泣いてみろ、乞うてもいい|原作68話 やらなきゃ、何でも|逃げる鳥の、翼を引きちぎる あらすじ【ネタバレ】

泣いてみろ、乞うてもいい|原作68話あらすじ 原作カテゴリ

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🌹 本記事は『泣いてみろ、乞うてもいい』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。本文中の会話・心理描写・印象的な表現については、原作の表現を適宜引用しています。
ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

唯一の道

小屋へ戻ると、モナ夫人が心配そうに待っていた。
ビル・レマーを不憫に思った使用人たちは、主人一家に内緒で弁護士費用まで工面してくれていた。

だが、そのわずかな希望も潰えた。

弁護士の答えは、警官よりさらに厳しかった。

運が良ければ収監を免れる可能性はある。
しかし公爵家を相手に争えば、長い時間と莫大な費用がかかる。たとえ刑を免れても、損害を弁償する責任までは消えない。

結論はひとつだった。

——公爵家に、善処を求めること。

そして大奥様とエリーゼの意見が対立した結果、
その決定はアルビスの主人であるマティアスに委ねられていた。

あの夜から、すでに三日が経っていた。

この生活は、私のものだ

数日間、ろくに食べることも眠ることもできなかった。
全身が空っぽになったようだった。

——でも、おじさんはもっと苦しんでいる。

面会したおじさんの、数日で急に老け込んだ顔を思い出すたび、
みぞおちを鋭いもので抉られるように痛んだ。

カイルが去り、
今度はビルおじさんまで奪われようとしている。

独り残された小屋で、
レイラは自分が本当に一人になってしまう恐怖を思い知った。

何としても、おじさんを救わなければならない。
けれど、どれほど考えても辿り着く場所は同じだった。

——マティアスが提示した、あの取引。

歯を食いしばって立ち上がっても、一歩も踏み出せない。
自分を値踏みしたあの眼差しを思い出すだけで、羞恥に全身が震えた。

いっそ欲望に我を失った目で見られたのなら、
これほど侮辱されたとは感じなかったかもしれない。

けれど、あの男は平然としていた。
どこか楽しそうですらあった。

レイラは、あの顔を知っている。

楽しみのためだけに鳥を撃つ時。
自分を追い詰め、泣かせる時。

食卓に突っ伏したレイラの目から、もう涙は出なかった。

他人には、何でもない人生に見えるかもしれない。
けれどレイラにとって、この生活は何より大切だった。

一生懸命勉強して、働いて、正しく生きようとした。
誰にも恥じることのないよう、自分の手で守り育ててきた人生だった。

——この生活は、私のものだ。

あの男の気まぐれな欲望に、勝手に踏みにじらせていいものではない。

そう決意した瞬間。

——では、ビルおじさんは?

