泥の中の愛㉖|134話 最後の一歩 ─ 燃やされた雑誌と、望んだはずの結末

バスティアン|泥の中の愛㉖|134話 最後の一歩 ─ 燃やされた雑誌と、望んだはずの結末 原作本編

🌹 本記事は『バスティアン』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。会話部分は原作の表現を引用しています。
ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

スキャンダルは、アルデンヌの邸の奥にまで流れ着いた。

雑誌を燃やす者、雑誌社を潰す者。
そして、格子のない牢獄で、オデットは最後の賭けに出る。

暖炉に投げ込まれた雑誌

問題の絵を載せたタブロイド紙は、使用人休憩室にまで流れ着いていた。

バスティアンが流通を止めても、市中に出回った分までは回収できない。
闇取引でプレミアまでついた一冊を、街から持ち帰ったメイドにドーラは容赦なく解雇を通告する。
—— 仕える主人を辱めるメイドは要らないと。

消えた少佐の妻が、身ごもって戻ってきた。
そこに異母兄弟をめぐる不倫と痴情まで加わった、帝国中が熱狂するスキャンダル。

真実が何であれ、騒動は簡単には鎮まらない。
だからこそ、この屋敷の壁は高くしなければならなかった。

どんな汚い噂が飛び交おうと、ドーラは知っていた。
——奥様は、決してそんな真似をする方ではない。

雑誌を暖炉の火に投げ入れ、彼女は使用人たちに見せつけた。
同じ真似をすれば、誰であろうと同じ末路をたどる、と。

主人の帰宅が告げられたのは、その直後だった。
オデットを置いてから、六日ぶりだった。

最後のパズル

フランツの仕業ではない—— 事件の顛末を聞いた瞬間から、バスティアンは確信していた。

こっそりオデットを覗き見るのが関の山の間抜けに、真っ向勝負の度胸などあるはずがない。

ケラーの報告によれば、個人所蔵の絵を持ち出して展覧会場にかけたのは、同じ画室の画家たち。主導者はノア・ホフマンという無名画家。

——ノア。

サンドリンのベッドを温めている若い愛人も、確か画家で、そんな名だった。
偶然の一致である可能性は、著しく低い。

最後の一片が、ようやく収まった。

フランツは駒にすぎない。

どうやら、ラヴィエール嬢に手痛い一撃を食らったようだ。
さすがは、野心に満ちた勝負師らしい。

「ご苦労だった。残りは僕が直接解決する」

目的が明らかになった以上、調査は無意味だった。

窓の外、湾の向こうに父の屋敷の灯りが見える。
クライン家は婚約破棄どころか、クラウヴィッツ家との公式な断絶まで公表した。

社交界の趨勢は明らかで、上流社会入りに執着した父の一生は、
貴族の血を引く自慢の息子の手で、水の泡と化した。

上品ではない戦い方

残る後始末は、一つだけだった。

ほとんどの報道機関は事の深刻さを悟って引き下がり、掲載誌は全量廃棄、フィルムも回収済み。残っているのは、最も頭の悪いオーナーの雑誌社だけだった。

言論の自由、大衆の知る権利――投資の失敗で財産を蕩尽した男は、競合が諦めた特ダネの利益に目がくらんでいた。

「貴社の雑誌は、今号を最後に廃刊になるでしょう。必ずそうなるとお約束します」

脅しが通用するか、貴様の記事も載せてやる、と喚く男に、バスティアンは静かに返した。

お好きにどうぞ。
そうしてでも妻と一緒にいられるなら、むしろ光栄だ――。

「僕は自分のものを守るためなら、何でもします。そして、僕の戦い方は、それほど上品でも、穏やかではありません」

まともに眠っていないのに、意識は奇妙なほど研ぎ澄まされていた。

近いうちに、男は駆け引きを持ちかけてくるだろう。
先に始末した狼たちがそうだったように。

時が来れば、餌を投げてやればいい。

夕食を用意するよう執事に命じた直後、電話が鳴った。

予想どおりだった。
期待以上に卑屈になった、最後の狼だった。

格子のない牢獄

メイドたちが去ると、寝室に重い沈黙が戻った。

豪華な食器と生け花で飾られた夕食のテーブル。
格子のない牢獄となったこの部屋には、あまりにも不釣り合いな光景だった。

何より異質なのは、平然とテーブルについている、あの男だった。

「食べるんだ」

再び捕らえられたオデットは、この屋敷に幽閉されていた。
外出も、来客も、電話も手紙も禁じられて。
絶対安静という主治医の所見を名分にした、事実上の監禁だった。

「一体、目的は何なのですか?」

「用件はすでに話しただろう」

向かいの席を指して食事を続ける男の態度は、
惨めに追い出される覚悟を固めてきた五日間を、虚しくさせるものだった。

最後の一歩

先に本題を切り出したのは、オデットだった。

フランツの絵で帝国中がひっくり返ったことも、
あなたがラッツに残っていた理由も、わかっている。

そう前置きして、彼女は勇気を出してテーブルへ近づいた。

「全部、本当のことです」

——フランツと不貞な関係を結んだ。
父親のわからない子を身ごもった。
ばれるのが怖くて、逃げた。

まっすぐな姿勢とは裏腹に、眼差しは不安定に揺れていた。

そのぎこちない告白を最後まで聞いたバスティアンは、
肉の塊を口に運ぶことで返事に代えた。

「……これが、あなたの望んでいた結末ではありませんか?」

最後の一歩を縮めて、オデットは懇願した。

バスティアンは、
これといった感情のない顔を上げて、彼女を見つめた。


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