泣いてみろ、乞うてもいい|原作117話 永遠に知らないままでいること|戻ってきて、心ゆくまで嘲笑え あらすじ【ネタバレ】

泣いてみろ、乞うてもいい|原作117話 永遠に知らないままでいること|戻ってきて、心ゆくまで嘲笑え 原作カテゴリ

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🌹  本記事は『泣いてみろ、乞うてもいい』原作をもとに、物語の流れと人物心理を整理しています。会話部分は原作の表現を引用する場合があります。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

壊れた自分を見て、もう一度笑えと乞う男。

その男にだけは決して明かすまいと、真実を飲み込んだ男。

——頼むからもう一度だけ、私を……。

レイラの心を、永遠に知らないままでいること。

それが、カイルの与えた罰だった。

レイラを失った森

カイル・エトマンが現れた。
その噂は、あっという間にアルビス全域に広まった。

人々は再び混乱した。
カイルが庭師とレイラを連れ出したのではないか、という方向に噂が固まりつつあったからだ。
母親の反対で結ばれなかっただけで、カイルの心は長い歳月変わらなかったのだから、諦められなかったのだろうと。

少し怪しい点があっても、皆そう信じようとした。
今となっては、それが最も幸せな結末だったから。

けれど、レイラを探し回るカイルの姿が、その希望すらも打ち砕いた。

知らせを聞いて駆けつけた料理人のモナ夫人が、声を限りにその名を呼んだ。

本当にお前でさえ、二人の行方を知らないのかと。

呆然と見つめ返すだけのカイルから、答えを読み取るのは難しくなかった。
すぐに学校へ戻れという父の訓戒にも構わず、彼はレイラを探しに来たのだった。

赤くなった目元を拭うモナ夫人に頭を下げて、カイルは我を忘れて駆け出した。

森に差しかかると、漠然とした希望が湧いた。
小屋に行けば、戻ってきたレイラとビルおじさんに会えるのではないかと。

けれど、すぐに酷い現実と向き合わなければならなかった。

「レイラ……」

雑草の生い茂った古い小屋の前庭に、カイルの眼差しが深く沈む。
周囲を隈なく調べ、家の中まで見て回ったあとには、立っていることすら辛くなった。

「レイラ! レイラ! レイラ!」

怒りに任せた叫びのように、カイルはその名を呼び続けた。

驚いた鳥たちがバタバタと飛び立つだけで、レイラを失った森は静かだった。

戻ってきてくれ、レイラ

マティアスは当てどなく歩いた。
あんなふうに飛び出してきて、できることがただこれだけとは。

自分を嘲笑いながらも、歩みは止めなかった。

毎日のように飲み続けた睡眠薬のせいか、地面を踏みしめているのに浮遊感があった。
頭は割れるように痛み、全身がずきずきと疼いて、燃えるように熱を帯びている。

だからこそ、止まれなかった。
この苦痛があってこそ、耐えられた。
これさえ消えてしまったら、あの女の記憶が彼を呑み込み、粉々に砕いてしまいそうだった。

それはマティアスが生まれて初めて感じた、切実な恐怖だった。

——だから戻ってきてくれ、レイラ。

熱い溜め息が、乾いた失笑とともに漏れた。

これを望んで、あれほど努力したのだから。
お前が創り出した作品を鑑賞するくらいの寛容さは、あってもいいだろう。

戻ってきてくれ。
戻ってきて、心ゆくまで嘲笑え。

喜んでみろ。お前が壊した私を見て、もう一度女王のように微笑んでみろ。
頼むからもう一度だけ、私を……。

歯を食いしばり、マティアスは足早に歩いた。

もう二度と戻ってこない

いつの間にか、アルビスへ続く道だった。

角を曲がると広がるプラタナスの道は、レイラの最後の姿を留めたまま、相変わらず平穏だった。
よろめきながら一歩ずつ進み、レイラが最後に立ち止まったその場所で、ついに足を止める。