たった一人の家族の顔が、すべてを元の場所へ引き戻した。
逃げ道は、どこにもなかった。

翼を、引きちぎる方法

夜が更けても、マティアスは離れ家に残っていた。
書類への署名を終え、随行人を下がらせる。

邸宅ではまだ電気が使えない。
だからこちらで過ごす時間が増えた。

もちろん、それだけではない。

——今夜、レイラが来る。

なぜか、そう確信していた。

他の方法を探すために数日を費やした。
ならばもう、悟った頃だろう。

自分に残された道が何なのかを。

ビルが連行されたあの日。
泣きながら養父を追い、地面に崩れ落ちたレイラを見た瞬間、マティアスは気づいた。

——逃げようとするあの美しい鳥の、翼を引きちぎる方法。

だから、使った。
ただ、それだけだった。

これが自分の求める「喜び」を得るための正しい方法ではないことも、分かっていた。

それでも、まず捕まえなければならない。
逃げられないように。
自分の傍に置くために。

順序が逆でも、遠回りでも構わない。
最後には必ず、自分の望むものを手に入れる。

煙草を一本咥えた、その時だった。

——コンコンコン。

弱く、ためらいがちなノック。
煙草を灰皿へ落とし、マティアスは立ち上がった。

すぐには動かなかった。

一度大きく動いた喉仏が静まるのを待ってから、ゆっくりと扉へ向かう。

扉を開けると——

冷たい川風の向こうに、予想していたその顔があった。

二人は何も言わなかった。
やがてマティアスが一歩退き、道を開ける。

コートさえ羽織らず、青ざめて震えるレイラが敷居を跨いだ。

扉が閉まる。

鍵のかかる音が、凍りついた空気に響いた。

汚点にすら、なれない

レイラは三日前と同じ場所に立った。
けれど、あの時とは顔が違っていた。

マティアスを信じてここまで走ってきた少女は、もういない。
残っているのは、諦めと恐怖だけだった。

「公爵様にとって、私は何でもありませんよね」

何度も深呼吸を繰り返し、ようやく絞り出した。

何でもない女への一時の欲望のために、自分の人生に汚点を残すのは公爵にとっても割に合わないはずだ。だから——。

「ですからどうか、他の条件を仰ってください。
そうすれば私は何でも、全部します。公爵様、何でもします。本当です」

「レイラ」

マティアスは笑った。
そして、歴代のヘルハルト家の男たちが愛人を持ちながら、それでも名誉も地位も失わなかったことを淡々と語った。

その説明だけで十分だった。

——私は、この人の人生の汚点にすらなれない。

最後の抵抗まで失うと、不思議なほど心が静かになった。
怪我をするのと同じだと思えばいい。

転んだり、木から落ちたりした時より、少し傷が深いだけ。
傷なら、いつか治る。
治ったらまた立ち上がって、自分の足で歩いていけばいい。

何度でも。

「一……一晩でいいのですか?」

マティアスの口角が、ゆっくりと上がった。

「私は言っただろう、レイラ。割に合わない商売はしないと」

一晩で、あれほどの損害と交換できるほどの価値が自分にあると思っているのか。

そう問われ、レイラの顔が強張った。

「それでは一体……まさか私を本当に、公爵様の愛人にでもするつもりなんですか?」

マティアスは答えなかった。ただ、じっと彼女を見つめた。

出口は、あそこだ

耐えきれず背を向けた。だが、数歩も進めない。
この扉を開けて出ていけば、唯一残された希望も消える。

ビルは刑務所へ送られるかもしれない。
長い訴訟に苦しみ、たとえ戻ってきても、二人の生活は二度と元には戻らない。

レイラは歯を食いしばって振り返った。

マティアスは、そうなることまで知っていたかのように、
ゆったりと彼女を見ていた。

——そう。あなたは結局、こういう人だ。

欲しいものがあれば、壊してでも手に入れる。
撃ち落とした鳥と同じ。
血まみれになって動かなくなれば、興味を失って捨てる。

私も、きっと——。

憎しみを込めて睨むレイラを、マティアスはむしろ楽しそうに見つめ返した。
やがて彼が立ち上がった。

逃げることも、その場で待つこともできず、レイラは力を失って座り込んだ。
マティアスはその前に片膝をついた。

「レイラ」

低い声が落ちる。

「やらなきゃな。何でも」

そして、扉を示した。

「嫌なら、出口はあそこだ」

選択はお前にある。
まるで本当に自由を与えているかのように。

レイラは、その態度が何より許せなかった。

——行き止まりまで追い詰めたのは、あなたでしょう。

逃げ道をすべて塞いでおきながら、最後の一歩だけを自分に選ばせる。
そうして、何も強制していない顔をする。

「あなたを、絶対に許しませんから」

涙の混じった声で呟いた。

「好きにしろ」

くすくす笑う声とともに、引きちぎられたボタンが床に散らばった。
押し倒された瞬間、優しく囁く声が聞こえた。

「期待しているよ、レイラ」

何が起こったのか気づいた時には、既に唇を呑み込まれた後だった。
荒い息が混ざり合う。逃れようとする努力は、徒労に終わった。

のしかかる体が与える威圧感は、以前とは比べものにならないほど大きかった。
ストッキングを引き下ろす手には、隠しようのない力と熱がこもっていた。

剥ぎ取られた衣服が、カーペットの上に乱雑に投げ捨てられていく。
荒い息遣いだけが、深い冬の夜の静寂を乱した。

「綺麗だ」

腰を伸ばして座ったマティアスは、
まるで自分の被造物を鑑賞するかのように、レイラを見下ろした。


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※本記事は結末までのネタバレを含みます
泣いてみろ、乞うてもいい 結末ネタバレ|全体の流れと結末整理


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