🌹 本記事は『バスティアン』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。会話部分は原作の表現を引用しています。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。
守るはずだった一線を、今度はオデット自身が壊しにいく。
血の染みを見つけた彼女は、もう「良い妻」のふりをしないと決めた。
「残りの夜は、私のそばで眠ってください」
残された二日間を、心の赴くまま、利己的に生きる。
そう決めた女が最後に投げかけたのは、言葉ではなく、一つの口づけだった。
利己的に過ごす二日間
午後と明日のレッスンを、すべてキャンセルした。
自分でも理解できない選択だったが、オデットは決断を覆さなかった。
——『もうやめよう』
開かない扉の向こうの声は、辛辣でなかったぶん、一層冷淡に聞こえた。
あの猶予を、バスティアンに施した寛容だと考えてはいけなかったのだ。
彼は必ず約束を守る。
昨晩の会話が、そう確信させた。
バスティアンは、良い別れの準備をすべて終えたのだ。
ならば、次は自分の番だった。
自分の欲望のために安定した生活をかき乱す男が憎らしく、同時にありがたかった。
おかげで後悔のない別れの機会を得たのだから。
残りの二日間、あの男のように利己的に過ごす。
心の赴くままに。
胸のしこりを、すべて解き放てるように。
「午後の授業はキャンセルになりました」
「なぜ?」
「それは個人的な事情なので、お話ししづらいです」
バスティアンは愉快そうに笑った。
「私が昼食を奢るから、あなたはそこでコーヒーを奢ってください」
生意気な要求とともに腰を掴むと、呆れた顔のまま、バスティアンはペダルを漕ぎ出した。
広場から、野花の咲く野原へ、線路沿いの道へ。
分岐点ごとに方向を指し示しながら、オデットは眩しい夏空を見上げた。
美味しい昼食をとり、泡をたっぷり乗せたコーヒーとチョコレートケーキを食べる。
——海軍省前の噴水台で、長く待ち続けたあの夏の日。
もし夫が来てくれていたなら、一緒にしたかったこと。
血の染み
家へ戻ったオデットは、朝とは違う黄色いシフォンのドレスをまとっていた。
ロスバインの街中で新調し、そのまま着て帰ってきた夏服だった。
ポーチに荷物を運んだバスティアンは、行き先も告げずに再び自転車で去っていく——「それは個人的な事情なので、お話ししづらいですね」と、朝の彼女の言葉をそっくり返して。
一人になったオデットは二階へ上がり、新しく買ったドレスを脱いだ。
静かなため息が漏れる。
ロスバインへの外出は完璧だった。
昼食は美味しく、眺めのいいカフェのテラスで楽しんだコーヒーも期待以上だった。
それだけで十分だと、オデットは田舎の村には似合わない服まで買った自分を正当化した。
楽な服に着替えて裏庭へ出る。
畑と花壇に水をやり、乾いた洗濯物を取り込んで、彼の部屋へ向かった。
どんなに叩いても開かなかった扉が、今日は抵抗なく開く。
——私は一体、どんな悪夢になってあなたを苦しめているのだろう?
