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🌹 本記事は『泣いてみろ、乞うてもいい』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。会話部分は原作の表現を引用しています。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。
完璧なパーティーの夜
「お久しぶりです、ブラント令嬢。」
機会を窺っていた若い淑女たちが、クロディーヌを取り囲んだ。
以前、ヘルハルト家のパーティーで会ったことを覚えているかと尋ねる彼女たちを、クロディーヌは優しく遮った。
「まさか。もちろん覚えていますわ、エッシャー令嬢。それから、ダイアンさんも。」
名を呼ばれた姉妹は頬を赤らめ、憧れと敬愛の言葉を浴びせながら、間もなく訪れる結婚式への期待を口にした。
クロディーヌは、その陳腐な話をこの世で最も興味深いもののように聞いてやった。
——長年の教育で身についた習慣だった。相手の名と家を素早く覚えることも、またそうだ。
パーティーの間、同じことが何度も繰り返された。
ブラント令嬢と親交を深めようとする貴婦人や淑女たち。
お決まりの会話と笑い声。華やかな旋律と、瑞々しい花の香り。
——完璧なパーティーの夜だった。
皇太子妃との談笑を終えたクロディーヌが休憩室へ戻ると、母であるブラント伯爵夫人が満面の笑みで近づいてきた。
「ヘルハルト家の公爵夫人たちが出席していないのだから、今日はあなたがこの帝国の社交界の女王ね、クロディーヌ。」
「お母様。」
窘められても、伯爵夫人の自負は揺るがなかった。
家の権勢を築くのが男たちなら、それに見合う品位と名声を築くのは奥方の役目だ。
ヘルハルト家が帝国最上位の名門であり続けてきた背景にも、代々「社交界の女王」として家を支えてきた公爵夫人たちの存在があった。
そして今、その座を継ぐのがクロディーヌだった。
宴会場へ戻ると、主催者の男爵夫人も彼女を「未来の公爵夫人」として歓迎した。
——マティアスとの結婚式は、間もなくクロディーヌ・フォン・ヘルハルト公爵夫人の戴冠式となるだろう。
その日を準備するかのように、クロディーヌは優雅で威厳ある態度を崩さなかった。
温室を出たら、しぼんでしまう花
「いいえ。」
——あの晴れ渡った午後。リエットの手を振り払いながら、クロディーヌは断固として答えた。
止まることなく流れる涙が顔を濡らしても、毅然とした姿勢と冷たい顔色は微塵も乱れていなかった。
「私たちは、私たちが属するこの世界から外れては生きることのできない人間です。お兄様もよく知っているでしょう。」
その言葉を吐いた瞬間、クロディーヌは虚脱したように笑っていた。
リエットの愛は、真実だった。誰よりもクロディーヌが、それを最もよく知っていた。
だからいっそう、その手を取ることができなかった。
その真実の愛が萎れていくのを、到底耐えられないだろうから。
この精巧で華やかな偽りで造り上げられた美しい世界の中で、クロディーヌは生まれ育った。その世界がまさにクロディーヌの人生であり、クロディーヌはその世界を愛していた。
リエットも、違わなかった。
だから結局、この温室を出たらしぼんでしまう花である私たちが、ただ互いを愛する心一つに狂って、この人生を投げ出すことができるだろうか。
既に知っている答えを反芻すると、煩悶は胸の奥底へ沈み込んでいった。
そこに残された幻滅と憎悪を隠すように、クロディーヌは一層華やかに微笑んだ。
その瞬間も、心の中ではレイラを殺していた。
誰よりも完璧なこの世界の人間、マティアス・フォン・ヘルハルト公爵が自分の場所へ戻って来られるように。
俺はどうなっても構わないが
レイラは、マスタースイートのドアが固く閉まる音に、ようやくまともな息を吐いた。
公爵邸に入った瞬間から震えていた足から力が抜け、危うく床に座り込むところだった。
公爵が支えてくれなかったら、間違いなくそうなっていた。
「笑わないでください。」
クスクスと笑う公爵を、レイラは鋭く睨みつけた。
「笑えますか?こんなとんでもないことをしておいて?」
今や、声まで細く震えている。
そんなレイラをソファに座らせ、マティアスは悠然と窓の前へ歩いた。
カーテンを開けて窓を開けると、ひんやりとした風が吹き込む。
現実感を取り戻したレイラは、恐れと好奇心の入り混じった目で周囲を見渡し始めた。
公爵の部屋もやはり、広く高く豪華だった。
どこに目をやっても頭の中が混乱して、息が詰まる。
自分を連れて行く場所がこの邸宅だとは、想像すらしていなかった。
ロビーに入る瞬間まで、レイラはまさかと思っていた。
——どうして。狂ってもいないのに。
しかし確かに狂っているに違いない公爵は、とうとうレイラを導いてこの邸宅へ入った。
「そんなにわめいたら、驚いた使用人が駆けつけてくるんじゃないか?」
屠殺場へ引かれる獣のようにもがくレイラに、公爵はにこやかに言った。
「俺はどうなっても構わないが。」
マティアスは、本気だった。
それを悟ったレイラは、無意味な抵抗をそこでやめた。
——騒ぎに駆けつけた人々に、こんなみすぼらしい姿を見せることにでもなったら。
想像しただけでも、息が止まってしまいそうだった。