蘇った幻聴が、美しい音楽のように聞こえてきた。
荒い息を吐きながら、充血した目を下げて、自分の影を見つめる。

レイラはいないのに。
消えてしまったのに。

二度と……
もう二度と、戻ってこないだろう。

決して認めたくなかったその事実を受け入れると、くっくっと笑いが漏れた。

泣きたいのだろうに、唇から漏れるのは、笑いだけだった。

始まりを知らない私は

再びレイラの世界だった森へ向かいながら、マティアスは思い出していた。

目が眩むほどの初めての出会いの後も、この森で度々あの子に会った。
そのたびにレイラは、恐れて隠れたり逃げたりした。

ある日それが気に障って、わざと馬を駆り、子供の前を遮ったことがあった。
しばらく凍りついていた子供は、すぐに嗚咽しながら草むらへ逃げ込んだ。足を踏み外して転がっても、跳ね起きてまた走った。

追ってこないと分かってようやく道に戻ると、子供はさっと振り返って彼を見た。かなり遠い距離だったが、睨みつけているのが分かった。

呆れて失笑する間に、子供は道の小石や小枝を蹴飛ばしてささやかな鬱憤を晴らしながら、毅然と小屋へ歩いていった。

その向こう見ずな臆病者が面白くて、その後も度々、そんな悪戯をした。
それをやめたのは、あんなに幼かった子供が、鹿のようにすらりと成長したと気づいたある日からだったと思う。

その後は、徹底的に無関心だった。
確かに、そうだった。

あの夏の日、すっかり大人の女性になって現れたレイラと、面と向かうまでは。

だから、一目惚れしたというのはおかしな話だった。
始まりがどこだったのか、マティアスには分からなかった。そんなものが存在したのかどうかさえ。

子供が成長して女性になったように、彼の心も、ただ、そう流れてきた。

面白くて困らせたかった子供は、目障りな少女に育ち、その少女は女性に育ち、彼の美しい支配者となった。

その始まりを知らない私は、終わりを知ることもできないのに、君はいない。

だとすれば、君なしでは終わらない私は、今、どうすればいいのだろうか?

