📖 この手紙は、
「ロスバイン最後の七日間」を経た後に読むと、
まったく違う意味を持って響きます。
ロスバインで言えなかった言葉は、手紙になって戦場へ届きました。
そして今度は——
死の淵で、ついに言葉になりました。
※本記事では『バスティアン』原作196〜197話の内容および引用を含みます。
まだ知らない幸福
戦場の野戦病院で、オデットは手紙を受け取った。
「クラウヴィッツ提督が……手紙を残されていたそうでございます」
病院長は「遺書」と言いかけて、言葉を変えた。
オデットにはすぐに分かった。
たった一文字だけだったが、その筆跡を見間違えるはずがなかった。
しかし彼女は、封を切りませんでした。
海軍の戦闘は日が沈む前に終わると聞いていた。
だからもうすぐ、バスティアンが帰ってくる。
彼の顔を見て、彼の声で直接聞ける言葉を、
わざわざ手紙で確認したくはなかった。
オデットはまだ開けていない手紙を、スカートのポケットに入れた。
そのまま深呼吸して、オデットは新しいエプロンをつけ、病室に戻った。
沈む船の上で
夜が来た。
決着がつかないまま夜間戦に突入した北海で、
バスティアンの旗艦レイヴァエル号は魚雷と砲弾の集中攻撃を受け、
操舵装置を失った。
通信は途絶え、船体は傾き、炎が甲板を舐めていた。
敵将・シェアー提督の戦艦が、とどめを刺しに向かってきていた。
バスティアンが下した最後の決断は、乗組員を脱出させ、
沈む船ごとシェアー提督に突撃させることだった。
——自沈。
沈みゆく船を利用したその作戦は、全員を生かすための最後の賭けだった。
俺は今、君のもとへたどり着く道を知っている
だから、俺は必ず勝利するだろう
永遠の僕のオデットへ
夜の海の向こうで、デメル提督の艦隊から救援信号が上がった。
——もう一歩だけ進めば、君にたどり着ける。
バスティアンは、弾薬庫へ向かって走り出した。
破壊された甲板に散らばる戦死した部下たちの首にかかっている認識票を回収しながら、
それでも前へ進み続けた。
破壊された船体の残骸にぶつかり、
何度転んでも、バスティアンは止まりませんでした。
ある瞬間からは、肉体の苦痛すら消えていた。
ただ一つの名前だけが、彼を前へ進ませていた。
——オデット。
その名前が、バスティアンを立ち上がらせた。
その名前が、バスティアンを動かした。
その名前が、バスティアンに生きることを望ませた。
それでも死の恐怖が押し寄せてくるたびに、オデットを想った。
——「愛しています」
——「戻ってきてください」
その奇跡のような告白と、切実な嘆願を、バスティアンは何度も思い返していた。
——永遠の僕のオデットへ。
淀みなく書き綴った最初の挨拶が、炎の中に浮かび上がった。
何度でも、その名前を
破壊された甲板を全力で走りながら、
バスティアンは手紙に書いた言葉を反芻していた。
——オデット、オデット、オデット。
愛している、オデット。
君を愛している。
体力が尽きる瞬間が来るたびに、ただその名前を繰り返した。
初めて会った瞬間から、今に至るまで、
一瞬たりとも君を愛さなかったことはない。君を憎み、恨んでいた時期でさえ、結局僕は君を愛していた。
それなのに、僕は長い間嘘をついてきた。君を否定するために。
君を傷つけるために。
君を守るために。
限界を感じるたびに、
それでも神に祈るように心の中で繰り返した。
いつももっともらしい名分を掲げていたが、結局真実は一つだった。
——僕は愚かで、未熟だった。
生まれて初めて感じる不慣れな感情が怖くて、混乱し、ただ逃げるばかりだった。
すまない、オデット。そしてありがとう。
君の愛が僕を救った。
僕は生きたい
砲弾が爆発して走れなくなると、這った。
そして再び立ち上がり、走った。
破れた軍服が血に染まり、
全身が砕け散るような痛みに襲われても、止まらなかった。
過ぎた時間への悔恨も、愚かだった自分も、
今度こそすべて背負ったまま生きていこうと決めた。
恋人として。友人として。家族として。
愛だけでオデットの元へ帰るために。
手紙に込めて送った約束が、バスティアンを何度も立ち上がらせた。
全身が砕け散るような痛みが意識を朦朧とさせるたびに、考えに考えた。——「僕は生きたい」
——「……僕は君と一緒に生きてゆきたい」
「提督!提督!」
救助艇で待機している乗組員たちの声が、かすかに聞こえてきました。
どうか君の世界を愛し、美しく生きてくれ

バスティアンは、泣くように笑い、それでも前へ進み続けた。
そして初めて、オデットの未来を願った。
「そうやって、僕は君の世界に残るだろう。
だからオデット、どうか君の世界を愛し、美しく生きてくれることを、あえて願う。それが、我々の愛が永遠に続く道だと、僕は信じているから」
沈みゆく海の中で
「これで、すべて終わった」
デメル提督の艦隊が到着したことを確認したバスティアンは、
最後の救助艇が待機している場所とは反対方向へ走り出した。
すでに五分は過ぎていた。
だとすれば、残された道は一つだけだった。
壊れた甲板を駆け抜けたバスティアンは、そのまま黒い海へ飛び込んだ。
黒い水面の下で目を閉じたバスティアンは、
オデットへ宛てた手紙を心の中で繰り返した。
——愛する僕のオデット、僕の人生は憎悪と苦痛で築き上げられた廃墟だった。
僕はただ壊し、傷つけるために生きてきた。——だが、僕は今、愛を知っている。
僕のもとに来てくれた君がくれた贈り物だった。
おかげで僕は、守るために生きることができた。——君は、死神の刃のように生きてきた僕が、初めて守り抜いた存在だった。
君のおかげで、この世界は美しかった。「大切な僕のオデット、君を愛することができてよかった」
書ききれなかった多くの言葉は、君をこの腕に抱いて伝えよう。
しかし、万が一、僕のこの両腕が君を抱きしめることができない日が来たとしても、
この一言だけは覚えていてほしい。「君を愛していた。それが、僕の人生だった」
——永遠の愛を込めて
バスティアン
🌹ロスバインから続けて読む方へ
📖 ロスバイン最後の七日間⑩|分かれ道
📖 オデットがバスティアンへ送った手紙
→ 遅すぎた告白——観覧車と、あなたのオデット
📖 二人の最終結末はこちら
→ バスティアン結末
🌹 なぜ二人はここまで傷つけ合い、それでも終わらなかったのか
→ なぜ“泥の中の愛”は美しく見えるのか
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