泣いてみろ、乞うてもいい|原作73話 カナリアの歌|君が苦しいから、僕が楽しいのだ あらすじ【ネタバレ】

泣いてみろ、乞うてもいい|原作73話あらすじ 原作カテゴリ

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🌹 本記事は『泣いてみろ、乞うてもいい』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。本文中の会話・心理描写・印象的な表現については、原作の表現を適宜引用しています。
ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

墓碑くらいは、建ててあげるよ

「座れ」

暖炉の前には食卓が設えられていた。
レイラにとって、恐ろしい記憶の残る場所だった。

「私たち、こんな間柄ではないですよね」

「君の役割を果たすのだろう」

「それはいくらでも果たしています」

「痩せた体は、あまり面白くない。挿れる時に痛いし」

下品な言葉とは裏腹に、マティアスの目はひどく無関心だった。

「飢え死にするつもりでもないのなら食べろ。……死にたいのか?」

立ち尽くすレイラに、マティアスはにっこりと微笑んだ。

「僕たちの間柄を考えて、墓碑くらいは建ててあげるよ」

「何ておっしゃいましたか?」

「ヘルハルト公爵の愛人、ここに眠る。気に入ったか?
最高級の大理石で、皆が見るように、とても大きく豪華に建ててやるから心配するな」

ちゃんと生きていきます

怒りを抑えようと俯いた。
だが、絨毯を見ればあの夜の記憶が蘇る。

——時間が経てば傷は治る。
それでも、深い傷には深い痕が残る。

拳を握りしめ、レイラはマティアスを睨みつけた。

「私はちゃんと生きていきます」

力を込めて叫び、レイラは公爵の向かい側の席に座った。

恐れて逃げ、慌てふためいてこの男を喜ばせたりはしない。

そう決意すると、無謀な勇気が生まれた。
自暴自棄にも似た、諦めから生まれたものかもしれない。

「決してあなたのような人のせいで死んだり、壊れたりはしない」

がぶりと掴んだパンを、強く噛み砕いて飲み込む。

「長く長く、ちゃんと生き抜いてみせる」

口元に付いたパンくずなど、もはや気にならなかった。
がっついて食べまくる様子に愛想を尽かしてくれるなら、むしろ有難いことだから。

「そうか? 良い子だ」

まるで良い子に褒美を与えるように、マティアスはレイラのグラスにワインを注いだ。

レイラはパンくずの付いた両手でそのグラスを持ち、ゴクゴクと飲み干した。

「おや」

短く舌打ちしたマティアスは、すぐに空のグラスを喜んで満たしてやる。
あなたの望む淑女には決してならないと言うように、レイラはそれも一気に空けた。

鳥よりも趣味が下品だね

「あの音楽、消してください」

ワインが一本空になる頃、レイラが不意に言った。
蓄音機を射る目つきはかなり険しかった。

「聞いてごらん。美しいじゃないか」

ピアノで演奏するワルツは、今や最も技巧が華やかで繊細な部分に差しかかっていた。
マティアスと彼のカナリアが最も好きな旋律だった。

「邪魔です」

道具のように握りしめたフォークで最後の肉を突き刺し、口に押し込む。

もぐもぐと動く唇と頬を見つめて、マティアスはつい声を出して笑った。

「鳥よりも趣味が下品だね」

「……鳥って何ですか?」

両頬が赤く火照っていた。
酒を水のように飲み干したのだから、当然だった。

フッと笑うだけで、マティアスは答えなかった。

いつ捨てるんですか?

