬は変わっていった。
まるで、イネスが恐れている未来など決して訪れないと証明するように。

川がどちらへ流れようとも、カッセルは自分のいる場所で、できる限りのことを尽くした。
その姿を見ていたイネスは、彼の居場所を守りたいと思うようになった。

彼が自分を掴むのなら、もう離れなくていい。
残された時間を、何ものにも邪魔されず、ただ一緒に過ごしたかった。

アリシア・ヴァレンザへの恨みさえ、彼と過ごす時間を奪う理由にはしたくなかった。

自分が何によって死んでいくのかも、カッセルには知られたくなかった。

誰かを恨むことなく、ほんの少しだけ自分を悲しみ、やがてはあの犬を愛した時と同じように、彼らしく生きていってほしかったのだ。

バスケスはどうだい?

イネスは過去の記憶から目を離し、庭の隅へ逃げようとする犬を見つめた。

かつてのアレハンドロに、優しくしてやった記憶はなかった。
それでも、カッセルが庭で犬と遊ぶ姿を、密かに眺めることは好きだった。

だから、あの犬のことも少しは愛していたのだろう。
一度も伝えられなかったけれど……。

「……ミゲル。私、あの犬を引き取るわ」

「どこか具合が悪そうに見えるけれど……」

「きっと良くなるわ」

イネスは身をかがめ、怯えた犬へそっと手を差し伸べた。
犬はしばらくためらったあと、ゆっくりと近づき、乾いた鼻先を彼女の指に触れさせた。

そして、頭を手のひらに擦りつけた。
その姿に、いつかの夏の日の記憶が重なる。

かつてカッセルが名づけた、アレハンドロ。

彼が去ったあと、もう誰にもその名を呼んでもらえなかった犬。
カッセルのもとでしばらく幸せに暮らしたことは知っていても、イネスはその最期を知らなかった。

リカルドやイバナの、あまりにも明確だった最期とは違って。

「名前は何にしようかしら?」

イネスは、どうしても口にすることのできない、その名前を胸の奥へ閉じ込めたまま、静かにミゲルへ尋ねた。

「バスケスはどうだい?」

「大層で、素敵ね」

あなたに、一度も与えてあげられなかった愛をあげる

イネスは微笑みながら、犬の首を優しく撫でた。

今度は、違う名前を。違う人生を。
そして、かつて与えられなかった愛を。

あの日、カッセルがイネスのためにアレハンドロを幸せにしようとしたように、今度は彼女が、カッセルのためにその願いを引き継ごうとしていた。

自分たちが健やかに、長い時間をこの犬とともに生きていく。

イネスは今度こそ、その未来を自分の手で確かなものにしようと決めた。

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