ベルグラーノから戻って一週間。
外の世界では、世論の嵐が吹き荒れていた。
しかし、エスカランテ邸には、静かで温かい時間が流れていた。
ネタバレ注意
ここから先は、重大なネタバレを含みます。
第16章「川はみな海に注ぐが、海は満ちることがない㉓
世界がひっくり返った
『イネスは潔白だ』
その言葉は、瞬く間にメンドーサ中へ広がった。
新聞は皇太子と皇太子妃の醜聞を連日書き立て、
アリシアが買収した数少ない新聞社は、憤慨した市民たちによって焼かれ、略奪された。
そして、一人の中産階級の女性——ヒメナ・バレラが、自らの名を懸けて声明を発表した。
イネスの無罪と皇太子への断罪。
伝えるべき核心は、イネス自身ではなく、一人の市民の勇気によって世へ届けられた。
お菓子と、兄
「……最初からお前はすべて予想していたことだろうに、何のために全部目を通しているんだ?」
「ただね。あなたの甥と姪たちが、世界の動向が気になると言っているのよ」
ルシアーノが新聞の上にお菓子の包みをドサリと置き、イネスが待ちきれずに紙を破って食べ始めるのを、退屈そうに見つめた。
「私の甥たちは、お菓子が食べたいだけのように見えるがな」
「それはいつもよ」
イネスが無表情のまま「妹を品定めしている」と濡れ衣を着せれば、ルシアーノは双子のように同じ無表情で、彼女の唇をぐっと引っ張った。アヒルの口ばしのように掴まれたイネスが兄の手に噛みつこうとした瞬間——
「あなたたちは、どうして今更年甲斐もなく……」
折よく入ってきたイサベラが、微笑ましげに笑った。
またお前の夫の話か
「ベルグラーノへと連行されて僅か二日足らずで、世界が自ら私を救い出そうと動き出すほどに、私の夫の名前がこれほど絶大なものだとは知らなかった、という話よ」
「あなたの着実な扇動と誇張の結果でしょう」
「扇動はしたけれど、誇張はありません……。イサベラ様、私が何度も言っているように」
「はいはい、そうね」
イネスがカッセルの話を始めるたび、家族は揃って「またその話か」という顔をする。
世界中が英雄として称えているというのに、当のカッセルの両親だけは、少しも大騒ぎしない。
彼女の方こそ心外だった。
誰かが見れば、まるで自分が四六時中カッセル・エスカランテの話ばかりしているかのようではないか。
今日もイネスは、三人分の失望を味わった。
悪いと思うなら、もっと食べなさい
イネスは、命を懸けて声明を発表したヒメナ・バレラの身を案じていた。
しかしイサベラは、すでにエスカランテ家の名のもとでバレラ家を保護する手配を終えていると静かに告げる。
「……本当に、皆さんは私のやるべきことを一つも残してくださらないのですね」
「あなたのやるべきことはいつだって決まっているの。
よく食べて、よく眠って、無事でいることよ」
「それは……いつでも変わりませんね」
「あなたが何かを食べている姿を見るたびに、ようやく少しずつ息をつける心地がするのよ。まったく、あなたも、カッセルも、ミゲルも。本当にひどい子たちばかりよ」
罪悪感から返す言葉を失ったイネスは、
小言の代わりにイサベラがそっと差し出した菓子を受け取り、一口かじった。
悪いと思うなら、もっと食べなさい——そう言わんばかりに、イサベラは次々と菓子を勧め、イネスは懸命にそれを口へ運び続けた。
四日だけ待つ
「ルシアーノ。セニョリータ・バレラのあの記事が世間に十分広まるまでには、最低でもあと数日は必要かしら?」
「そうだな。最低でも三、四日といったところか」
「この記事を読むまでは、明日にでも、私がカッセルの子を身ごもって半年になることを公表しようと思っていたの。でも、四日くらいなら待つ価値があるわ」
命を懸けて声明を出したヒメナが、十分な評価と名誉を受けてから。イネスはそう考えていた。
「……たった四日後で、本当に大丈夫なのか?」
イサベラが静かに尋ねた。子供の存在が誰かに知られること——その不安を、彼女以上に理解している者はいなかった。
⑦ 締め・もう大丈夫な気がします
イネスは澄みきったオリーブ色の瞳をゆっくりと上げ、穏やかに微笑んだ。
「これからは、本当にもう大丈夫な気がします。イサベラ様」
(引用:原作7巻)
もう、恐れるものは何一つなかった。
世界そのものが、皇太子夫妻と皇室を崖っぷちまで追い詰めていた。
そしてエスカランテ家には、
ようやく穏やかな時間が戻っていた。
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📖 原作6巻を振り返る
▶ 原作6巻総括|神は救わない。それでも人は救われていく
📖「6巻の読み方はこちら」
→6巻以降の読み方ガイド
※本記事の人名・地名は原作ベースの仮訳です。今後の公式翻訳により表記が変更される可能性があります。
📖 作品情報・配信プラットフォーム
- 邦題: この結婚はどうせうまくいかない
- 原題: 이 결혼은 어차피 망하게 되어 있다
- 原作: CHACHA KIM
- 脚色: CHOKAM
- 作画: Cheong-gwa
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