🌹 本記事は『バスティアン』原作98話をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分は原作の表現を引用しています。
ついに皇女とクラウヴィッツ夫人が出会った。
その噂はあっという間に宴会場全体に広まった。
かつて一人の男を巡る恋敵だった二人の従姉妹の再会。
今夜、皇宮に集まった客の誰もが待ち望んでいた見世物だった。
皇女との再会
形式的な安否の挨拶を交わした皇女が、本格的な演技を始めた。
「あの頃の私は、本当に分別がありませんでしたわ」
過去を回想するイザベラの顔に、穏やかな微笑みが浮かんだ。
幾重にも周囲を取り囲む群衆を観察したイザベラは、
やや芝居がかった態度でオデットの手を握った。
「ずいぶん遅くなってしまいましたが、ごめんなさい、オデット。
過去の私の過ちを許してくださいますか?」
「その件はもうとっくに忘れてしまいました。
殿下、私は大丈夫ですから、お気になさらないでください」
オデットは、すでに決められている答えを淡々と述べた。
屈辱的な過去を消し去り、一国の王太子妃としての威厳を確立すること。
イザベラの目的は明確だった。
そのために動員されたのだから、ただその役割に忠実であればいいことだった。
「では、これからは良い友人として過ごしましょう」
皆の視線がオデットに集中した。
オデットは頭を下げて皇女の手の甲に口づけをした。
—— 忠実な臣下であり、友。
新しく与えられた役職を受け入れるかのように。
「クラウヴィッツ少佐が帰国したら、お二人をベロフ王室の客として招待したいのですが……」
「愛していますわ、ニコライ。あなたと結婚したことは、私の人生で最高の祝福ですわ」
イザベラは感激に満ちた告白とキスで、丹念に準備した芝居の締めくくりを飾り付けた。
バスティアンからベロフの王太子へと相手が変わっただけで、
皇女の愛はあの頃と同じように熱烈に見えた。
サンドリンとの再会
役目を終えたオデットがその場を離れると、
シャンデリアの光の下でサンドリンが近づいてきた。
「お疲れ様、オデット。プライドがかなり傷つくことだったでしょうに、よくやり遂げましたね。最後までバスティアンのために最善を尽くしてくれた功績は忘れません。
お礼は、お金が一番でしょう?
あなたに一番必要なものですからね」
オデット黙っていた。
サンドリンは平然と自分の話を続けた。
偽りの妻の立場を思い出させる時に、よく見られる話し方だった。
「楽しいひとときをお過ごしください、ラヴィエール嬢」
オデットは礼儀正しく挨拶を終え、サンドリンから離れた。
バルコニーのフランツ
宴会場の端にあるバルコニーにたどり着いたとき、後を追う気配があった。
バルコニーのドアを背にして立っていたのは、
予想通りフランツ・クラウヴィッツだった。
「あの時の提案、考えてくれましたか?」
「何度考え直しても、私の答えは変わりません」
バスティアンが戻ってくる前に海外に逃亡するのを手伝う、望むなら家族と一緒でもいい、自分の恋人になってくれるならいくらでもそうしてあげると、フランツは言った。
外出するオデットの後を追ってきた日も、
無理やりキスをしようとした前回の美術展でも同じだった。
その不名誉な出来事でできた腕のあざを隠すために、
オデットはしばらくの間、長袖を通さなければならなかった。
「そんなこと言わないでください。あなたにはもう僕しかいないじゃないですか」
「愛しています、オデット。まだ私の気持ちがわからないのですか?」
体が覚えている恐怖に息が詰まりそうになった頃、
バルコニーのドアが勢いよく開いた。
真っ青な顔をしたトリエ伯爵夫人だった。
「驚かないで聞いてね、オデット」
フランツは、その隙に逃げるようにバルコニーを後にした。
「アルデンヌから連絡が来たわ。ディセン公爵が、つまりあなたの父親が危篤だそうよ」
「……そうですか」
オデットは静かに答え、遠い空を見つめた。
厚みを増す雲が月を隠していた。
雨を予感させる天気だった。
ティラの告白
ティラは病室の前に置かれたベンチの端で、うずくまってすすり泣いていた。
「心の準備をしておいたほうがいいと言われたのだけれど。
本当に状況はそんなに悪いの?」
「ええ。たぶん、そうするべきだと思うわ」
父の健康は、この春を境に急激に悪くなり始めた。
長年病床に伏せていたことによる合併症のせいだった。
何よりも、患者本人が生きる意欲を失ってしまったのが大きな問題のようだ、と主治医は言った。
「早く病室に入って見てきて」
「お父様は私に会いたくないはずよ」
「せめてお父様の最期は看取りなさい」
ティラは今年の夏、無事に学校を卒業した。
首都に戻ってくると思っていたが、意外にもカルスバールに定住する意向を明らかにした。
もはやティラの保護者でいられなくなる日が来るかもしれないという事実を考えれば、
なおさら一人で立つ力をつけるべき時が来たということだった。
「お父様を無視してあなたの心が楽になるなら、そうしてもいいわ。でも、今のように罪悪感に苛まれて生きるのなら、手遅れになる前にきちんと償いをしなさい。お父様のためではなく、あなた自身のために」
「でもお姉ちゃん、今はだめ。どうしてもそうできないの」
ティラは震える両手で腹を抱えながら後ずさりした。
「ティラ、私が理解できるようにきちんと説明してちょうだい」
「ごめんなさい、お姉ちゃん。実は、私、子どもを授かったの!」
悲鳴のような告白が、雨音を圧倒した。
鋭い鐘の音が鳴り響き始めたのは、ほとんど同時だった。
父の病室から聞こえる非常呼び出しだった。
—— 死にゆく父と、結婚もせずに子どもを身ごもった妹。
最悪に最悪を重ねた不幸は、現実感がなかった。
いっそ悪夢を見ていると信じるほうが、よほど合理的にも思えた。
「クラウヴィッツ夫人!」
呼び出しを聞いて来た看護師の叫び声が沈みかけていた意識を呼び覚ました。
「トリエ伯爵夫人の家に行きなさい」
オデットは冷たい命令を最後に、その場を後にした。
さらに激しさを増したティラの泣き声が聞こえてきたが、
これ以上時間を無駄にすることはできなかった。
オデットは振り返らず、病室に向かって走った。
まずは、父のことを考えるべき時だった。
それが正しいことだった。
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