🌹 本記事は『バスティアン』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。会話部分は原作の表現を引用しています。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。
祭壇は、崩された。
血を流す場所を失った怒りが、
ついにバスティアンへと向かって噴き出す。
あなたのせいよ
「あなたのせいよ!」
悲鳴のような叫びが、波の音をかき消した。
駆けつけた使用人たちを目配せで下がらせ、バスティアンはオデットと向き合う。
——遂に、君は壊れるのだろう。
バスティアンは、あれほど待ち望んでいた瞬間が来たことを予感した。
彼が探し求めていたものも、永遠に消えてしまうことを。
「子どももマルグレーテも、全部あなたが殺したんだわ!」
必死に飲み込んできた恨みが、膿のように噴き出す。
こんな底辺まで落ちたくなかった。
だから、止めてほしかった。
懇願するような目に、バスティアンは冷淡な沈黙で応えた。
なぜ陛下の命令に従わなかったの。
なぜ私を騙したの。
フェリアに放っておけばよかったじゃない——無意味になった「もしも」を絶叫しながら、オデットは彼を叩き続けた。
お腹の子が好きだったリンゴを、
マルグレーテと分け合って食べた穏やかな夕方の記憶が鮮明に蘇ってきた。
必死に泣き声をこらえ、オデットは子どもが消えたお腹を静かに見つめた。
マルグレーテのいない世界を眺めた。
「いっそ最後まで騙していてくれればよかったのに!」
その瞬間、彼女は初めて悟った。
マルグレーテが戻るという信念の裏に隠していた、卑しい本心を。
哀れな愚か者のふりをしてでも、この場所に留まっていたかったのだと。
そんな自分が嫌いで、それを気づかせた男が、憎かった。
風が止んだ海
一方的な乱闘は、オデットが気を失うようにして幕を閉じた。
崩れ落ちる体を抱き寄せ、バスティアンは静かに背中を撫でた。
号泣したいのに涙が出ない。
満ちた涙に溺れて窒息していくような——彼もまた、そう見えた。
震える手で頬に触れると、風が止んだ海のような眼差しが、わずかに揺れた。
固く沈黙する唇と、動く喉仏。
それだけで、オデットにはわかった。
自分がこの男を傷つけたこと。
そして、与えた傷を、そっくり返されたこと。
この先の日々が思い描かれた。
互いを傷つけ、傷ついた互いを耐え忍ぶ。
壊れた感情の残骸という牢獄に、閉じ込められた囚人のように。
——「あなたを見ると、苦しいわ」
最も真実の告白が、夜明けの静寂に染みた。
「分かっている」
——「あなたもそう見えるわ」
「そうだね」
苦痛に満ちた答えを口にする瞬間も、彼はオデットを離せなかった。
彼をこれ以上見ていられなくなったオデットは、目を閉じた。
この地獄の中の、唯一の逃避場所だった。
ゴミと一緒に
「ご主人様も本当にひどいですね」
使用人休憩室で、いつもバスティアンの味方だった料理人までが、首を振った。
庭師が森で見つけた犬は、まさにマルグレーテだったのだ。
手遅れの真実より衝撃だったのは、バスティアンの対処だ。
すべてを知りながら、妻を騙すために沈黙した。
死骸を片付ける指示さえ出さず——そのせいで庭師は、奥様が我が子のように愛した犬を、ゴミと一緒に燃やしてしまった。
屋敷の全員にとって、傷となった出来事だった。
ドーラも今回ばかりは、主人をかばえなかった。
仮の墓と、涼やかな理性
オデットは今日も窓際の椅子から、裏庭を見下ろしていた。
死骸を焼いた場所の土で作った、仮の墓。
骨一つ残らなくても、せめて形式的な葬儀をしたかったのだ。
拷問に近い希望に苦しむよりは、ましだった。
もう二度と、幻影を追うことはない。
だが、鉢植えの植物のようだった以前とは、何かが違っていた。
落ち着いた態度だった。
あの夜までとは違う眼差しだった。
海から戻った夜明け以降の変化だった。
——どうやらこの関係の鍵を握るのは、オデットのようだった。
差し出された手紙
今回が、最後の機会だ。
トリエ伯爵夫人の定めた日付まで、あと十日。
バスティアンが自ら賢明な決定を下すことを願って先延ばしにしてきたが、もう諦める時だった。
彼は決して妻を手放さない。
オデットが枯れ、彼自身の人生が崩れても、意地でも掴んで、共に墜落していくだろう。
ならば、残された希望はオデットだけ。
「お受け取りください」
数日ポケットに温めた手紙を、ドーラは差し出した。
張りつめた沈黙の中で封が開かれ、黄昏時になってようやくオデットは顔を上げた。
戸惑いながらも、予想よりはるかに毅然とした眼差しで。
「もう十分に苦労されました。今度は、ただ奥様だけのための選択をなさってください」
潤んだ目が、ドーラを見つめた。
言葉はなくとも、答えを推測するのは難しくなかった。
「奥様のお気持ちに従います」
頭を下げ、寝室を去る瞬間まで、オデットの沈黙は破られなかった。