洗濯物を畳み、せめてベッドだけでもと布団をめくる。
窓辺ではたこうとした、その瞬間——
布団の隅に、赤い染み。
何度見直しても、結論は変わらなかった。血の固まった跡だった。
苦しげにもがく音が、再び耳元にこだまする。
知らないふりをするのが最善の配慮だと、分かっていた。
だが、オデットはもう、良い妻のふりをしていたくなかった。
決意を固めたオデットは、布団を抱えて再び裏庭へ降りていった。
あまり水をつけすぎないよう注意しながら丁寧に染みを落とし、よくはたいて物干しロープに干した。
布団を干し終え、再びバスティアンの部屋へ戻った時には、オデットの眼差しは一段と固くなっていた。
運び出されたマットレス
枕とシーツを取り除き、古いマットレスをベッドから下ろし、力いっぱい廊下へ引きずり出す。
かえってバスティアンをさらに苦しめることになるかもしれない。
寝室の前まで来た時、ふとそんな考えがよぎった。
だが、止まりたくなかった。
ここは私の家。だから決定権は私にある。
招かれざる客の気持ちなど知ったことではない。
利己的な結論を下したオデットは、ありったけの力でマットレスを寝室の敷居の向こうへ押し込んだ。
「私のそばで眠ってください」
ベッドが消えていた。
正確には、マットレスと布団が跡形もなく消えていた。
部屋を見回す彼の目には、隠しきれない当惑が色濃く浮かんでいた。
「寝る場所を移しておきました」
「あなた一人で? ……一体なぜ?」
「残りの夜は、私のそばで眠ってください」
穏やかな水面のような顔で、とんでもないことを言う。
呆れて笑うバスティアンの前に、オデットは立ちはだかった。
「私は昨晩のようなことを、もう二度と経験したくありません。そばに置いたからといって悪夢を防げるわけではありませんが、少なくとも何が起こったのか分からず、胸を痛めることはなくなるでしょうから」
「今、君は何を言っているか分かっているのか?」
「はい。はっきりと分かっているので、そんな心配はしないでください」
何も知らない顔で、見事に虚勢を張った。
「俺が戻すから、どいてくれ」
「いいえ、バスティアン。あなたには、そんな権利はありません」
震える手を握りしめ、首をまっすぐに立てて向かい合う。
「私があなたの悪夢だということは理解しました。ですが、申し訳ないとは思いません。それは私のせいではないのですから。——悪夢となった女のそばがそんなに嫌なら、私を再び訪ねるべきではありませんでした」
冷淡な叱責が続く。
「あなたが壊した哀れな女に対する罪悪感を消すために来たのなら、そうしてください。その代わり、私も私のやり方で、勝手で利己的な男に対する気持ちを整理します」
怒った波の立つ青緑色の瞳が、薄闇の中でもはっきりと輝いていた。
バスティアンは、呆然と、その美しい悪夢を見つめた。
「私は残りの夜を、あなたと共に過ごします。それが嫌なら、私の家から出て行ってください」
一方的な命令を残し、オデットは悠然と立ち去った。
投げかけられた問い
入浴から戻ると、バスティアンはマットレスの上で本を読んでいた。
寝支度をすべて終えた様子で、まるでこの部屋の主人のように悠然と。
家を出ていく決断を下すのではと心配していたオデットを、呆れさせる姿だった。
化粧台でクリームの蓋を落とすと、低い笑い声が聞こえた。
頬が赤らむのを感じながら、いつもより長く髪をとかす。
心が落ち着く頃には、バスティアンは眠っていた。
こっそり血痕を消した布団をかけた姿に、唇が柔らかく弧を描く。
意外にも、花柄がとてもよく似合っていた。
喜ばないだろう褒め言葉なので、心の中に留めておくことにした。
寝つけずに寝返りを打ち、そっとベッドの端から下をのぞき込んだ。
ぐっすり眠る姿を見守ってから、手を伸ばして布団の端を上げてやった、その瞬間——微動だにしなかった男が、パッと目を見開いた。
驚いたオデットは、思わずベッドを掴んでいた手を離してしまった。
何が起きたか気づいたのは、彼の上に落ちてしまった後だった。
自分の下に横たわる男を、オデットは見つめた。
バスティアンもまた、彼女を見つめていた。
眠気の残らない静かな目と、速く打つ心臓の鼓動が語る真実を、オデットは難なく読み取った。
——同情心と罪悪感。
この男をここへ来させた理由は、十分に理解した。
ならば、あの頃の私は、あなたの何だったのだろう?
一日中、舌の先でくすぶっていた疑問が浮かんだ瞬間、熱い手が彼女を押し退けた。
ただかつては憎らしく、今は哀れなだけの女なのだろうか?
オデットは、その手よりもさらに熱い唇に口づけすることで、質問を投げかけた。