傍で泣くことを、望んだ

途方に暮れた目で、マティアスは周りを見渡した。
周りは、レイラの記憶ばかりだった。

その無数の記憶の中で、輝かしくないものなどなかった。
けれど一つずつ手繰り寄せ始めると、再び笑いが溢れ出した。

レイラはいつも、彼から逃げようとしているか、恐れて泣いていた。

恋人として過ごした時間のすべてが、復讐のために作り上げた嘘だったなら、彼が手に入れたのは、結局レイラの苦痛と涙だけだった。

それが耐えがたいほど空虚で悲惨なのに、それでも手放すことはできなかった。
常にそうだった。

分不相応な一人の女が、自分の人生を揺るがすのに耐えられなかった。
だから否定し、苦しめた。

泣かせると、心が安らいだ。
自分の人生が無事であることを、その涙が確かめさせてくれる気がしたから。

けれど、ただの一瞬も、あの女が消え去ることを願ったことはなかった。

今振り返ると、本当におかしな話だった。

目障りなら、片付けてしまえば済むことなのに。その簡単な道を、考えてみることすらなかった。

あの女が傍で、泣くことを望んだ。

永遠に、彼のレイラとして。

何も知らない、あの男が

森の道の終わりで、マティアスの視線がぴたりと止まった。

そこに立つ男もまた、歩みを止めて彼を見つめていた。

彼のレイラが愛した男——カイル・エトマンだった。

カイルは、興奮していなかった。
会いさえすれば殺してしまうかもしれないと思っていた相手なのに、いざ目の前にすると、心は限りなく冷たく静まり返った。

この男のせいで泣いていたレイラが、真っ白な頭の中に浮かぶ。

「好きよ」

公爵から彼を守るための嘘のようだったが、そこに込められたレイラの心を、カイルはとっくに見抜いていた。

ビルおじさんの小屋を訪ねた日、あの男と一緒にいるレイラを見た瞬間に知ったのだ。
あの子が、公爵を愛していることを。

公爵がどんな手を使おうと、心のない男に抱かれるくらいなら、いっそ死を選ぶ女。
それがレイラだから。

「あの人を好きなの」

その言葉がカイルの胸に、あれほど痛い棘となって刺さったのは、そのためだった。
口にしたレイラ自身さえ気づいていなかったかもしれない心を、カイルは知っていた。

その言葉を聞いたあの男でさえ知らなかった真心を、よりによって、カイルが知っていた。

そのすべてを知るカイルが失わなければならなかったレイラを、
何も知らないあの男が手に入れた。

手に入れても、自分が得たものが何なのかさえ知らなかったあの男が。
あの子を壊して、結局失った、あんな男が。

本当に…… 笑える話だ。

一瞬でも、人間であったことが

握りしめていた拳を緩めて、カイルは大股で歩いた。

互いの表情が分かる距離で立ち止まり、少し驚く。

酔っているにしてはあまりに刃のように鋭く、
そうでないと信じるには、あまりに彼らしくない姿だった。

——レイラの人生をこうも台無しにして、さぞ満足でしょうね。

怒りを抑え込み、カイルは冷笑した。

今頃後悔でもしているのか、それとも公爵の人生の汚点として残る前に自ら消えてくれて、ほっとしているのか、と。

「……知らないようだな?」

表情のない顔で、公爵が静かに言った。

「レイラがどこへ消え去ってしまったか。結局、カイル・エトマン、君も知らないということだな」

そして、微笑んだ。

背筋が寒くなって、カイルは思わず唇を噛んだ。少し前まで病人のようにやつれていた男が、今は本当に楽しそうに笑っていた。

「狂った野郎」

吐き捨てても、公爵はただくすくすと笑うだけだった。

追い詰められたレイラが生活の場を捨てて逃げたことよりも、彼女がカイルのもとへ行かなかったことの方が重要であるかのように。
相変わらず、どんな手を使ってでも、手に掴みさえすればいいとでもいうように。

その姿を前に、最後の戦意まで手放したカイルは幻滅に満ちた声で、冷たく問うた。

「あなたの目にレイラが一瞬でも人間であったことがありましたか?」
「欲しい物のような存在ではなく、人間です! 感情があり、考えがあり、夢がある、本当に一生懸命生きようと努力していた人間として見えたことがありましたか!」

公爵は一瞬笑みを消し、怒鳴りつけるカイルをただ見つめていた。

何の感情も込められずに輝く青い目は、鳥肌が立つほど冷たかった。
一体、どんな答えを期待していたのだろう。
自嘲して、大きく息を吸い込む。

懸命に抑え込んだ涙の分だけ、憎しみは大きくなった。

——どうしてあんなことができたのか。
あの子は。

レイラはあなたを愛していた。

危うく口にしかけたその言葉を、カイルはもう一度、溜め息とともに飲み込んだ。

永遠に知らないままでいること

今からでも止められないのか。あの男は必ず君を壊す。

あの日のカイルの哀願に、レイラは答えた。
俯いた顔から流れ落ちていた涙を覚えている。

「分かってるわ、カイル」

すべてを知っていても、馬鹿みたいに。ただこんな男を、馬鹿みたいに。

あなたにはレイラを探す資格すらない。
だから今までそうしてきたように、立派な自分の人生を生きればいい。

軽蔑の眼差しで、カイルは告げた。

結婚式は来月だったはずだ、ヘルハルト公爵夫妻の輝かしい前途を喜んで祝福しよう、と。
微動だにしない公爵に、会釈さえして見せた。

「高潔で優雅に、達者で暮らせよ、このろくでなしめ」

その一喝を最後に、カイルは公爵を見送った。
あの男が永遠に、レイラの心を知らないままでいるよう祈った。

それが、カイルがあの男に与えたい罰だった。

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