泣いてみろ、乞うてもいい|原作116話 レイラ|鳥が歌わない一日の始まり あらすじ【ネタバレ】

泣いてみろ、乞うてもいい|原作116話 レイラ|鳥が歌わない一日の始まり 原作カテゴリ

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🌹  本記事は『泣いてみろ、乞うてもいい』原作をもとに、物語の流れと人物心理を整理しています。会話部分は原作の表現を引用する場合があります。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

夏の星を見上げて、無情な神に問いかける女。

冷たくなった小さな鳥に、その名を囁く男。

——……。

何度呼んでも、
鳥はもう、目を覚まさなかった。

バラが咲いても、レイラがいない季節

雨が止むと、夜明けが訪れた。

西側の窓の前の椅子にもたれて、マティアスは明けてゆく朝を見つめていた。
開け放った窓から、新鮮なバラの香りが吹き込んでくる。

昨日の春の雨の中で、バラが咲いたらしい。
バラが咲いても、レイラがいない季節が来た。

そしてその季節に、彼の鳥は去った。

空っぽの鳥籠には、餌と水がそのまま残され、鮮やかな黄色の羽が何枚か散らばっていた。

ただ、彼の鳥だけが去った。
テーブルの上の小さな木箱には、冷たく固まったカナリアが、永遠の眠りに就いた姿で納められていた。

鳥と過ごした時間が、ゆっくりと頭の中を流れていく。
一目で心を奪われ、欲しいと思った、小さくて美しい鳥。

恐れて逃げ回り、悲鳴を上げていた鳥が、少しずつ懐いていく様子は可憐だった。
完全に自分のものになった鳥の、愛らしい歌がくれた喜びも、なかなか大きかった。

楽しそうに遊び、手の甲に乗ってじっと見つめてくる澄んだ目。
限りなく柔らかな羽の感触。

それは彼の、大きな楽しみになっていた。

今となっては、すべてが無意味になってしまったけれど。

鳥の名前

テーブルに寄り、マティアスはその冷たい体をゆっくりと撫でた。

金色の翼の羽は、相変わらず柔らかだった。
今にも目を覚まして、彼に向かって飛び立ちそうに思えた。

理由は分からないと言われた。ただ、こうなってしまったのだと。

病み衰えて、勝手に消えてしまった。
彼の人生から、永遠に。

あの女のように。

死んだ鳥の歌を待つように、マティアスは長いことその場に佇んでいた。
やがて朝の光が木箱の上にも暖かく降り注ぐ頃、マティアスは静かに鳥の名前を呼んだ。

「レイラ……」

初めて見た瞬間に、カナリアの名前を決めた。

——レイラ。

そんな自分がおかしいと分かっていても、気にしなかった。
この鳥にだけは、心ゆくまで優しくしてもよかった。
そして彼が優しくするほど、鳥は彼を愛した。

マティアスは、それが嬉しかった。

何度その甘美な名前を囁いても、冷たくなった鳥は目を覚まさなかった。

鳥が歌わない一日の、始まりだった。

私の願いは、叶えられたでしょうか

レイラは、あまりの痛みに眠りから覚めた。

微熱が続いていたが、今は風邪を引いたように全身がずきずきと痛む。

ろくに食べられず力が出ないのに、相変わらず食欲はなかった。
肩を竦め、布団を頭の先まで被る。

昼間は大丈夫なのに、夜を耐えるのが辛かった。

あの男の時間だったせいだろうか。

悪夢のような記憶を思い返す自分が嫌で、目を固く閉じ、枕カバーを握りしめる。
けれど、意志で思考を遮ることはできなかった。

諦めてベッドを抜け出し、窓際へ近づく。
夏の空にきらめく星が、焦点のない透明な瞳を満たした。

「私の願いは叶えられたでしょうか?」

無情な神に、問いたくなる夜だった。

もうレイラはいないのだ

音の消えた世界に、聞き慣れた声が流れ込んだ。

遠くにいるようだったその声が、少しずつ近づいてくる。

寝返り一つ打たずに目を開けると、ベッドの脇に、随行人の困り果てた顔があった。
許しもなく入った非礼を詫び、今日の会議にはどうしても出席してもらわなければならないと言う。

「分かりました」

目覚めたばかりとは思えないほど穏やかな声で、マティアスは答えた。

女中たちがカーテンを開けると、溢れ込む日差しが眩しかった。
もう1時を過ぎていたが、彼はさほど驚きもしなかった。

歪んでしまった日常に、もう慣れていた。
使用人たちが下がった部屋は、死んだように静かだった。

それが嫌で口笛を吹いてみて、マティアスはフッと笑った。

——ああ。もうレイラはいないのだ。

鳥籠が片付けられ、空っぽになった部屋の片隅を見ると、また笑いが込み上げた。

死んでしまったのだ。

その事実を、今は淡々と受け入れられた。
今日の天気のような、ごく平凡な日常の一部のように。

ネクタイを結び終えて、ようやく今日の予定を思い出した。

取締役会だった。

最悪の事態への備えを巡って役員たちが対立していたはずだが、肝心の懸案さえ曖昧だった。
少し前から服が大きくなっていたが、新しく仕立てる気にはならなかった。
そんな熱意さえ、もう残っていなかった。