その瞬間から後の記憶は、ぼやけている。
全身ががたがたと震え、心臓が破裂しそうに鼓動したこと以外は、何も。
幸い深い夜の邸宅は静かで、一人の使用人とも出会わずにこの部屋まで来ることができた。
正門から入って中央の階段を上ったのは、クロディーヌの招待でパーティーに出席した一昨年の夏の夜以来、初めてだった。
使用人の通路を行き来する時とは全く違う雰囲気が、レイラをさらに臆病にさせた。
礼儀作法は、劣等生でした
「一体ここで、何を見せてくださるつもりなのですか?」
落ち着かないレイラが、ついに先に口を開いた。
窓枠に座ってタバコを吸っていたマティアスは、唇の間から流れる白い煙のように、ゆっくりとレイラを振り返った。
「少しは落ち着いたか?」
「いいえ。でも、早く見せてくださると嬉しいです。」
「なぜだ?」
「どうせここにいる限り落ち着けませんから。早く見て、帰りたいんです。」
切実な本心だったのに、公爵は愉快そうに笑い声を上げた。
——誘惑しなければという考えすらできず、失敗しないかと心配していたが、状況はそれほど悪くは流れていないようだった。
少しでも馬鹿に見えないよう、レイラは努めて顔を上げて深呼吸する。
だが、スカートを握りしめる手には無意識に力が入り、生地はくしゃくしゃに皺になっていた。
タバコを消したマティアスは、罰を受ける子どものように座るレイラのそばへ寄った。
差し伸べられた手をしばらく見つめ、
レイラはやっと人差し指の先だけをそっと掴んで立ち上がる。
何かを企んでいるとは思えないほど、無垢な顔だった。
マティアスは、レイラの手が自分の腕を掴むように、自ら姿勢を直してやった。
戸惑って見ていたレイラの眉間に、徐々に皺が寄る。
「こんなの、変です。」
「何がだ?」
「ただ、ちょっと……。」
慌てて腕を解こうとしても、マティアスは素直に諦めない。
「俺の前で数え切れないほど肌を重ねたお前が、たかが腕を組むこと一つに、どうして大袈裟なんだ?」
「どうしてそんなことを言うのですか!」
羞恥にかっとなっても、公爵は目一つ動かさなかった。
「そんな言葉が嫌なら、つかまっていろ。」
これ以上侮辱されたくないレイラは、仕方なく従った。
彼はようやく、歩み始める。
ただ一緒に歩いているだけなのに、どうすればいいのか分からず戸惑った。まるで腕にぶら下がっているような自分の姿が、滑稽だった。
エスコートを受けるクロディーヌはいつも女王のように堂々と優雅だったが、
その姿を真似るのは不可能だった。
「女学校でも、礼儀作法を教えたはずだが。」
ぎこちなく歩くレイラを見下ろし、マティアスはまた笑ってしまった。
ギリス女学校は、この都市で最も名門とされる場所だ。
貴族は娘を家庭教師に任せるが、裕福な中流階級は名門学校を好む。
貴族の令嬢にも引けを取らない淑女を育てることを目指す学校で、礼儀作法をおろそかにするはずはなかった。
「そうでしたね。」
その指摘が気に入らないのか、レイラは少しすねた表情だった。
「まさか、今のこの様子がギリスの賜物ではないだろうな。もしそうなら、後援を撤回しなければならないような気がする。」
「ええ。私は礼儀作法の科目では劣等生でした。お望みの答えが聞けて嬉しいですか?」
「お前が有名な優等生だったというのは、デマだったのか?」
反応が面白くて、マティアスはますます意地悪になっていく。
「違います!礼儀作法以外は全部得意でした。」
「ならば礼儀作法まで完璧にこなしてみれば良かったのに?」
「あえてそうしたくはありませんでした。綺麗に挨拶して優雅にフォークを使う方法よりも、面白い勉強がたくさんありましたから。」
言い返している間に、また一つのドアが開いた。
その向こうを覗いたレイラは、思わず「はっ」と息を飲んだ。
大きなベッドの置かれた、もう一つの広く豪華な部屋。
そういえば、さっきの部屋にはベッドがなかったのだ。
このすべての空間がただ公爵ひとりのためのものだと思うと、レイラはまた途方に暮れる気分になった。
呆然と瞬きするだけのレイラを、マティアスは寝室へ導いた。
最初よりマシとはいえ、相変わらず不慣れな組み方でこそこそ歩く姿に思わず笑いがこみ上げる。
今日レイラが言った言葉を聞いたら、祖母と母はその場で気絶していたかもしれない。
カナリア
「まだですか?」
歩みを止めたレイラが、顔を上げて彼を見つめた。
「早く見せてくださいませんか?私、本当に帰りたいんです。」
レイラはもう、本当に怯えた人のようにも見えた。
この部屋がまるで、自分を食い尽くすかのように。
頭を下げてレイラの額にキスしたマティアスは、軽く口笛を吹いた。
理解できない行動に、レイラの目が丸くなる。
「あの……公爵様?」
慎重な呼びかけにも、公爵は答える代わりに、口笛を吹いただけだった。
——本当にこの男の頭がおかしくなったのでは。
そんな懸念が湧き始めた頃、
まるでその口笛に応えるように、さえずる鳥の歌声が聞こえてきた。
幻聴ではないと知らせるように、
小さな鳥が一羽、寝室の向こうからパタパタと飛んでくる。
驚いたことに、その鳥は公爵の差し伸べた手の上に、そっと舞い降りた。
鮮やかな黄色の、美しいカナリアだった。
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