🌹 本記事は『バスティアン』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。会話部分は原作の表現を引用しています。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。
押し寄せる欲望に屈しながら、バスティアンが最後に守ろうとしたのは、
せめて卑劣な底辺をさらけ出したまま別れないことだった。
——君は憐憫に目がくらみ、俺はそんな君に目がくらむ。
オデットの口づけを「憐憫」だと決めつけて身を引く男と、
その拒絶を「やはり私は哀れまれていただけ」と受け取る女。
互いを想いながら、互いの真意だけを見誤っていく。
残された最後の一日を前に、二人は同じ夜から、まるで違う結論へ辿り着く。
波立つ水面
オデットのキスは、穏やかな水面が波立つように続いた。
そっと唇を触れ合わせ、ため息をつき、また静かに重ねてくる。
肩を掴んだまま目を閉じたバスティアンの、研ぎ澄まされた神経のすべてが、彼女へと向かう。
肺腑まで染み渡る甘い匂い、唇から流れ込む温かい息、触れ合った胸から伝わる激しい鼓動——幻想と片付けるには、あまりに生々しい感覚だった。
——指先だけで振り払えるはずの女に、なすすべもなく囚われている。
「バスティアン」
名を囁いて頬を包む、か弱い力に、抵抗できなかった。諦めて目を開けると、赤く火照った頬と熱に浮かされた瞳が、暗闇の中でもはっきり輝いていた。
しばらく見下ろしていたオデットが、再び唇を降ろす。
もう、一瞬の衝動から始まった過ちだとは思えないようだった。
バスティアンは、ついに急流のように押し寄せる欲望に屈した。
熱い力を込めてオデットを抱きしめ、今度は彼の方から、飲み込むように唇を重ねる。
突然激しさを増した口づけに戸惑いながらも、オデットは逃げなかった。
どうしていいか分からないまま、それでも彼に応えようとする。
ぎこちなくすがりつくその仕草が、バスティアンをさらに深い欲望へと引きずり込んでいった。
何度も激しく唇を重ねるうちに、二人の位置が入れ替わる。
オデットがかろうじて守っていた最後の一線さえ、もうそこには残っていなかった。
額から頬へ、顎へ、そして再び唇へ。
触れる場所を確かめる余裕さえ失ったように、バスティアンの口づけは止まらない。
熱を帯びた手もまた、衣服越しに彼女の身体を求めていく。
乱れた息遣いと、オデットのかすかな声だけが、静まり返った夏の夜に響いた。
幻滅の果て
理性を取り戻したのは、乱れたオデットの上に馬乗りになった後だった。
下着を引きずり下ろしていた手を止めたバスティアンは、激しい息遣いを荒げながら身を起こした。
月明かりを背にした影が、彼女の上に落ちる。
激しい愛撫の痕跡が残る胸、赤く濡れた唇。
焦点の定まらない青緑色の瞳が、ぼんやりと瞬いて彼を見ていた。
何が起こったのか、まだきちんと理解していないような、澄んだ顔で。
顔を拭うように体をひねり、マットレスの端に腰掛けると、悪態交じりの乾いた笑いがこぼれた。
——おそらく、昨晩の影響だろう。
悪夢にうなされる姿が哀れで。たったそれだけで心が弱くなってしまうオデットが、おかしくもあり、哀れでもあった。知らないふりをして施しを受けようとした自分もまた、同じだった。
——常にこれほど簡単に弱みを握らせ、自分の底辺を見させる女だった。
狂おしい欲望と同じだけ濃くなった嫌悪の中で、視線を落とす。
振り返れば、まだその場に留まるオデットの白い肩と脚が、月明かりにかすかに光っていた。
——君は憐憫に目がくらみ、俺はそんな君に目がくらむ。
この上なく卑しく哀れな愛を、バスティアンは自嘲した。
守りたかった最後の砦
バスティアンは立ち上がり、静かに佇んでいるオデットを布団で包み込み、ガバッと抱え上げてベッドに降ろした。
「……バスティアン」
震える手が、去ろうとする袖の端を掴んだ。
もしかすると、この女には聖女の真似事をすることで、恩恵を施したという慰めが必要なのかもしれない。
足枷のような父を黙って扶養し、利己的な異母妹に盲目的に献身したように。
母を失った野良犬を引き取り、望んでいなかった子供さえ大切に抱いてくれたように。
まるでそうして、今度は僕を——。
「夜も更けましたよ、姉さん」
落ち着いて手を振り払う。
もう一度ろくでなしになっても変わらないと分かっている。だが、せめて最後まで卑劣な底辺をさらけ出したまま別れたくはなかった。
それはオデットとは関係のない決断だった。
彼が守りたい、最後の砦だった。
「おやすみなさい、マリー・ヴェラーさん」
扉を激しく閉める音と、廊下を歩く足音が、夜の静寂を揺らした。
煙の中で
来客用寝室で、苛立った手つきでタバコに火をつける。
