🌹 原作小説『この結婚はどうせうまくいかない』第3巻9章を高解像度あらすじ形式で構成しています。
本記事は、管理人ロゼの個人的な視点による考察を含みます。
本文中の会話・台詞は、原作の表現を適宜引用しています。
約20秒の、奇妙な三角形
イネスだけを食い殺さんばかりに睨んでいたカッセルが、視線をすっと動かした。
イグレシアスを見る目は、踏み殺さんばかりの勢いに近かった。
あらすじ|火種はどこにでもある⑩
テラスに現れたカッセルは、イグレシアス少尉を「男色家のクソ野郎」と罵り、官職と名前を吐かせた。
イネスの肩にかかったコートを引ったくり、名札を確認し、そのまま欄干の外——立ち入り禁止の森の底へ投げ捨てる。
イネスが宥めれば宥めるほど、事態は悪化していく。
やがて彼女が夫の喉仏を撫でると、獰猛だった目がわずかに大人しくなった。
イグレシアスは悟った。
ここは、誰も割り込める場所ではないと。
名札は冷静に確認した
「この、くそったれな男色家のクソ野郎が」
「胸糞悪い野郎だ。官職と名前を言え」
イネスの前を遮るように立ちはだかったカッセルは、彼女の肩にかかった制服コートを引ったくった。
肩章、第2歩兵連隊の徽章、「J. Iglesias」と刺繍された名札——行動は少しも冷静に見えなかったが、記憶すべきことは全て網羅していた。
そして彼は、爽やかに笑った。
前後の状況と全く噛み合っていないという点で、狂っているように見える笑顔だった。
「聞くまでもなかったな。第2歩兵連隊、イグレシアス少尉」
犬のように走っていって拾って着ろ
「カッセル。少尉が怯えているじゃないの」
イネスが肩を掴んで宥めた。
その言葉が、まるで「もっと痛めつけて」と聞こえたかのように——カッセルはコートをテラスの欄干の外へ投げ捨てた。
大宴会場は1階だが、テラスは半階分高く、その外の地帯はさらに3、4階分低い。
夜の闇にいっそう遠く見える森の底へ、コートは消えていった。
司令部内でも立ち入り禁止の区域だった。
「早く犬のように走っていって拾って着ろ。俺の妻が心配しているじゃないか」
「貴様がもしや可哀想にも、この素晴らしい天気に風邪でもひきはしないかと」
回収こそが問題だった。
しかしイグレシアスにとって、失踪した制服より我が身の安全のほうが大切だった。
人形師と、狼
「私はただ、貴方があまりにも端正な顔立ちをしているから、そういうこともあるかもしれないと思っただけよ、カッセル」
イネスは宥めるように、カッセルの逞しい肩をそっと包み込んだ。
「こんなふうに体も完璧に彫刻のようで、目に見えるすべてが素晴らしいから。同じ男であっても、ひょっとするとそんな心を抱くこともあるかもしれないと。理解できるでしょう、ね、少尉?」
「もちろんです。大尉殿は完璧そのものでいらっしゃるため——」
「そんな答えが、今のこの状況で役に立つとでも思っているのか? マリカ・イグレシアス」
——ついに「マリカ(=おかま野郎)」まで飛び出した。
完全に逆効果だった。
「あの、ホセですが……」
「だから、いつまで経っても掃いて捨てるほどいるホセなんだ」
「失礼よ、カッセル」
「すまない、マリカ」
イネスの意見を、半分だけ反映した謝罪だった。
イネスが夫の肩を押さえると、
イグレシアスを投げ飛ばさんばかりに脈打っていた筋肉が不自然に固まった。
自分よりさらに大きな男を、背後から小柄な妻が操っている。
イグレシアスには、それがまるで人形師と人形のように見えた。
やがてイネスの手がしなやかに伸び、カッセルの喉仏を撫でる。
獰猛だった目が、わずかに大人しくなった。
——人形というより、狼を犬のように手懐けているようにも見える。
どちらにせよ、誰も割り込めるような間柄ではないことだけは明白だった。
最初から、問題は妻だった
「今回の件の謝罪と感謝の挨拶は、また今度——」
「——誰が何を謝罪するんだ」
「貴方じゃなくて私がよ。少尉を困らせてしまったのだから」
イネスはカッセルの顎を撫でながら、イグレシアスへ爽やかに微笑んだ。
その一言で、カッセルの敵意は再び原点へ戻った。
そもそも、男色云々など問題ですらなかった。
最初から、すべての問題は自分の妻だったのだ。
「本当にごめんなさい。今度ぜひ、同期の方々とご招待を——」
「二度と俺の妻に会うことはないだろうから失せろ、マリカ少尉」
「ホセ・イグレシアス少尉よ」
「ホセ・マリカ・イグレシアス。覚えておこう」
イネスの礼儀正しい訂正は、あまり役に立たなかった。
イグレシアスは素早く敬礼し、テラスを後にする。
彼を逃げ出させたのは、カッセルの罵倒だけではなかった。
イネスの指先が上官の喉仏を撫でた瞬間——その目に走ったものを、同じ男であるイグレシアスは見逃さなかった。
ほんの一瞬で、カッセルの欲情に火がついた。
閉まるカーテンの向こうでは、男が僅かばかりの忍耐さえ失って、女に襲いかかっていた。
イグレシアスは慌ててカーテンをしっかり閉め、さらに扉まで懸命に閉じた。
そして、なぜか自分まで真っ赤になって逃げ出した。
▶ 次の話(続き)【第9章|火種はどこにでもある】
→第9章⑪|僕だけを気にかけてくれ
📖 今回のエピソード対象範囲
| プラットフォーム | 対象話数 |
| ピッコマ・LINE漫画・COMICO | 第46話相当 |
| めちゃコミ | 第47話相当(推定) |