「いつ捨てるんですか?」

戦闘的に食べ尽くすのに気力を使い果たしたせいか、
レイラの声にはもはや虚勢がなかった。

駄々でも、甘えでもないことは、その乾いて落ち着いた目を見れば分かった。

「手に入れたんだから捨てるでしょう、私を」

「ああ」

マティアスも淡々と答えた。
愛人と永遠を約束するほど、彼は感傷的でも愚かでもなかった。

「じゃあ、早く捨ててください」

「捨てたら?」

「……ちゃんと生きていきますよ。公爵様とは関係ない人生を、一生懸命に、ちゃんと」

「わたしの傍ではちゃんと生きていけないという意味に聞こえるが?」

「当然です」

頭を下げて自分の手を見下ろすレイラの、
色の薄い睫毛が落とす影は、かなり濃かった。

椅子に背を預けたマティアスの目は、依然としてレイラを捉えていた。

気に障るとか憎らしいと思うに足る答えではなかった。

永遠でないなら、いつかは終わる。
その時、未練なく去り、たくましく生きてくれるなら、それでいいはずだった。

——それなのになぜ?

マティアスは眉を顰めた。

気に障るはずのない言葉が、ひどく気に障った。

カナリアの歌

「どこへ行く?」

「私はもう帰ります」

何でもないことのように答えるレイラを見て、マティアスの口角が歪んだ。
同時に、荒々しい力の込もった手が、通り過ぎようとした腕を掴んで引き寄せた。

「あっ!」

よろめくレイラをそのまま抱き寄せ、
マティアスはソファに寝そべるようにもたれかかる。

もがいていたレイラも、ほどなく諦めたように静かになった。

腰を片腕で抱き締めて引き寄せ、首筋に顔を埋めると、慣れ親しんだ体の匂いがした。
柔らかく甘い、この女、レイラの体臭だった。

脈打つ首筋を舐めると、レイラがびくりとするのが感じられる。
それが面白くて、マティアスはもっと意地悪く首筋と顎、可愛らしい耳を舐りつけた。

逃げようともぞもぞするたび、柔らかい髪が揺れてさやさやと音を立てた。

いつの間にか、マティアスの手がブラウスの中に入ってきた。

慣れた痛みを予想した。
だが、温かく乾いた手は、ゆっくりと腹と腰を撫でるだけだった。

耳に触れる唇も、吐息も、いつもとは違う。
早く終わるよう祈っているのに、その奇妙な時間は長く続いた。

気に障るワルツのように緩やかに、マティアスは手と唇でレイラに触れ続けた。

満腹感と酔いのせいで苦痛に鈍感になったのか、
以前のようには痛くなかった。

「うっ、音楽、消してください!頭が痛いです」

「音楽は美しい、レイラ。頭が痛いのは、品がなく酒を飲んだ君のせいだろう」

皮肉に腹が立ったが、レイラは何も応えられなかった。

意思とは関係なく開いた唇の間から、音楽をも遮りきれない声が溢れ出る。
震えていた体が胸の上にぐったりと脱力した後、ようやく彼は手を引っ込めた。

君が苦しいから、僕が楽しいのだ

「僕の傍ではちゃんと生きていけないが、良く濡れて良く泣くのはどうだ?」

濡れて輝く手で、紅潮した頬を覆う。
ぞっとして押し退けようとするほど、腕力は強まった。

浅い息で睨みつけるレイラと、鼻で笑うマティアスの視線が衝突する。

「僕がしたいことをしたから、じゃあ次は君がしたいことをしよう」

容易くソファに寝かせ、その体の上に乗り上がる。

「私がしたいことは、今すぐ公爵様の元を離れることです」

「嘘だ」

ブラウスのボタンを外し始める手。
睨みつけるレイラの瞳には、自己嫌悪と混ざり合った怒りが輝いていた。

「こうするのなら、最初からあなたの思惑通りにしていれば良かったですよね」

束の間持った愚かな希望の大きさだけ、レイラは一層惨めになった。

「それはもう面白くないから」

ブラウスを脱がせ、スカートも自らの手で脱がせる。

「こうでなくては君が苦しむだろう」

身を屈めたマティアスが笑いながら眼鏡を外し、
チュッと音を立ててレイラの濡れた頬にキスした。

嘴を擦り合わせる鳥たちのような優しいキスだったが、
それを意識する余力など、もはや残っていなかった。

「君が苦しいから、僕が楽しいのだ」

残ったのは結局、痛み。
心を深く引っ掻く羞恥心が与えた痛みだけだった。

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