壁にもたれて煙を吸い込んでも、無駄だった。
欲望の痕跡は、まだ消えずにはち切れんばかりに残っていた。
——惑わす魔女のように献身した聖女の記憶は、なかなか薄れない。
結局、どうしたって、どうすることもできない情欲の前に屈した。
ひどい自己嫌悪。
だが苦痛に近くなった欲望は、すでに理性の統制を外れていた。
タバコを握る手の甲に血管が浮き、荒い息遣いと古い床板のきしむ音が、水の中のような静けさを乱した。
頭上から差し込む月明かりを見つめながら、バスティアンは幻滅の果てを追い求めた。
——あと一日後に迫った決別が、むしろ幸いだと思えるようになった頃。
抑えつけられた呻き声が漏れ出た。
やがて訪れた静寂には、みだらな欲望の匂いと、惨めな痕跡だけが残った。
大まかに身を取り繕い、再びタバコをくわえて目を閉じる。
煙をきちんと吸い込めるようになるまでには、もう少し時間がかかりそうだった。
すれ違う結論
青白い夜明けの光の中で、オデットは目を覚ました。
一晩中寝返りを打ち、わずかに仮眠をとっただけだったが、疲労感はなかった。
じっと天井を見つめていると、バスティアンが起きる気配が聞こえてきた。
運動に出る音が聞こえて、ようやくひと安心する。
きちんと畳まれた小花柄の布団を見ると、また頬が赤くなった。
「馬鹿なことをした」
布団で包んだオデットを置いて去ったバスティアンは、夜が更けてから戻り、自分の場所で眠りについた。
何もなかったかのような態度が、もう一度、明確な答えを伝えていた。
憎んで踏みにじり、哀れで世話をしてやった女。
あの頃の私も、結局はその程度の意味だったのだと。
惨めで耐え難かったが、オデットは淡々と受け入れた。
そして、理解した。
——異母弟と継母が犯した罪悪に呵責を感じ、憎んでいた女を哀れむようになったのだろう。
婚約を無効にした決断も納得できた。
崖っぷちの女の背を押せるほど、冷酷で残忍な男ではないから。
責務で贖罪しようとして結局、破局に至り、その罪悪感が足枷となって彼を縛っている。
だから再び訪ねてきた。
新たな始まりが鎖を解く鍵になると信じて。
かつての自分がそうであったように。
——だが、結局はお互いが、お互いを閉じ込める足枷だった。
バスティアンも、もうその事実に気づいたのだから、
ロスバインで共に過ごした時間は無駄ではなかった。
向こう見ずだった自分の行動が、だからこそ一層恥ずかしい。
それでも彼の真意を推し量れたのだから、後悔はなかった。
それで十分だった。
厚かましく、最後の一日を
明日には永遠に別れる男。一時の感情に流されて後悔したくない。
ならば、いっそさらに厚かましく振る舞うつもりだった。
品位も体面も、もう守る道は遠ざかっているのだから。
「では、最後の丸一日をどう過ごすべきだろうか?」
そう考えながら朝食を準備している間に、バスティアンが戻ってきた。
裏庭のフェンスを越えて、ポンプの水で顔を洗う。
窓越しに見つめていると——避ける間もなく、視線が絡んだ。
暑さに似合わないハイネックのブラウスが、ふと恥ずかしくなった。
一人残されて湿った下着を着替えた屈辱的な夜の記憶が、陽光のようにまばゆい男の顔の上を通り過ぎた。
今さら過去の意味を知ったところで無意味だった。
たとえ同情心や罪悪感以上の感情があったとしても、何も変わらない。
なのに、この心は一体どこへ向かっているのだろう?
息苦しさが耐えがたくなった瞬間、バスティアンが一歩踏み出した。
慌てて身を翻したその時——天国の音楽のようなチャイムが鳴った。
預かった子どもたち
村の教師の妻だった。
委員会の行事で町まで行かねばならず、手伝いを頼んだ夫人がインフルエンザで倒れたという。三時までには戻るので、子どもたちを少しの間預かってほしい、と。
「もし、お従兄様がご不快に思われるようでしたら、断ってくださっても……」
「とんでもない」
ためらうオデットの背後から、低く柔らかな声。
いつの間にか玄関に出ていたバスティアンだった。
「自転車をお貸しいただいた恩に報いる機会ができたなら、私にとっては大きな喜びです」
「私も、兄と同じ考えです」
気まずさの中で互いを耐え忍ぶより、この方がましだろうから。
二時間後に子どもたちを連れてくるという約束を残して、教師の妻は去っていった。
台所に戻り、ついてくる視線を慎重に無視しながら、オデットは食事の支度を再開した。
——朝食をしっかり食べなければ。
まずは、それだけを考えることにした。
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※本記事は作品内容の分析・評論を目的としたものであり、原作の翻訳全文を掲載するものではありません。