🌹 本記事は『バスティアン』原作92話をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分は原作の表現を引用しています。
列車がローザンヌに到着した。
バスティアンとオデットは腕を組んで降り立ち、
満面の笑みで群衆に向き合った。
裏切りが発覚した一夜が明けた後の朝、
二人は完璧な夫婦の姿を見せた。
プラットフォームの夫婦
ローザンヌ中央駅のプラットフォームは、
海軍将校たちを見物するために集まった人混みで賑わっていた。
親しげに腕を組んだ二人は、満面に笑みを浮かべたまま歓迎の人波と向き合った。
帽子を脱いだバスティアンが会釈をすると、
悲鳴に近いほどの歓声が上がった。
オデットは愛情と誇らしさが滲み出る眼差しで、
そんな夫を見つめていた。
滑らかな笑みを浮かべたバスティアンは、取材陣の要請通りに体を向けた。
見せつけるように妻の腰を抱く身振りからは、誇示的な所有欲が滲み出ていた。
まさか、裏切られたという事実を知っていても、
それを葬ることにしたのだろうか。
フランツは混乱に囚われた眼差しで母を見た。
黙って二人を見守っているテオドラの眼差しからも、
隠しきれない当惑が滲み出ていた。
フランツが喉を鳴らした瞬間、フラッシュが焚かれた。
その光の中で、オデットは宝石のように輝く瞳でバスティアンを見つめ返していた。
オデットが笑った。この上なく幸せそうに。
夫を愛する妻のように。
ニコライ皇子の報告書
儀典用の車がローザンヌの軍港へと続く大通りに入っていた。
ニコライ皇子は手に持った書類を見下ろした。
クラウヴィッツ大尉夫妻の最初の出会いから結婚後までの経歴をまとめた報告書だった。
婚約者の不貞を疑い、
他人の恋愛事情を探っている自分の姿に、並々ならぬ自己嫌悪に陥ったが、
国婚に備えるためには避けられないことだった。
調べたところ、バスティアン・クラウヴィッツは一貫して皇女に無関心だった。
骨董屋の孫ごときにそんな冷遇を受けても、
想いを諦められなかったイザベラが哀れなほどだった。
皇女さえも拒むほど生意気な男が、没落貴族の娘と結婚したという事実は、
だからこそよりいっそう怪しく見えた。
しかし今なら、ニコライ皇子はその選択を理解できた。
昨日開かれた特別昇進式で紹介されたバスティアン・クラウヴィッツの妻が与えてくれた答えのおかげだった。
写真よりもはるかに美しい女だった。
厚い書類は結局、その一文に要約されていた。
一目で惚れて結婚に踏み切った男は、今も妻を熱烈に愛している。
「破棄するように」
役目を終えた報告書を随行員に渡したニコライ皇子は、悠々と身なりを整えた。
いずれにせよ、バスティアン・クラウヴィッツの結婚でうまく収拾がついたではないか。
国婚は予定通りに進行されるだろう。
観閲艦に乗船したニコライ皇子は、
上座に座っているオデットへそっと目を向けた。
たった一晩で青ざめてしおれてしまった顔は、まるで病人のようだった。
その突然の変化に戸惑って眉をひそめた瞬間、彼女が視線を上げた。
ぼんやりした顔をしていたオデットは、間もなくそれらしい微笑みを浮かべた。
焦点を戻した瞳は、昨日と変わらず澄んだ輝きを放っていた。
短い目礼を残し、ニコライ皇子はそのままオデットの傍を通り過ぎた。
目が赤かったようにも見えたが、もはや関心を向けるほどの事案ではなかった。
バスティアン・クラウヴィッツの妻は、今日も目がくらむほど美しかった。
脳裏に残った記憶は、ただそれだけだった。
先鋒艦の船首で
バスティアンは手袋のボタンを留め、観艦式に臨む準備を終えた。
艦橋の階段を降りると、官舎での生活について相談に乗ってもらった先輩将校が嬉しそうに近づいてきた。
少佐の階級章をちらりと見ていた彼は、
間もなく気のない笑みを浮かべた。
「ところで、告白は成功したのか?一緒に行くんだろ?」
「予定通りに赴任することになります」
「まさか一人で発つってことか?」
「はい。そう決めました」
驚いて聞き返す彼と向き合っても、バスティアンは平然と頷いた。
甲板は、真昼になりさらに熱くなった日差しが戦艦を熱くしていた。
バスティアンは甲板の手すりにもたれかかり、遠い海を眺めた。
海軍省前の噴水台に座って自分を待つオデットを見た日の記憶が、
きらめく水面の輝きの上に浮かび上がった。
もしかしたらあの日からだったのかもしれない。
あの女との関係に契約以上の意味を与えるようになった、敗北の始まりは。
—— 再びあの季節を生きるなら。
無意味な仮定をしてみたバスティアンの口元に、自嘲が浮かんだ。
すでに起きてしまったことを振り返って考えても意味はなかった。
やり直せないなら、今の最善を探すのが正しかった。
「これ以上、何ものにも僕は揺らがない。」
もう一度決意を固めた瞬間、
艦長の乗船を知らせる声が聞こえてきた。
バスティアンは割り当てられた場所へと向かった。
先鋒艦の船首。
事実上、海軍艦隊の最上席と言える位置だった。
これはただの戦功だけで得られる特権ではなかった。
バスティアンは、皇帝の飼い犬になった代償として与えられた場所に立ち、海に向き合った。
莫大な損害を被ったが、それでもまだ得られる利益の方が大きい取引だった。
この結婚を続けるべき理由は、それだけで十分だろう。
艦長の乗船が終わり、出航を知らせる汽笛が長く鳴り響いた。
バスティアンは、将校帽の陰に隠れた目で水平線を見つめた。
海の神が守護する、完璧な祭りの日だった。
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