ロビーのホールでは、ぎこちない微笑みを浮かべた母が待っていた。

取締役会に行くのだと、マティアスは普段と変わらない優雅な微笑みで答える。
病的な様子と超然とした態度の乖離に、エリーゼは言葉を失い、それ以上何も言えなかった。

邸宅の外へ出ると、もう夏の気配を帯びた日差しが彼を包み込んだ。

レイラがいない時間は、どれほど流れたのだろう。

数えようとして、すぐにやめた。

結婚式は来月だったか。

それすらも、別の世界のことのように感じられた。

倒れた自転車の車輪が、空転する音

車の中で、マティアスは会議資料に目を通した。
集中するのは難しかったが、それでも落ち着いて読み、把握しようと努めた。
当たり前になすべきことだった。

生きてきた歳月の中で、自分の役割を果たせなかったことは一度もない。
今日もまた、そんな日々の一つにならなければならなかった。

役員たちと自然に挨拶を交わし、席に着く。
会議は、国境線が砲火に包まれる前にこの会議室が先に焦土と化しそうなほど、初めから熱を帯びていた。

今日は確実な一つの路線を選ばなければならない。
方向を決めることが、ヘルハルト公爵の最も大きな責務だということも、よく分かっていた。

微かな頭痛を忘れようと、資料に集中する。
けれど複雑な数字と文言は、無意味に頭の中を彷徨うだけだった。

ある瞬間から、何を見ているのかも分からなくなった。
その時から、あのとんでもない音が聞こえ始めた。

——倒れた自転車の車輪が、空転する音。
風に木の葉が波打ち、心臓が穏やかに鼓動する音。

痩せて骨ばった手で、マティアスは水のグラスを握りしめた。
逃れようとするほど、幻聴はますます鮮明になり、彼を泥沼のような記憶の中へ引きずり込んでいった。

——倒れているレイラに一歩ずつ近づくにつれ、鼓動が速くなる。
バラの香りが漂う体の匂いが分かるほど近づく頃には、喉が渇き、唇が乾いた。

けれどその動揺は、すぐに跡形もなく消えた。
彼の影の中で、レイラが顔を上げた、まさにその瞬間に。

すべてが消えて、一人の女性だけが残った。
埃まみれの女学校の制服で道に倒れ込んでいる、その小さな女の子が、マティアスを圧倒した。

見下ろしているのは自分なのに、むしろ自分の方が卑しくなった気分だった。

感じたこともなく、
何なのかも知らなかったあの日の感情が、今なら分かる気がした。

それを否定したくて必死に足掻いたけれど、レイラの前に立つ自分は、常にそうだったのだということも。

今も同じだ。

あの女が、彼を限りなく弱く、惨めにした。

冷たい炎

呼びかけられて顔を上げても、もう何にも集中できなかった。

適当に何か喋って帰り、再び睡眠薬を飲み込みたかった。
それ以外の何にも、気を使いたくなかった。

今すぐこの世界が消え去っても構わないと思えた。

狂った考えだった。

非現実的に感じられる会議室を見渡し、マティアスは残った理性をすべて動員して口を開いた。

「申し訳ございません」

マティアスは息を整え、背筋を伸ばした。

「今の私では最善の判断を下すのは難しいと思います」

「ヘルハルト家は、十分な議論を経て取締役会が下した決定を尊重いたします。最終的な調整はハウゼン氏が担当して進めるでしょう。」

マティアスは、さらに濃くなった青い目を上げ、ハウゼンを見つめた。
先代の頃から実質的な経営を率い、彼に会社の仕事を教えた師でもある専務取締役だった。

怒鳴り声の飛び交っていた会議室が、たちまち冷ややかな静寂に包まれた。

ヘルハルト公爵の健康悪化の噂は広まっていたが、まさかここまでだったのか。
ざわめきが起こり始めた頃、公爵は席を立ち、改めて詫びた。

「改めて、お詫びの言葉を申し上げます」

事実上、業務を放棄すると宣言した人間とは思えないほど、その姿勢と表情は気品に満ち、厳粛だった。

けれどその眼差しは、奇異な感情で揺らめいていた。

まるで冷たい炎に包まれた人のように。
いや、自分がその炎そのものになってしまったかのように。

会議室を出たマティアスは、硬直した手でボタンが留められず、そのままジャケットを脱ぎ捨てた。
乱暴に引き下ろしたネクタイは、くしゃくしゃに丸めてポケットへ突っ込む。

追いかけてきたマーク・エバンスに、随行は不要だと低く命じた声は、荒い息に混じって掠れていた。

広々としたロビーを抜け、大理石の階段を降りていく。

場違いなほど明るい世界の中へ、彼はよろめきながら歩き始めた。

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